続・男の料理番組
スポットライトがキッチンの前にいるエプロン姿の若い女性を照らしている。
「皆さんこんにちは。一文字岩鉄先生のクッキングエルボーの時間です」
軽快な音楽と共に、若い女性がテレビカメラに笑顔を向けた。
「それでは一文字岩鉄先生に登場してもらいましょう!」
若い女性が手をスタジオの隅のほうに伸ばすと、テレビカメラが一斉に向きを変えた。
その先には黒い道着に身を包んだ筋骨隆々の男が腕組みしてスポットライトに照らされている。
「本日はまず、武道を修めている先生の実力を皆様に見てもらいます」
男の前には一メートルほどの台が二つと、その台をつなぐように固定された日本刀があった。
「これより先生には、二つの台の間ををつないでいる日本刀の刃の上を渡っていただきます。それでは先生、どうぞ!」
若い女性のセリフが終わると、男は大きく深呼吸してから台に登り、日本刀の上に足を静かに乗せた。
表情を変える事無く、少しの停滞もない流れるような動作で、全くふらつく事無くわたり終える男。
そのままキッチンまで来た男に若い女性が感心したように話し掛けた。
「すごいですね先生、やはり日頃の修行の成果ですか?」
「うむ、日々の鍛錬で精神の力、つまり忍耐力を鍛えていたからこそできることだ」
ふと若い女性が床を見ると、男の足元に赤い血だまりが広がっていた。
「それでは先生、今日はどのようなメニューですか?」
「今日はサラダで勝負する」
「サラダはヘルシーですね。それでは先生、よろしくお願いします」
「うむ、まずはレタスを食べやすい大きさにちぎる」
「レタスを一口大にちぎります」
男は豪快にレタスを丸ごと二つにちぎった。
「そして人参を食べやすい大きさに折る」
「そして人参を、え? 折る?」
男は人参を掴んでへし折った。
「次にじゃがいもを食べやすい大きさに割る」
「割る?」
気合一閃、男は手刀でじゃがいもを二つに割った。
「最後にかぼちゃを食べやすい大きさに砕く」
「砕く?」
男の正拳が唸りをあげ、かぼちゃが砕け散った。
「よし、完成だ」
二人の前の皿には野菜の破片が山のように盛られていた。
「先生、ドレッシングなどはかけないのですか?」
「なんだそれは」
「それではまた来週」