前編
夢に外界の音が忍び込んでくることがありますね。ある冬の夜、びゅうびゅう鳴る電線の音に着想を得て書いた小説です。
昨日の夜ですか。
もう、風が凄かったですよ。
戸袋の隙間から入って来たのが、電気の傘を揺らすってくらい。
鼻の奥がつうんとしてねえ。
明日は雪かな、って思ってました。
私、酷い冷え症なんです。
手だの足だの、体の端っこがきいんと冷えて、
毎晩まるで氷のようです。
せっかく早く布団に入って、
手足を擦り合わせたり、湯たんぽ抱いたりするんですが、
一向に寝つけませんで、辛いです。
昨日なんか特に酷くて、
手足が痺れて、感覚が無いくらいでした。
やっとウトウトしたのが、
たしか、夜中の三時頃ですよ。
意識がすうっと遠くなって、
ああ、やっと眠れるな、
そう思ったときでした。
ごうごう鳴る風に混じって、
わーんって、高く
電線が鳴る音が聞こえてねえ。
ああ、嫌な音だなって思っていると、
やっぱりと言いますか、
その嫌な音が、夢の中に出てきたんです。
泣き声に似ていたんですかね、
赤ん坊の姿をしていました。
夜道に赤ん坊がいるんですよ。
それも人っ子ひとり通らない様な、
周りを林に囲まれた暗い山道、その道端に、
赤ん坊がひとりぼっちで泣いてるんですから、
まるで妖怪の子泣き爺です。
明晰夢ってやつですかね。
これが夢だと分かりながら見る夢。
私もそのとき直感的に、あ、あれだ、
電線が風に鳴る音だと分かったので、
こんな気味悪い赤ん坊、
無視して通り過ぎたんですよ。
するとね。
木がごうごう鳴る音に混じって、
わーん、わーんと泣く声が
どこまで行っても着いてくるんです。
もう私怖くってねえ。
夢とは分かっていても、夢中で走って逃げました。
そうすると、もう押し被さるような勢いで、
そこら中から、わあわあわあわあ泣き声がして、
そのものすごい音が、私を追ってくるんです。
まるで津波に追い立てられるような気持ちで、
後ろを見る余裕もなく走り続けたんですが、
もう逃げきれそうもない、
もう少しで捕まってしまう、
その寸前に私、意を決して
後ろを振り返ったんですよ。
後編は明日の夜投稿します。
よろしければ結末までお付き合い下さい。