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0.悪役系ライバルに転生したらキャラの属性が変わっていたらしい。

乙女ゲームへの成り代わり転生トリップ。

それが私の前世、ネット上の小説で一時期流行っていたジャンルの一つ。


成り代わる対象は、ヒロイン、サポートキャラ、攻略対象、悪役、ライバル、ただのモブなどバリエーションは豊かだった。


更には性別が転生前と変わってしまったり、転生した人がその世界に多くいるパターンもあったりして、意外と似たようなものは少なかったりしていた。


その実体験をしてしまった私が成り代わっていたのは、よりによって悪役。

もっとも、性別は女性のままだし、自分で言うのもなんだけれど、かなり容姿が整ってるから、モブにはなれないことは確かだった。

…ヒロインやサポートキャラになるよりはまだいいかも知れない。

私は乙女ゲームのヒロインになんてなれそうにないし、サポートキャラほどコミュ能力が高いわけでもないから。


我儘を言うなら、ライバルがいるゲームに転生したかった。

ライバルの方が、まだマシな道筋を辿ることが出来るパターンが多いからだ。


…はぁ。


私が主に出てくるルートは、よりによってメインヒーローのルート。

そのルートでもそうだけど、最終的にはどのルートでもろくなことがない。


メインヒーローである彼は、ヒロインが現れず順当に行けば私の伴侶となる予定の人。

そして、私は破滅を避けなければならないのに、彼を好きになってしまった。


「…どうすればいいの…ヒロインが現れたら…ううん、ヒロインが転生者ならまだいい…偽物の好意だったらあの人は気付けるわ…だけど純粋なヒロインならあの人が取られてしまう…そんなの嫌…あの人と出会う前にヒロインを消す…ううん、それなら他の女に取られることだって…だったら私がいなければ生きられないように…」


「おいコラ」

背後から軽く蹴られて、私の身体が柔らかい絨毯の上に転がった。


「ブツブツブツブツ独り言で病んでんじゃねぇよそこのヤンデレ予備軍。それともなんだ、アタシの周りは病むことに関しては天性の才能を持つ人間だらけか」

女性にしては低い声で、そして冷めた目で私を見下ろしている彼女。

細く長い脚で見た目に似合わないヤクザキックをして来たのは、今の私の従者だった。


この世界は、中世ヨーロッパに似ていても、主従関係がそこまで重視されていないため、不敬罪や侮辱罪への罰が軽い。

だからって、主を、しかも女性を蹴り飛ばすなんて、何て従者。


もちろん、彼女もゲームに出ていたけれど、そこまで暴力的な従者じゃなかったような気がする…。


「ひ、酷いじゃない…」

「アンタが危ないセリフを呟いていなかったら、このまま放っておいてもよかったんですがね」


彼女は市井の出身だけれど、いろいろな才能に秀でていて、私と同い年なのに普通に私の従者をしている。

その分、努力もしているのだろうけど。


「とりあえず主がとんでもねぇことやらかす前に止めるのも、従者の役目ですから」

「…そ、そうは言っても蹴ること…」

「そうでもしないと止まらないでしょう。ったく、精神年齢はとっくにアラサーなんだから、しっかりして欲しいものだけど」

「……え?」


「何、気付いてなかったの?アタシの幼馴染がアイツで、それも一切女に手ェ出してなかったってのに?相変わらず周りを見てないって言うか、猪突猛進というか…ま、詰めが本気で甘いから救いようはあるけどさぁ…」


はぁ~、と深すぎるため息を吐く姿に、見覚えがある。


「委員長…」

「お前実はアタシの前世の名前覚えてないだろ」

「……」

「前世のアンタとは小学校入学前からの付き合いで、好きなものも一緒で、惚れっぽいアンタの恋愛相談に何度も乗って、失恋の憂さ晴らしに何度も付き合って…世間一般的には親友というくくりであるはずのアタシのことを、アンタは恋愛成就した途端すーっかり忘れて、ボケみたいな彼氏にどんどんのめり込んでったよね。そいつがクラスの委員長だったアタシと喋っていたからと、アタシに嫌がらせをした。アンタが忘れても、アタシは覚えてるんだけどね」

「…うぅ…」

「ま、今のアタシは委員長だったアタシじゃないし、いちいちそのこと持ち出されるのもウザいからいいんだけどさ」


そうだ、そうだった。

昔…前世では小さな頃から一緒の女の子がいた。

真面目で面倒見が良くて、男勝りで、気の強い、恋をしていなくても幸せな彼女。


私は彼女に何度も我儘を言ったし、好き勝手をした。

この世界を元にしたゲームを、乙女ゲーをプレイすることもあるとはいえ、彼女の食指に合わないのを知ってて無理矢理貸したこともあった。


「……だから、私は悪役に転生したのね」

「ああ、因果応報ってやつかもね」

「…うっ…」

「ま、ヒロインらしき子はまだいないし、いいんでない?今度こそ、アタシを巻き込まずにまともな恋愛してちょうだいな」

「…でも、ヒロインが転生者じゃなかったら…」

「だから何。もし転生者でも心が綺麗で純粋な、何も知らない子が転生してるかもしれないし、転生者じゃないのに逆ハーレムを狙おうとするかもしれないし。アンタの妄想癖は相変わらずネガティブだよね」

「……」


う、うぅ…もう何を言っても敵わない…。


「…床に這い蹲ってないで、とりあえずは立ったら?貴女の愛しの彼が様子見に来るでしょうし」

従者モードに切り替えた彼女は、さすがだと思う。


…そういえば、彼女の幼馴染は攻略対象だったような…。


「ね、ねぇ」

「…はい?」

「貴女の幼馴染は…えぇと…」

「……チャラ系担当、だったんだけどもねぇ…」


また、深いため息。


「?だった…?」

「…反吐が出るようなエグい、ヤツの設定上の過去、覚えてる?」

「…た…確か…貴族の三人兄弟の次男で…本当は才能が兄より…というかむしろ一族の誰よりも秀でてるんだけど、そのせいで逆に周りから虐げられてきてて…」

「そう。その上なまじ綺麗な顔のせいで、屋敷内なら誰彼問わず慰み者紛いをさせられていた、攻略対象中トップクラスの、歪まない方がおかしいような過去持ち。子供の頃は女性どころか人間恐怖症、ある程度成長してからは立派な人間嫌いになって、容姿を使って女を弄び始める、とまぁ、一度攻略したら二度と攻略したくないような、乙女ゲーには珍しく甘くないチャラ系攻略対象」

「え、ええ…よく覚えてるね…」

「他はぼんやりでもあのルートは強烈すぎて覚えたんだっての」

「……でしょうね」


彼女は昔から曲がったことが大嫌いな、正義感が強い性格だった。

だから余計に忘れられなかったんだと思う。


「あぁ、それでね。この世界の人間として生まれ変わった以上は、アイツが少しでも歪まないように出来ないかとかさ、色々アタシも暗躍したわけよ」

「…でも、貴女の出自は一般人じゃ…」

「一般人の子供だから出来ることがある。例えば、屋敷に忍び込むとか」

「えぇ?!」

「案外簡単だったよ。内側は歪んでたけど、一応外聞上は後ろめたいことがない一族だから、警備も甘い。領地内にある森からならすぐ入り込めたし」

「……」


そうは言うけれど、確か彼の生まれた領地の森は、迷いやすいって有名なはずなのに…。

警備だって…貴族なんだから甘いわけがない。


「…最初はさ、攻略対象だから、いつか現れるヒロインがせめて苦労しないようにしてやろっかな、って程度だった…って、そこで過剰反応しないでくれる?」

ヒロイン、と聞いて肩をビクつかせた私のおでこを人差し指で軽く突かれる。


「ごめんなさい、続けて」

「ああ、うん。それだけの理由で、幼いアタシはアイツの屋敷に忍び込んだんだ」


それでもよっぽどの覚悟がいるということは、この際今は黙っておくことにする。


「…でも、どの段階だったかは分からなかったけど、まだ歪むことを知らずにボロボロ泣いてるアイツみたら、思ったより情が湧いちゃって…心から笑って欲しいと思うようになった」

「……」

「一度目は、忍び込んで声をかけてきたアタシに泣いてたままの目を見開いて怯えてた。当たり前だよね。同じ子供である兄貴からも虐められてたんだし」

「…それで?」

「その時はそれで終わり。人も来そうだったし」

「うん…だと思う…」

「二度目は何もしないって分かってるから、怖がられはしなかった。けど、やっぱり人が来かけて、逃げた」

「…うん…」


タイミングの悪さで意外と苦労してたみたい。


「三度目は、どんだけ警戒解いたのってくらい簡単に、アイツはアタシを屋敷に入れた」

「え?!」

「何もされないように逃げるのが上達してたアイツの通る道は誰もいなかったから見つからなかったんだ。それにアイツの部屋、鍵も付けられてなかったのに、どれだけいても誰も来なかった。それどころか親のネグレクトのせいもあってか何もなくて…アタシの部屋よりも寂しかったよ」

「酷い…」

「けどその間、色々と話せたよ。名乗れたのはその時」

「二回とも、逃げてるものね…」

「逃げてる言うな。ま、事実だけど。帰る時にまた来て、って少しだけ笑ってくれたのが、嬉しかったのをまだ覚えてる」

「……」

「あー、話がズレたね。ともかく、そんな風にしてたおかげで、アイツの人間嫌いは少し緩和されてるんだ」

「そういえば、前に見た彼は…普通の男性だったわ。ナンパもなかった」

「…見た目、っていうか…アタシが関わらなきゃ、普通に振る舞えるんだけど…」

「うん?」


また、深い溜め息。


「ただ、入り込んで手を加えたせいで、アタシ限定のヤンデレ系になってしまいましたとさ」

「……え」


チャラ系担当が、ヤンデレ系に?


「それも、依存から始まり、執着、嫉妬、時折自傷、とまぁちょっと気をつけてないと手ェ付けられないレベルだから」

「…それは…」

「ヒロインが現れた時のために何とか矯正しようとしてんだけどねー…ほら、ルート入った後半の一途なトコあったでしょ」

「えぇ」

そこからは、誰よりも一途だった気がする。

女性関係を全部切って、普通の純粋なデートをするイベントがあったのは思い出せる。


「そのせいで滅茶苦茶難しくてさー」

「あー…」

ヤンデレはなかなか矯正出来ないって言うのが前世でもテンプレだった気がする。


「死亡フラグは立ってない感じだからいいんだけど」

「…そう…?」

少し間違えたら死亡フラグなような…。


「だから。アンタもそう悲観的にならずに、自分なりに努力すればいい。見た目だって所作だって綺麗だし、ヤンデレが発動しなきゃ、性格だって今はまともなんだから」

「…な、何かちょっと引っかかるよ…?」

「本当のことでしょ。それに、ヤンデレになる人って、健気で一途なのが多いと思う。ゲームでは、あの王子サマはヒロインのそういうところに一番惹かれてたんだし…アンタが頑張ればいけると思うんだよ」

「……」

「ゲームシナリオの強制力はここでは働いてないんじゃない?じゃなきゃ、アイツは今頃ヤンデレじゃないはずだし」

「言われてみれば…」


「というわけで頑張ってくださいな。せっかく王妃の第一候補なんですし」


そう。

私が今いるここは、実はこの国の城からほど近い場所にある後宮。


様々な立場の女性が集められていて、王族ではあるものの、遠い親戚すぎて今の王や王子との血の繋がりが薄い私もまた、その候補というわけだ。

もっとも、幼い頃の親戚付き合いで、メインヒーローであり、この国の次期国王となる彼とは幼馴染のようなものなんだけど。


本来なら、魔法の概念があるこの世界では、魔法の才能が少しでもあればコントロールの勉強も兼ねて魔法学院に通うんだけど、上流階級になればなるほど、それは逆に難しくなってくる。


礼儀作法やら何やらを学ぶため、家庭教師に習ったり、学校に通ったりすることが優先だからだ。


…あ。


本来ならそろそろ通える年齢で、庶民出身の彼女が私の従者をしているのって…。


「ん、どうかした?」

「…ううん、何でもない…」


頭のいいヤンデレが相手だと、大変なんだと思いました。

…言ったらまた蹴られそうだから、言わないけれど。



読んでいただき、ありがとうございました。


0話だけをUPしておりますが、それはこの小説が「乙女ゲー転生トリップ」という、皆様が食傷気味なジャンルであるためです。

なので、反響が多少でもありましたら、従者視点での物語を展開していくつもりです。


初投稿日に同じような内容をどこかに書いたんですが、何故か消えていたので書き直し。

今(10/7)時点でもお気に入りに入れてくださる方がいらっしゃるので、0話に戻るまでの話だけは随時投稿したいと思います。

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