十七作
「直孝様、少しよろしいでしょうか?」
上野白井藩の時から家老役をしている内山政武が来た。
「どうした?」
「実は高虎様が大阪の陣後に大阪方についていた我が一族の者達を捕虜としてお連れくださってまして。
敵方についていた事、こちら方に大きな損害を出した事等を考慮しても後顧の憂いは取り除くべく処刑を推す者達がおります。」
「親族か?」
「同じ内山で、基を辿れば同じ故郷になる者達です。
井伊家には先々代から仕えている方の一族の者ですね。」
「正辰殿の一族か?」
「内山も数が増えてますから断言はできかねます。
ご判断をお願いできますか?」
「わかった、当人達にも話を聞いてみてから判断する。」
こうして捕虜となっていた内山太左衛門兄弟が連れてこられた。
「内山太左衛門、大阪の陣において豊臣方にくみし徳川家並びに井伊家に敵対したそなたらに対して処刑を望む者達がいる。何か申し開きしたい事などあるか?」
「父は討ち死にしました。
武士として負け戦の中で生き残った事に恥ずかしさすら覚えております。ここで命乞いをする等……恥の上塗りでございます。」
太左衛門は勢い良く言いきったがその横では弟が青白い顔で震えている。良く見ると太左衛門も顔こそこちらを睨み付けるようにしているが手元は震えていた。
大阪の陣において直孝の采配の失敗もあり500人も死んだ。敵にやられたと考えれば致し方ないとなるのかもしれないが死んだ者達の家族からすればやるせない気持ちになるだろう。
問題になっているのは、その『敵』の中に『本来は味方』であった者達がいた事である。
直孝からすれば一番重要なのはこの二人の命をどうするかではなく『なぜ敵になったのか』だった。
「では、一つ聞きたい。
なぜ、おぬしらも父親も豊臣についた?
祖父の代から井伊に仕えてくれていたのではないのか?」
「我ら兄弟は祖父より直政様の武働きの話を聞き育ちました。戦場を真っ赤な鎧で駆け回り敵を倒していく。
祖父はその背中を追う事こそ最高の幸せだと語ってました。年老いて合戦に参加できなくなった自分が感じる事ができなかった幸せを我ら兄弟にも感じて欲しいと常々申しておりました。
我らもその未来を夢見て鍛練を積んで来ました。
ですが、直継様に……その夢を見る事ができませんでした。直政様がお亡くなりになり、その背中を追う事ができなかったなら次代の当主にその夢を見るは当然でした。
ですが、その器ではなかった。
父も我ら兄弟も求めたのは共に戦う主君でした。
豊臣が復権を求めて戦うなら秀頼にはその器があるのか期待しましたが淀殿に使われる傀儡でしかなかった。
信繁殿には魅力を感じました。
我らは真田勢に加わり、父は鉄砲隊の指揮をとっておりました。その攻撃で井伊家に多大な損害を与えた。
その責を我らが負わねばならぬのは必然です。」
「待て、鉄砲隊の隊長がそなたらの父だと?」
「そうです、父は直孝様の放たれた銃弾に倒れました。
……父は死の間際に…『あの方の背中なら追っても良かったかもしれぬ』と言い残しました。」
太左衛門も弟も涙を流して言った。父の死の間際の言葉の無念さや父の仇を目の前にして、自分達に待つのが死だと覚悟もしていれば色々な思いが込み上げてくるだろう。直孝は息を吸ってゆっくりと吐いてから
「この者達の処断を言い渡す。
この者達は……私が預かる。」
「殿!それは……」
家臣の一人が反論をしようとしたのを制して
「挑発にのり采配を失敗して多くの者を死なせた咎は私にある。農民が農作物を作って責められるか?大工が家を建てて責められるか?
この者達も武士として敵を倒して責められるのはお門違いではないか?
そんなお門違いで優秀な者を失うほど愚かな事はないだろう。文句があるならまずは私を裁いてからにせよ!」
「直孝様、本当にその処断でよろしいのですな?」
内山政武が確認をいれてくる。
「二言はない。その者達は私の近習とする。」
こうして内山兄弟に対する処断は決まった。
すべては自分への言い訳と罪滅ぼしでしかない事に直孝は唇を噛みしめた。




