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第四話:さよならおっちゃん

 おっちゃんを捨てて清々した唯は、うきうき気分で家に帰った。すると、もうすでに両親は帰宅していて、食料品のいっぱい入ったビニール袋を床に置いている。


「あ……帰ってたんだ……」


 というと、お母さんは怖い顔で唯の顔を見てくる。

 いつも微笑んでいる分、怖さは三割り増しだ。


「……唯、おっちゃんは?」


 まるで、唯がおっちゃんを捨てに行ってたことがわかっているかのような口振りだった。

 嘘をついてもどうにもならない。そう判断した唯は、しょぼーんと意気消沈しながら本当のことを言う。

 おっちゃんを林に捨てた、と。

 すると……怒りを見せたのは意外にも母親ではなく、父親だった。


「こらっ!! 唯!!」


 いつも変態でうひうひぐひひひ笑っているだけのくそ親父が声を荒げたので、唯の心臓は飛び上がった。

 親父は怒っている……というよりも、寧ろ悲しむような顔で唯にのしのしと近付いてくる。


「いくらおっちゃんのことを気に入らなくてもなあ、命有る生き物を捨てるだなんて、それは人として最低なことだ!!」


 親父の息は臭かった。

 それを差し引いても、親父の言うことは珍しく正論である。

 唯がすっかり怖気づいてしまって、へなへなと床に座り込むと、親父は唯の肩にぽんと手を乗っけてきた。


「今からならまだ遅くないよ。おっちゃんを、拾っておいで」


 ……真面目な親父の言葉は、唯を走らせるくらいの威圧感を帯びていた。

 息が切れるのも気にせず、唯は走って走って林にいく。

 すると、おっちゃんは何故か『ひろってください』と書かれたダンボールの中に入っていた。

 いつ見ても何度見ても情けない姿である。


「……あんたなんかを拾ってくれる人なんて、居る訳ないでしょ! ばっかじゃないの!?」


 そんな冷たい言葉を吐きかけたのにもかかわらず、おっちゃんは大喜び(?)で『グボエェ! グボエェ!』 と鳴いて、よちよちと唯の足の周りでコサックダンスを踊った。

 唯はハアアァァ~と大きくため息をついて、おっちゃんを抱き上げた。

 さっきの乱暴な掴み方とは正反対の、優しくて慈悲すら感じられる抱き方だ。

 不思議なことに腕の中のおっちゃんは暴れることも涎を吐くこともせず、黙って唯の顔を見ている。

 コイツは、おっちゃんは気持ち悪いし、涎吐くし、ブサイクだし、どんな生物なのかもわからないけど。


 けど。


 しばらく、飼ってやってもいいかなあ~……なんて、唯は思った。






 そしてその日の深夜。

 皆が寝静まっているはずなのに、リビングからお父さんの笑い声のような悲鳴のような声が聞こえてくるのが不思議で、唯は目を覚ました。

 おそるおそるリビングを覗くと、そこには……。


「あひゃあああああああんっ!! らめえぇぇぇっ、あぁぁっ、いいよぉ、いいかんじだよぉ、そこぉ、そこ凄くいいよぉおおぉぉっ!! ウッヒャヒャエェェエエエエ!!」


 股間にマーガリンを塗りたくり、おっちゃんに舐めさせているオヤジの姿があった。



 ――その日から少女、山田 唯はグレはじめた。





 PS:いつの間にかおっちゃんも脱走しちゃいました☆


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