十六作
藤堂高虎の突然の来訪と家督の分配についての話が終わると直孝・直継の二人は高虎のために用意された客室へと呼び出された。直孝は気まずい雰囲気で直継と並んで座った。高虎もその様子を見て
「直継、先ほどの俺の意見は心からそう思っての事だ。」
「ありがたき事でございます。」
直継が返すと高虎は真意が伝わっていないように感じたのか首をかしげて頭をかいた。そして
「そうだな、俺は回りくどく言うのが得意じゃない。
俺はもともと浅井長政様に仕えていた。信長に…いや秀吉に浅井が攻め滅ぼされた時に織田でも羽柴でもなく家康様を選んだ。その結果、今の俺がいる。
俺と同じ境遇だった大谷善継は秀吉につき、先の関ヶ原でも西軍にいた。何が二人を分けたのかは俺にもわからない。人の道が分かれるのは必然で抗いようもないのかもしれん。
それでいうなら、おぬしらの道は近くにあったのに交わらず、時代という外部の要因によって無理矢理交わらされたに過ぎない。
仲良くせよとも言わないし、気が済むまで喧嘩しろとも言わない。
たまたま近江の領地が多いというだけでどちらも直政殿の領地に他ならぬ。」
「では、私がこのまま近江でも……」
直継が反論しようとした所を高虎は止める。そして、
「先ほども言ったが俺は浅井に仕えていた。
茶々様……いや淀殿がどんな人なのかも知っている。
お初様やお江様は浅井が攻められた時はまだ幼かったが淀殿は年齢のわりにしっかりとした方だった。
秀吉に対して良い印象を持っているわけもない。
その淀殿が側室になり世継をお生みになられたと聞いた時俺は背筋が凍るほどの執念を感じた。
これは俺の勝手な想像だが、淀殿は………豊臣を完全に滅ぼそうとしているのかもしれない。
家康様は耐え忍び今の立場を作ってこられた。
その過程でたくさんの恩人がいて、秀吉に対しても恩はある。家康様は此度の戦でも豊臣の勢力と影響力を落とす事を主目的にして豊臣を完全に滅ぼそうとはしておられなかった。淀殿もその事に気がついて早々に和睦に舵をきった。
和睦したのにまた反旗を翻せば、次はないとなるはずだからだ。」
「つまり、また戦になると?」
「そうだ、直政殿を子のように可愛がっていた家康様からすればおぬしら兄弟も孫のようなもの。
特に養女ではあったが直継の母は家康様の娘でもある。
できればおぬしらは戦に出したくないのかもしれぬ。
だが、徳川の先鋒として活躍してきた井伊家が戦に出ぬのも士気が下がる。
ならば、より戦場で生き残りそうな方を戦場となりやすい場所に近い近江に配置するのが良いと思わぬか?」
「確かにそうでございます。」
直継は拳を握りしめている。
「それぞれがその才能を活かして生きられる世の中になれば領地が多かろうが少なかろうが関係ないと俺は思っている。
もちろん、直孝に戦場で死んでこいと言ってるわけでもない。向き不向きの話で選ばれただけなのだから生き残れ。これから大阪を中心に暗躍が進むだろう。 そのあたりも踏まえて気を付けよ。」
「かしこまりました。」
直孝が答えると、高虎は笑顔で
「直継、おぬしはおぬしの人生を、才能を楽しめ。
戦に縛られずに生きられる大名など羨ましくて俺が代わって欲しいくらいだ。」
「高虎様に参りました。安中をよき領地にするために尽力いたします。」
「そうだろ、今時は兄弟で争っても幕府が認めねば大名を継げぬしな。住み分けて楽しく生きる方が何倍も良いだろう。」
高虎は笑顔でそう言いきった。
この数日後、直継は自らの荷物と井伊谷からの家臣を連れて近江を出発していった。




