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第三話:おっちゃんとあいつ



「グボエェ……」


 捨てられたおっちゃんは力なく立ち上がる。

 だが、どれだけ周りを見渡しても唯の姿は見えず、またおっちゃんはアホなので唯の家への帰り方も覚えていない。

 おっちゃんは少しだけ悲しそうに鳴いて、ゲロを吐いた。

 吐瀉物を片付けようともせず、おっちゃんはよちよち歩いて林の周りを探検した。

 ……すると、そこには、ダンボールの中に入れられた小さな犬が居た。ダンボールには『ひろってください』とマジックペンで書かれていた。

 おっちゃんは何かを思いついたように『グボッ!』と鳴いて、自分もダンボールの中に入ろうとした。

 子犬一匹しか入らないくらい小さなダンボールだったので、子犬は当然迷惑そうな顔をしている。

 が、おっちゃんは子犬を無理やりダンボールから引きずり出して、自分がダンボールの中に居座った。


「グボェッ!」

「くぅーん……」


 ドヤ顔のおっちゃんと、しょんぼりした子犬。

 しばらくすると林に小学生が何人かやって来て、おっちゃんと子犬を取り囲んだ。


「うわあ~。わんちゃんだ! かぁわいい~」

「私、それ飼ってもいい? ペット飼いたいところだったの~!」


 おっちゃんはキラキラした目で小学生を見つめる……が、小学生が手に取ったのは当然子犬である。


「グボェ……」

「うわっ、なんだよこいつっ、キモッ!!」

「気味悪いぜ! さっさと逃げよう!」


 去りざまに蹴られ、そしてまたおっちゃんは一人になった。

 静かである。林の木々が風で揺れる音が聞こえてきて、おっちゃんはもう一度『グボェ……』と切なげに鳴いた。

 すると、どこからともなく、ぺたぺた、ぺたぺた、という足音が風に乗って聞こえてくる。

 そして、目の前に、卵に足がついたような生き物が現れた。

 ……いや、生き物、というには語弊があるかもしれない。なぜなら、彼は生きていなかったのだから。


「はじめまして、こんにちは。俺はぴょーに。君と同じ、ゆるきゃら、さ」


 ぴょーにと名乗った卵は、おっちゃんに握手を求めた。

 だが、おっちゃんには『ゆるきゃら』という言葉の意味がわからず、握手をするのは一旦やめておいた。


「グボェッ! グボエェェッ!!」

「残念だが、君は『犬』じゃない。君は『ゆるきゃら』だ」

「グボエェェェッ……」


 そんな!! おっちゃんはカルチャーショックを受けました。

 今までずっと、自分は犬だと思っていた。なのに、ゆるきゃらなんていう訳のわからないカテゴリーに入れられるものだっただなんて……。

 思えば、唯ちゃんも自分に対しての態度がちょっときつかったかもしれない。それは、自分が犬じゃなくてゆるきゃらだったからなのか!! ちっくしょー!!

 ぴょーにみたいなブサイクと自分が同類だなんて、ちょっとおっちゃんには信じられなかった。


「ところで失礼なことを聞くが、君は捨てられたのか?」

「グボェ……」

「そうか……。人間はゆるきゃらに対して酷いヤツばっかりだもんな」

「グボエエエエエエエエエエッ!! グボッ、グボエェ!!」


 間接的に唯ちゃんを馬鹿にされた気がして、おっちゃんはぴょーにに怒りをぶちまけた。

 確かに唯ちゃんに捨てられてしまったけれど……、でも、唯ちゃんは大好きなマーガリンをくれた。

 そのことは、おっちゃんにとって覆しようのない幸せな事実なのである。


「おやおや、そりゃすまないね。でも、俺は君を怒らそうとしてそんなことを言ったわけじゃない。

 君に知ってほしかっただけなのさ。俺たちがゆるきゃらだ、ってだけで、人間は酷いことをする……って」


 考えてみれば、そうかもしれない。

 もしおっちゃんがおっちゃんではなく、先ほどの子犬のような可愛いワンちゃんだったとしたら、唯ちゃんに捨てられることは無かったのかもしれない。

 仮に捨てられても、あの子犬のように、また誰かに拾ってもらえたのかもしれない。……小学生に蹴られることはなかったのかもしれない。


「どうだ、悪いことは言わない。俺たちと一緒に来ないか? 俺たちが目指す場所には、人間は居ない。誰に虐げられることもなく、仲間たちだけで楽しく過ごしていけるんだ」


 ぴょーにの提案は、すごく魅力的だった。

 だけど、おっちゃんは静かに首を横に振った。


「そうか……残念だよ、おっちゃん。でも、俺はいつでも君を歓迎している。俺に会いたくなったらいつでも俺を呼んでくれ。すぐに飛んでいくよ」


 本当に残念そうに言って去っていくぴょーにの背中に、おっちゃんは言葉を投げかけた。


「グボエェ! グボエェ!!(訳:人間の暖かさってヤツを、お前にも教えてやりたいよ、ぴょーに。)」


 ぴょーには一度だけ振り向いて、優しく微笑んだ。

 そして音もなく消えた。






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