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アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
家族に会いに行く▢

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第20話

 渡されたお土産の中身は、東京ばな奈というそのものズバリ、バナナの形をした焼き菓子だった。


 何やら洋風な感じがしたので普段は滅多に出さないティーセットと、紅茶を棚の中から引っぱり出す。


 そうして、お茶の準備をしながら。


「自分で誘ってといていうのもなんだけど、ありがとね手伝ってくれて。あ、そこのお盆取ってくれる?」


「いいえ、気にしないで下さいこれくらい。お盆はこれであってますか?」


「そ、ありがとう。それから、父さんも言ってたけど、さっきはごめんなさいね、みっともないところ見せて」


「大丈夫ですよ。お義父さんと喧嘩してるっていうのは、前もって聞いていましたし。それに―」


 真奈実は何か、微笑ましいものでも見る様に表情を綻ばせ。


「やっぱり、家族なんですね」


 そんなことを口にした。


「あんな風にムキになった俊介くん私、初めて見ました。それにお義姉さんと話す俊介君はいつもより、リラックスしてる気がします。なんて言うか、素が出てるというか」


「そう? あたしらの前では大体あんなもんよ。まったく恥ずかしいったらない、なんのかんの言って根っこが子供なのよね、あの二人」


「確かに俊介くんは結構、子供っぽいところ有りますけど。お義父さんもそうなんですか?」


「子供も子供よ。俊介のことにしたって、結局は拗ねて意地張ってるだけなんだから」


「それだけ、距離が近いってことじゃないですか? 喧嘩するほどなんとやら、ですよ」


「距離が近すぎて、岡目八目って感じもするけどね。お互い素直にごめんなさいすれば済む話だと、あたしは思うんだけど」


「そうかもしれないですね」


 そこで真奈実は、ふふっと可笑しそうに笑い、


「――ちょっとだけ、うらやましいです」


 そう呟いた。


「あら、ひょっとして妬いてるの?」


 からかい口調でそう聞くと「少しだけ」と、真奈実は照れくさそうに言った。


「私は俊介くんと、結婚しましたけど、やっぱり本物の家族には叶わないなって」


「そりゃ婚約者と、生まれた頃からの家族じゃ好意のベクトルも違うわよ。それにあなたたちは、まだこれからじゃないの。時間が経てばその内、嫌でもこんな風になるわよ」


 て、あたしが言っても説得力がないか。


 四年で離婚した、バツイチ女にセルフで突っ込みを入れる。


「時間が経てば……そうですね、時間が経てばそうなれたのかも」


 誰かに聞かせるつもりで言ったわけでもないであろう、独り言のような呟き。


 その言い回しに違和感を憶えた。


 まるで自分たちには、時間が無いとで言っているようなそう聞こえる。


「なにぃ? もしかして俊介に何か不満でもあるの?」


 それとなく探りを入れてみる。


 すると真奈実は慌てたように、自分の顔の前で手をパタパタ振った。


「え? いえっ、そんなことは全然!」


「そう? なにか表情が暗いような気がしたから」


「……すみません」


「別に謝らなくたって良いわよ。でも、不満じゃないにせよ、何か気になることがあるんじゃないの? ほら、マリッジブルーっていうじゃない? どうしても不安になったりしちゃう時もあるでしょう」


 て、だからどの口が言うか、どの口が。


 もう一度、自分に突っ込みを入れるが、言っていることに間違いは無いし嘘も無い。


 弟の妻と小姑の関係でしか無いが。真奈実が何かを悩んでいるというのなら、出来ることはしてやりたい。


 そう思える程度には友恵は真奈実のことを気に入っていたし、何より二人には自分の様な結末は迎えて欲しくない。


 自分が一度失敗しているからこそ、その思いは切実だった。


「まっ、お節介かもしれないけどさ」


 最後にそう言って話を締めると、真奈実はやがて窺うようにおずおずと口を開いた。


「私、少し不安なんです……私は彼に、なにをしてあげられるんだろうって」


 良いながら段々と、真奈実の顔が俯いていく。その表情は俊介達の喧嘩を見守っていたあの時とは違い弱々しい。


「結婚することになったけど、俊介くんは本当にそれを望んでいるのかなって。私と結婚することが彼にとって幸せなのかなって。そんなことを考えてしまって……」


「……ねぇ、真奈実ちゃん」


 声を掛けると、真奈実は俯いてしまっていた顔を上げて、友恵のことを見る。


「真奈実ちゃんってさ、俊介から結構からかわれたりしない? それも割と子供っぽい、しょうもないことで」


 そう訪ねると、心当たりが会ったのだろう、真奈実は少しだけ困った様な愛想笑いを浮かべた。どうやら心当たりはあるらしい。


「それね、誰にでもやるわけじゃ無いのよ。あいつってさ、周りからは大人びてるとか、しっかりしてるとか、言われる事あるけど、実際はそうじゃないでしょう?」


 殆ど決めつけに近い質問だったが、真奈実は遠慮がちに首を縦に振って、同意の意を示した。


「あなたはさっき、あんな俊介は初めて見たって言ってたけど、それはあたしも一緒だったのよ、実は」


 イマイチ実感が無いのだろう、話を聞く真奈実は少しぽかんとした表情をしている。


「あなたと話す俊介の顔は、私達や、健一くん達と話している時とは、違うものだった」


 具体的な根拠はといわれたら困る。なんとなくそう思えただけだから。


 しいて根拠を上げるとしたら姉としての感としか言い様がないが、それでも確かに今日の俊介はいつもと何処か違ったように見えた。


「あいつさ、こっちに引っ越してきたばかりの時、どうも学校に上手く馴染めなかったらしくって。私やお母さんがどうかしたのかって聞いても、大丈夫の一点張りだったけど、ムリしてんのが見え見えで」


 当時小学五年生だった俊介は高校卒業と同時に引っ越しをした友恵とは違い学校へは、編入という形で入学することになった。


 子供の絶対数が少ない田舎の小学校だ、学年が上がったところで、クラスの顔ぶれなんてそう大きくは変わらない。小学五年生ともなると、すでにグループは殆ど固まっているし、田舎というのそう言った繋がりが密で強固な傾向がある。


 東京から突然編入してきた俊介は地元の子からしたら、二重の意味でよそ者だった訳である。


 俊介なりに、家族へ気を使っているのか、表面上は何事も無いように振る舞っていたが、そんなもの身内から見れば取り繕っているのは丸わかりで。それでも俊介は自分から弱音を吐いたり、つらそうな素振りを見せようとはしなかった。


「末っ子らしく、文句を言うなり、我が儘言うなりすればいいものをって、いつもそう思ってた」


 大人びていて、しっかりした子。


 俊介はは周囲からよくそう言われていた。


 しかしそんなもんの、ただ大人ぶってるだけだ。


 宮原友恵にとって俊介は小器用なだけで大人ぶった見栄っ張りで、素直じゃなくて可愛げのないガキでしかい。


 しかし、だからこそ心配だった。


 小器用に自分の弱味や、気持ちを隠して平気なふりをして、ムリをしていないだろうか? 


 外面ばかり気にして、本当はつらくて泣きたいのを我慢してるんじゃないだろうか?


 そんな風に家族、皆で心配していた。


「そんな俊介がね。家族以外の人の前で喧嘩をしたのよ、私からすればちょっとした珍事よ、珍事」


 清吉と俊介が言い合いをすることなんて、何度もあった。


 だけどそれは、身内以外誰もいない時の話で。人前で喧嘩をするなんてそんなみっともないマネをすることは、一度だってなかった。


 それなのに、俊介は真奈実の前では喧嘩をしたのだ声を上げてみっともなく。

 それはきっと俊介にとって真奈実はそんなみっともない姿を、弱い自分を見せても良いと思ってるという訳で。


 それくらい、俊介が真奈実のことを信頼している証なわけで。


「だからね」


 そう前置いて、ようやく言いたかったことを口にする。


「不安になんて思う必用は無いと思う。あなたはちゃんとあたし達と同じ、俊介の家族よ。少なくとも俊介はそう思ってると思う。大丈夫、姉のあたしが保証してあげる」


 随分と回り道をしたものだと、我ながら思った。


 でも真奈実が抱いていた不安は、一言、二言、励ましたくらいで晴れるものでは無いような気がして。


 気が付けば蕩々と話し込んでしまった。


「と言ってもまぁ、あたしも俊介じゃないし本当のところはわっかんないんだけどさ。大体俊介の方から不満があるとか抜かしたら、まずもってあたしが許さないわよ。こんな良い子を捕まえて」


 急に恥ずかしくなって、最後に冗談めかしてそう言った。やっぱりらしくない事なんてするもんじゃない、顔が熱くてたまらない。


 チラリと真奈実の様子を窺うと、顔を軽く俯かせその表情は窺えなかった。


 まさか、思いっきり引かれたか!


 と友恵が内心戦慄していると。


「ありがとうございます」


 俯いていた顔を上げたかと思ったら、突然お礼を言われた。何のことか分からず友恵は思わず怪訝な表情を浮かべる。


 すると真奈実は照れくさそうにはにかんで。


「嬉しかったです、その、家族って言ってもらえて。御陰でなんだか胸が軽くなったような気がします」


「あ、そう? なら良かったけど」


 まっすぐにお礼を言われて、余計に照れくさくて、返事は少し素っ気ないものになってしまった。


 その時ふと、壁に掛けてある時計が目に入って、友恵はギョッとした。


 お茶を入れてくると言って、居間を出てからもうすぐ、十五分が経つ頃合だ。

「やっば、ちょっと話しすぎちゃった。いそご、いそご」


 いつの間にか止まっていた手を動かし、お茶を入れると、二人は急いで清吉が待つ居間へと戻った。

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