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相羽総合サービス業務日誌3  作者: 笠平
プロジェクトマネージャー・小畑憲 篇
4/11

Ⅳ・異世界デビュー

「あなたは……あの時僕に力を授けてくれた聖女…………に良く似てますが……少し老けてますか?」

「よーし、そこへ直れ。早速もう一回死んでもらおうか」


 突如現れた女性は、突然放たれた小畑の失礼な言動に怒りを露わにする。


「わわわ、ごめんなさいごめんなさい」


 放たれた気迫に圧される小畑。


「なんと、既に日本式の土下座までマスターとは。つくづく飲み込みが早いな」

「で~……あなたは? 何故僕の事を?」

「私か。お前と同じだよ」


「はぁ?」


「お前は約15年前、バダンド大陸イースリアであの子に力を貰い英雄となった」

「?!」

「私はその1年後あの子に心を貰い社長となった」

「というとあなたもすでに……」

「そういうことだ。それがあっちの世界かこっちの世界かの違いだ。微々たるものだろう」


 その短い説明の中で小畑は納得する。ここが自分の住んでいた世界とは異なる世界――異世界であるのだと。


「じゃあこの身体は?」

「所謂、転生というやつだ。小畑憲、学生時代に負った心の傷で殻に閉じこもったと聞いている」

「そうですか……僕は無意識に一人の人間を殺して乗っ取ってしまったのですか……」


 そっと黙祷し、謝罪の念を心の中で強める小畑。

 女性はその様子に溜息を洩らしながら訂正を述べた。


「勘違いするな。乗っ取ったわけではない、同化に近いんだ。意思の強さでベースはお前にあるが、殺したわけではない。時間はかかるだろうが記憶も共有されていくはずだ」

「え……そうか、良かった」

「ふふ。社会に役立てもしないニート青年にそこまで肩入れするとは、世界を救ったお優しい英雄様の思考だな」

「なんとでも言ってください」


 その安堵する様子をどこか懐かしげな表情で見つめた女性は、改めて本題を告げた。


「さて、私がここに来たのは道楽でも、お前の異世界観光案内の為でもない」

「え、違うんですか?」

「アホか。最初に言っただろう、スカウトしにきたと」

「え? ……僕に仕事を紹介して頂けるんですか?!」

「ああ。申し遅れた、私の名前は相羽由紀枝。この世界で株式会社という商人の集団を率いている者だ」

「カブシキガイシャ……?」

「まぁ説明は面倒なんでギルドのようなものと思ってくれて構わない」

「は、はぁ、良く分かりませんが了解致しました。喜んで精一杯働かせてもらいます! ……えーと、代表とお呼びすればいいのですか?」

「……社長だ」

「はい、社長!」


 僅か1日の間で、英雄からニートとなった男が、サラリーマンとなった。

 常人では考えられない波乱万丈な経歴である。


「さて、早速だが提出してもらう書類と、仕事の顔合わせをしてもらう。車に乗ってくれ」


 相羽社長が自らの愛車を指さし乗るよう促した。

 朝から自動車に興味津々であった小畑は喜々としながら乗り込むべく助手席のドアに手をかける。


「コラマテ。違う、そっちじゃない」


 その瞬間、相羽社長の豪拳が小畑の顔面にめり込んだ。


「……ぇ、な、なんで?」

「悪いな、そこは指定席なんだ。後ろに乗ってくれ」


 この世界独自のルールなのだろうか。それでも殴るのはあんまりではないかと思いつつも相羽社長の指示に従う小畑。

 軍隊において、目上の命令には絶対服従が当たり前の世界で育った小畑にはさしたる疑問もなく後部座席に乗り込んだ。



◇◆◆◆◆◆



「はじめまして、小畑憲です。イースリア出身、25歳。得意なものは剣術、体力には自信があります。苦手なものは計算など頭を使う事です。宜しくお願いします!」


(……ミクだ)

(……ボーカロイドですかぁ)

(……おいおい、会社にキャラシャツかよ)


 静まり返った新規事業の初顔合わせミーティングにおいて、突如相羽社長が連れてきた異色の青年の存在は、場の空気をさらに重くさせた。

 よりにもよって、奇妙な恰好で現れた何の実績もない素人を新規事業プロジェクトのトップに据えるのだという。

 招集された3名のプロジェクトメンバーは複雑な気持ちを抱いていた。


 小畑は元気よく自己紹介を終えると、相羽社長の隣に着席し、周りを見渡す。


 右隣に相羽社長、左隣には三柴という色香溢れる副社長が座っている。

 正面にはこれからの仕事で小畑の部下となる3名の男女。


 小畑から向かって右端、森山という男。余裕のある顔つきはどことなく英雄時代の戦友・ライトに似ていた。

(……特にあの口の曲げ方なんかそっくりだ)


 正面の平井という女性。短めな茶髪からは活発な印象を受ける美人だが、終始小畑を仇を見るような目で睨み付けていた。

(怖いなぁ。サキが大人になったらこんな風になりそうだけど、なんか僕悪いことしたのかな?)


 左端の江藤という女性。サラサラの黒髪が清楚さを感じさせる。入室時から小畑の顔を食い入るように見つめていた。

(こっちもマイそっくりだ。ははは、なんか昨日の事なのに懐かしいや)


「小畑は私自らがスカウトした優秀な人材だ。森山さん、年上として思う所もあるかもしれないが、長年の営業経験を活かして補佐に当たってほしい」

「うっす」


「平井も江藤も、会社においてはお前たちが先輩だ。チームの士気に関することならコイツが上司だろうといつもの調子でキツく当たっても構わんからな」

「元よりそのつもりです」

「分かりましたわぁ」


「それではこれにてミーティングを終了いたします。プロジェクトの開始は来年度の初日、新入社員入社式終了後と致します。小畑さんはこのまま残ってください、入社手続きを行います」

 三柴副社長が解散の声をかけると、相羽社長、続いて森山が早々に会議室から退出する。

 小畑は三柴副社長より書類を受け取り着席するが、平井と江藤がまだ部屋に残ったままだった。


「えーと、平井さんに江藤さんでしたっけ? 僕に何か?」

「はぁぁ、アンタというヤツは。そうですか、そうきますか我がプロジェクトマネージャー様は」

「先輩……何でですかぁ……」


 小畑を囲む二人の女性は明らかに様子がおかしかった。


「お二人ともどうしたのですか? ミーティングは終わったのですよ。私的な話であれば小畑さんの入社後に存分にしてください」

「三柴さん、スイマセン……ちょっちワケありでして」

「申し訳ありません~」


 二人は小畑に顔を寄せると、小声で話しかけてきた。


「アンタね~、まぁいいわ、ここでは黙っていてあげる。後で待ってるからキッチリ説明しなさいよ」

「ワタクシも納得いける説明を求めますぅ」


 そして退出していく2人。


「小畑さん、お知り合いでしたか?」

「……いえ、まったく」

「なんなのでしょう。新人にポジション奪われたからって腐るタイプではないはずなんですが」

「さぁ、僕も気になります」

「まぁプロジェクトの揉め事をまとめるのもリーダーの仕事です。しっかりと励んでくださいね」

「はいっ、頑張ります!」



◆◇◆◆◆◆



 小畑が帰宅した時にはすっかり日も沈んでいた。

 駅は近い、という説明を受けたが地理が全く理解できない小畑は結局転移術を用いることにした。

 自身の念を埋め込んだポイントに瞬間移動が可能となる、英雄としての異能の一つだ。


「ただいま帰りました」

「ケ、ケン~、こんな遅くまでどこ行ってたのよー?」

「そうだぞ、外出は嬉しいがあまり母さんに心配かけるんじゃない」


 心配そうに玄関に駆け寄る両親の姿に、驚きの連続だった小畑の1日の疲れが癒されていた。


「ごめん、父さん母さん。ニュウシャテツヅキって奴に手間取ってさ」

「入社手続き……ってアンタ本当にバイト探してたの?」

「ううん、バイトじゃなくセイシャイン採用だって」

「え?」

「今まで心配かけてごめんね。来月からしっかり頑張って働くから」


 息子が見せた数々の入社手続きの書類。

 嘘ではないことが証明される。


「……母さん」

「はい」

「寿司だ。特上を大至急だ。あと喜久水の特別大吟醸あっただろう、あれも出しなさい」

「はい」

「そうだ、ご近所にも配ろう。特にお隣の平井さんの所にも大分ご迷惑おかけしたしな」

「はい」

「母さん?」

「……は……い」


 あまりの嬉しさに感情を爆発させる父親と、放心して倒れ込む母親。

 あわや寿司屋ではなく119への電話をかける事態になりかけたが、この喜びは終始尽きることなく続いた。

 長年引き籠った一人息子の突然の就職。

 その吉報は小畑家の冷え切った人間関係を修復させるには十分の出来事であった。

あとがき)

なんとか期日更新完了。

今週は余裕出来るハズなので、推敲と更新頑張りますー。

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