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相羽総合サービス業務日誌3  作者: 笠平
プロジェクトマネージャー・小畑憲 篇
10/11

Ⅹ・過去――運命の日

転換話 この程度の描写ならセーフですよね??

 ~5年前――2009年某日



 その空間は外部と断絶し、あたかもこの世のありとあらゆる悪意が集約しているのではないかと感じられる。

 これは悪夢だ。幻影だ。何かの間違いだ。

 小畑は何百回、何千回と心の中でそう繰り返す。

 しかし、その悪意の根本たる何者かは小畑が視線を逸らすことを許さずにいた。

 逃げ出すことも顔を叛けるも、指一本動かすことすらできない。


 幼馴染みの少女が苦痛と恥辱に塗れ、泣き腫らしたながらも虚ろな目で小畑を見据える。

 いつもの気の強さ、快活さが微塵も感じられない。


 後輩の少女は呆然とした様子で、ただ同じ動作を機械的に繰り返す。

 トレードマークである可憐で清楚な笑顔が別人のように消え失せている。


 小畑の魂がゆっくりと喰われていく。

 忘れたい……封印された記憶。



◇◆◆◆◆◆



「ケン~、起きなってぇ」

「ぅーーん、あと5分」

「いやいや講義もう終わってるし……」

「母さん……あと5分だけ……むにゃ」


「誰が母さんじゃぁ!」

「ぐぼっふ」


 静まった大学の講義室の一角。

 気の強そうな顔立ちの少女が、幼馴染みの細目の少年を『叩き起こしている』。

 見慣れた光景なのか、室内に残っていた顔馴染みの幾人かからは生暖かい眼差しが向けられていた。


「もう~、沙希さん。ヤメテくださいよぉ~」

「麻衣子……今日は早いわね?」

「『早いわね』じゃありませんよぉ。沙希さんがこんな風だから夫婦喧嘩なんて風説の流布が広まるんですよぉ」

「ふ……ふーふげ……」


 気の強そうな顔立ちが一転、入室してきたこのおっとりした少女の発言により顔を真っ赤に染め言葉を詰まらせる。


「まったくもぉ。人様のカレシを横取りするなんて沙希さんはとんだ泥棒猫ですわぁ」

「……カ、カレシってアンタ」

「もぉ。先輩大丈夫ですか。はい冷たいタオルと甘いドリンクも用意してありますよぉ」


 優しい手つきで先輩の頬を挟み、ひんやりとしたタオルでそっと顔を拭う。

 いつの間にか二人の世界が構築されていた。


「ってちょっと待ちなさい!」

「はい~?」

「誰と誰がカレシとカノジョですって?」

「もちろん先輩とワタクシですよぉ」

「だぁぁ、黙って聞いてりゃいけしゃあしゃあと」

「何ですかぁ、無関係な方は割り込んでこないでくださぁい」


じゃれるように喧嘩を始める少女たち。間に挟まれぼんやりする少年。

これもこの講義室では見慣れた光景なのだろう。

 誰が見ても分かる三角関係の現場。


 誰もが呆れたように苦笑している平和な午後。


 しかしこの講義室にたった一人……悪意を向ける男がいた。


(なんでアイツだけ……あんなぼーっとしたツラで。平井さんも江藤さんも独占なんてフざけるな!)


 その男は親の仇を見るような鋭い眼差しを向ける。

 しかしその時はまだ、この嫉妬にしては逸脱した気迫に気付く者は誰一人いなかった。


(ムカつく……殺す……ムカつく……殺す……ヒライサンモエトウサンモ……オレノモノダ)



◆◇◆◆◆◆



 その日の夕方。

 小畑は幼馴染みの少女たちと別れ、馴染みの本屋を物色していた。

 愛読している漫画の新刊がまとめて発売する日だ。

 小畑はそうキラキラした目で彼女たちに告げると、阿吽の呼吸ですぐさま「いってきなさい」と手を振られ見送られた。

 

 小畑はその時その瞬間を一生後悔することとなる。

 買い物中に小畑に届いたメール。そしてその添付画像に、囚われた二人の姿があった。

 場所はどうやらいつもの講義室らしい。

 らしいというのは背景の雰囲気からだが、心なしか照明具合がいつもと異なるのが気になった。しかし今はそれどころではないと、急いで現場へ急行する。


 写真を見るとどうやら拘束されているだけで何もされていない。

 そのことに安堵しつつも、大切な二人に何かあったとしたら死んでも死にきれない。


 そして走ること5分。大学がようやく見えてきた。

 敷地へ一歩足を踏み入れる。


――何かがおかしい。


 空気の臭いが。

 空気の色が。

 空気の重さが。

 明らかに日常感じているものと異なる。


「サキっ、マイっ、無事か!」


「ケンっ!」「先輩ぃ!」


 小畑は何事もされていない様子の二人を見ると、ほっと安堵し二人へ近づく。


「来ちゃダメ!」

「後ろですぅ!」


 その瞬間、小畑の首を掴んでいたのは、『何かの手』だった。

 鱗と青い毛に覆われた獣の手……まるで竜の手だ。

 爪が鋭く掴まれた小畑の喉に浅く食い込む。

 一滴、また一滴と滴り落ちる小畑の真っ赤な血液。


 少女たちの顔が刻々と歪みはじめた。


「待ってたぜぇぇ、小畑ぁ」


 その手の持ち主は、あろうことか人語で小畑に話しかけてきた。

 真っ赤な眼球は半ば顔から飛び出している。

 口は半分以上裂け、獣の如き牙がギラリと光る。

 ――異形の鬼。


 しかしその声、その口調は聞きなれたものだ。


「ま……まさか永森……なのか?」

「ふん、そんなことはどーでもいい」


 異形の化物からは級友の声、級友の口調が返ってきた。

 永森。小畑の小学校時代からの幼馴染みの一人……そのはずだったが。


「さぁて、平井。そして江藤。今すぐ着ている服を全部脱げ、下着もなっ」


 異形の化物は小畑の首を掴んで持ち上げたまま、少女たちにそう命令した。


 少女たちは無言で目配せをする。

 大切な小畑の命を盾にされている。

 そしてありもしないオカルトの力、異形の生物。


 小畑を盾に取られた瞬間、少女たちの拘束は自動的に解かれた。

 こんな不気味な力……魔法じみた力……現実じゃない。


 ――逃げたきゃ逃げろ。


 相手の意思は分かるが、今大事なのは小畑の命だ。

 少女たちは自分の立場を悟る。


 ゆっくりと、戸惑う手つきで脱ぎ始め……、

 雪のようなその裸身を化物の前に晒す。


「ケン……ごめんね。初めてあげられない……かも」


 少女は化物を睨み付ける。

 その両目には大粒の涙が滲んでいた。



 そして地獄の宴が始まる。



◆◆◇◆◆◆




 虚ろな目の幼馴染みと後輩を前に小畑はただ願う。



「俺の全てを失くしても良い」



「むしろそんなものいらねぇぇ」



「だから二人を……二人を助ける力を……」



 小畑はどこまでも強く願った。



 遠く未来まで願い続ける。

 小畑の身に降り注ぐ希望が顕現するその瞬間まで。


丁度中間話。

小畑篇はあと10話ほどで完結予定です。


追記)アレ・・・大学生って『少女』じゃないな、そーいえば。

  まぁツッコミ入ったら修正します。

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