第一話:おっちゃんが家にやってきた!
今日は12月31日!!
誰もが知ってる大晦日!! だけどね、私の誕生日でもあるの!!
うふふ、プレゼントは何かなあ。お父さんは何を買ってくれるのかなあ。
いや、お母さんに『唯ちゃん、誕生日プレゼントは何がいい?』って聞かれたとき、即行で『犬!』って答えたから、たぶんプレゼントは犬だろうなあ。
そんなことを思いながら、少女――唯は階段をぽてぽて降りて、リビングに向かった。
そしてリビングに入ると、思ったとおり美人のお母さんとキモいお父さんが笑顔で迎え入れてくれて。
「お誕生日おめでとう、唯ちゃん!!」
「はぁはぁ……唯たんも10歳になったんだね……うふふぅ、うふふぅぅ。はぁはぁ……ッぷにろり可愛いよぉ、ぷにろりぃ……」
唯は父親の発言は華麗にスルーして、お母さんの体にむぎゅーっと抱きついた。優しくて良い匂い。
くりくりした目で『誕生日プレゼントは!? おい! こんなクソ親父より早く誕生日プレゼントが見たいんじゃ!!』っとお母さんに訴えかけると、お母さんはクスクスと微笑んで、大きな箱を取り出してくれた。
「そうよね、唯ちゃんもお誕生日プレゼント楽しみよね」
「おっ、おぉっ、お父さんが選んだんだよぉ~ん……可愛い生き物だから、お父さんだと思って可愛がってねぇ~……」
可愛い生き物!!
その単語に、唯の心は高鳴った。可愛い生き物っつったら犬だろ!! 犬だろ!! 当然犬だろうな、オイッ!
可愛いっつーんだから柴か? チワワか? コーギーか? あ、ラブラドールレトリバーも可愛いとは思うが、それにしてはちったぁ箱が小さすぎる。ああ、でも子犬なのか? なら別に不思議はねえ。
心の中でさまざまな犬の種類を思い浮かべる。
だが、どれもみーんな可愛くて、例えどんな種類の犬が出てきても、唯は喜んでその犬を愛せるだろう。
唯はニコニコ笑いながら、袋の包装をあけた。
すると、箱の中でワンちゃんが動いているのが感じられた。
ああ、可愛い……可愛いよワンちゃん!! 唯が箱を開けたら、すぐさま『わん、わんっ』て可愛く鳴いて、唯の胸の中に飛び込んでくるんだね!!
喜びで破顔しながら、箱を開けた。
すると、中から出てきたのは――。
「ぐぼぇっ、ぐぼぇっ!!」
「嫌ァァァァアアアアアアアア!!!!」
思わず唯は泣き叫んだ。
白い肌にはぽつぽつと蕁麻疹のようなものが浮かび、可愛らしい顔は一気に青ざめる。
箱の中から出てきたのは――犬ではなく、謎の生物だった。
まるまるとした肌色の球体に、二本のか細い足がついている。顔はなんか情けないおっさんのような顔をしていて、まるで犬耳のような感じで頭の両サイドに黒々とした毛がついているのが逆に目障りだった。
「なななななな、なにこれぇえええ!?!!? 犬じゃなくて何!? この生命体は何ぃいいいい!?」
「はっはっは、何を言うんだ唯たん。どっからどう見ても可愛いワンちゃんじゃないか!」
「ワンちゃんじゃないよおおおおおお!!」
「ワンちゃんじゃなかったらおっちゃんだね!! うん、顔がおっさんっぽいから、この子の名前はおっちゃんだ!」
と、娘の涙の訴えにも動じず、糞親父はへらへら笑っておっちゃんの頭をでれっと撫でた。
親父の手がおっちゃんの頭に触れたのと同時に、おっちゃんはどろっと涎をたらした。
「嫌ァァァァァアアアアアアアアア!!!!」
そう、唯の嫌いなものランキングは、
一位、親父
二位、涎
三位、携帯でサ行を押そうとしたら間違えて電源ボタンを押しちゃって長文がパーになるあの瞬間。
なのだ。
嫌いなもの二位にあたる涎を垂らす生物を、一番嫌いな親父が撫でている……。
唯にとっては、地獄絵図でしかない光景だ。
「おがあざあああん、ごんないぎものがだんじょうびぶれぜんどなんでいやだああああああ!!」
涙のあまり、濁点だらけの台詞になってしまった唯は、母にすがりついた。
しかし、母は困ったような顔をして。
「でもね、唯ちゃん……生き物はきちんと育てなきゃ駄目よ?」
「そんなぁっ! そんなぁっ!」
「そうだよお唯たん、おっちゃんを可愛がってあげてよぉお~~ッフヒィッ」
「嫌アアアアアアアアアアアア!!!!!」
親父が手に持ったおっちゃんを、唯の可愛い顔に押し付けてきた。
べちゃり、べちゃり、ぬちゃり……と液体音が鳴る。涎が唯の顔中に塗り広げられる。
唯は、失神した。