4.色々なフラグを折ることに成功したようです。
アタシが目を覚ましたのは、明らかに自分の部屋とは違う部屋。
ベッドだって身体が沈むくらいふかふかだし。
それに、腕が重いと思ったら、アタシの腕には小型の魔力補給具が着けられていた。
…魔力補給具は本来なら魔力の弱い大人が補助のために使うものだけど、子供の魔力の欠乏ならこれで充分補えるそうだけど、家にそんなものはない。
「えーと…」
「おー!起きたかシエルー!」
「ぐぇっ?!」
ヘリオドールが飛びついてきて、カエルの潰れたような声を上げてしまう。
「ヘリオ、痛い、痛いって…」
「だってよー、お前赤ちゃん産まれた途端に倒れんだもん!こっちはびっくりして、ホント…ビックリ…」
「……ヘリオ?」
「うぇえぇえ~…生ぎでだ…っ無事でよがっだぁ~!」
ほぼ濁音で、鼻水と涙で顔をぐっちゃぐちゃにするヘリオドール。
こいつが泣いてるのなんて初めて見た。
「シエル…」
「ルー…えーと、おはよう」
「うん…うんっ…おはよう…!」
元々赤くなっていたのに、更に泣き始めたルーベライト。
「二人して泣かないでよ、もー」
あれから、どうなったのかというと。
まず、母子共に健康で、無事だったらしい。
実は親子よりもアタシの方が状態が悪くて、魔力を分け与えられるほどの能力を持った人がいなかったのだそう。
だから、物置にあった魔力補給具を使って治療がされて、一晩眠っていた、と。
アタシとヘリオドールの家には連絡が入れられているとのことで、身体が戻るまではいられるようにしてあると、何とびっくりあの冷たい声の使用人に言われた。
「この家が、才能ある坊っちゃんに対し不当な扱いをしているとは、分かっておりました。また、私もただ一人つけられた教育係としてはあまりに自分勝手な未熟者だった…」
「い、良いよ…放っておいてくれたおかげで、シエルと出会えたんだ。それより…これからもシエルと会っても良い…?」
「それは…」
「父上は、ボク…ううん、オレのことを一任してるはずだ。だから父上や母上に聞く必要なんてない」
…驚いた。
いつも自分をボク、と言って、アタシ以外には怯えていたのに、ゲームと同じように自分をオレと言って、強い目で使用人の男を見ているなんて。
成長したんだね。これなら人間嫌いも少しはまともになりそうだ。
「…分かりました。ただし、そうするのなら条件がございます」
「何?」
「せめて護身術各種と剣技を身につけて頂きます。森には時折モンスターも出現致します故」
「…魔法は?」
「申し訳ありません。クォーツ家の使用人は皆、貴族の末端以上が雇われておりますので…」
「それに家族で一番魔力が高いのもオレだったっけ…じゃあ、誰も使えないんだね。分かったよ。言ったものくらいは覚える」
頷くルーベライト。
「なら、それまではアタシも来ないようにする。邪魔したくないから」
「…シエルが来るのはいいでしょ?」
「……この年齢であれだけの魔力を放出し続けられるのならば、危険は少ないと思われますが…しかし…」
「魔力が完全に戻らないと、何かあっても対処できないから…ルーも頑張っててよ」
「…分かった」
そんな約束をした僅か一ヶ月後にルーベライトは町にやってきた。
驚くアタシとヘリオドールに向かって、ちゃんと約束通り護身術と剣技を覚えてきたんだよ、と言ったルーベライトは、やっぱり天才肌なんだと思う。
…同時に、各種武術の練習で日に焼けた笑顔は、もう、あの虐待された男の子とは思えないほど明るくなっていた。
ちなみに。
アタシやヘリオドールがクォーツ邸に遊びに行った時、あの使用人さんに聞いたことだけど、それまでされていた精神的虐待やネグレクトは、ルーベライトが精神的に強くなったことと、勉強をしたことで正論での反論が出来るようになって落ち着いてきたらしく、時折あったらしい肉体的虐待も、彼が強くなったことで収束を見せつつあるらしい。
…今ではまともに鍛錬をしていない成人男性なら伸すことが出来るとかで、そんな子供に暴力を振るえば返り討ちに遭うことは想像に難くない。
問題はもっと成長した時に起きたという、反吐が出るような性的虐待だけど、今の勢いで行けば何だかそのフラグもへし折れてる気がする。
町に来られるようになってから、アタシと魔法の勉強を独学でやり始めたから、簡単な魔法なら無詠唱で使用出来る。
その魔法を使って正当防衛として身を守ることも可能だからだ。
人間嫌いで女性を弄ぶ青年になるフラグはほぼ折れたし、一応の目的は達成できて、本当に良かった。