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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
母さんの墓参りにいく▢

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30/38

第30話

 俊介との交際は順調に進んで、互いが大学を卒業したタイミングで同棲を始めた。


 その頃には呼び方も、宮原さんから俊介くんへと変わっている。


「ねぇ俊介くん見て。ウユニ塩湖だって」


 二人とも仕事を終えて、帰宅した夜。真奈美が指差すテレビには、地面一杯に広がる鑑が青い空を映し出すような幻想的な光景が映し出されている。


「何度見ても、綺麗なもんだよね」


「ほんとにね、一生に一度くらい生で見てみたいなぁ。リストに入れておこうかな?」


「? リストって」


「死ぬまでにやりたいことリスト」


「ああこの前の映画の奴か」


 それは少し前、俊介と一緒に見に行った映画で、余命僅かと宣告された主人公が自作していた『死ぬまでにやりたいことリスト』に書かれた事を親友とともに実行し、残り僅かの人生を謳歌する、という内容のものだ。


「作ってるの? リスト」


「ううんまだ。でもそのうち作ってみようかなって」


「俺はあんまりいいとは思えないなぁ。なんか死ぬための準備してるみたいで、縁起悪くない? 映画は面白かったけど」


「そう? 私はいいと思うよ。人生、次の瞬間どうなっちゃうのかなんて分からないし。いざってとき、リストがあれば迷わなくて済むでしょ? 私、死ぬ間際になってあれをやっておけば良かったって後悔したくないし」


「そう言うもんかなぁ。まぁ真奈美のやりたいなら、やってみてもいいとは思うけど」


 そう言って俊介は着替えを片手に、リビングを出てお風呂場へと向かっていった。


 ……うーん、今日でも無かったか。


 真奈美は、口には出さず内心で少し残念がる。


 少し前、休日に気まぐれで部屋の大掃除をしていた時。


 タンスの中身を整理していたら奥からある物を見つけた。


 それは指輪ケースに入った指輪だった。それも同じデザインのペアリング。


 真奈美の方はこんなものを買った覚えは無い、そもそもこの手のアクセサリーは普段からあまり付けていない。


 そうなるとこれを買ってきたのは俊介と言うことになるが、俊介だって普段からアクセサリーを付ける趣味は無かったはずだ。


 そんな俊介がどうして同じデザインの指輪を二つ、それもタンスの奥に隠すようにしまってあったのか。


 と、そこまで考えてピンッとくる。


 二つある内の、一回りだけ小さい方の指輪を手に取り内側を覗いてみると、俊介と真奈美の名前が英語で彫り込まれていた。


 少しドキドキしながらその指輪を自分の左手の薬指へとはめてみると、サイズはばっちりで指輪はすっぽりと真奈美の指に収まった。


 ははーん、そういうこと。


 二人が付き合い始めてから、もう五年。そろそろそういうことを、俊介が考えていたとしても何らおかしくは無い。


 真奈美は口元をニヤニヤさせながら、二つの指輪を何事も無かったように、元あった場所へと戻した。


 そんなことがあったのが、今から大体一週間前のこと。


 壁に掛けられたカレンダーを確認する。


 今日は十一月の最終日、明日の朝には十二月になる。


 そうなると、本命はクリスマスか。


 一体どんなプロポーズをするつもりなのだろう?


 夜景の見えるホテルのレストランで、スーツを着て指輪を差し出す俊介を想像する。


 その時になったら、なんて返事をしよう?


 普段のお返しもかねて、一度断ってみようか? そうすればあたふたする俊介という珍しいものを見れるかもしれない。


 そんなことを想像して、また口元が緩む。


 なんとなく、辺りを見回してみる。


 ……この部屋、二人だと十分だけど子供が出来たりしたら手狭になりそう、引っ越した方がいいかな?


 なんて、無意識にそんな皮算用をしている自分が急に恥ずかしくなって、一人ソファなの上でもだえる。


 人生、次の瞬間どうなっちゃうのかなんて分からないし。


 ついさっき、そんなことを自分で嘯いておきながら。


 その時の真奈美は、そんな幸せな未来が来ることを当たり前のように、これっぽちも疑がっていなかった。

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