【9】海の街の探索
――――ラクリメ滞在2日目。
「改めてみると至るところに噴水や水路があるのね」
「あ……あぁ、そうだな」
リュヌさまの顔色が悪いのはやはり水が多いからなのだろう。
「水路を避けて歩きましょ」
「だがゴンドラとか興味があるんじゃないのか?」
「そりゃぁ少しはね。でもリュヌさまと一緒じゃないと意味がないでしょう?」
「ツェリ……!ありがとうな」
「どういたしまして。それにね、こう言う路地裏の方が穴場があるかもしれないわ」
「それは言えてるかもな」
白に彩られた美しい町並みを探索していれば早速露店を発見する。
「わぁ、リュヌさま見て!かわいらしいアクセサリーが売ってるわ」
「本当だ。何か買っていくか?」
「いいの?」
「ああ、好きなものを選ぶといい」
「それじゃぁ……」
髪飾りの中にかわいらしい貝殻をモチーフとしたものを見付ける。
「これがいいわ」
「これで頼むよ」
リュヌさまが会計を済ませてくれる。
「毎度あり」
「どうも」
露店商に礼を言えば、リュヌさまが早速とばかりに手を差し出してくる。
「つけるよ」
「う……うん!」
髪越しに伝わるリュヌさまの指の感触。なんだかドキドキしてしまうわね。
「ほら、出来た。似合ってるよ」
「ありがとう!」
「まだ少し歩こうか」
「ええ!」
白が基調の美しい街並みに海の青を象徴するタイルが嵌め込まれている。
「街中の美術館?」
「あー……そうか。ここがそうなんだな。ツェリ」
「うん?」
「この街は街全体が美術館みたいなものでな。街の至るところにこう言ったアートがあるんだ」
「すごいわね!それにとってもきれい!」
「ああ、ここら辺は初めて来たが」
陸地にいると言うのにまるで海のトンネルを通っているようなアーチ。海を象徴するような波の形のベンチ。
「ここなら水が苦手なデュラハンでも楽しめるわね」
「ああ、ありがたいな」
今だってマリンブルーのタイルをなぞって歩くのがゴンドラで水路を進んでいるみたい。
「ここは高台?」
「みたいだな。ほら、街が一望できるぞ」
「わぁ、大迫力!」
水路を行き交うゴンドラ、海の街であることを象徴するような街中の美術館、噴水広場に美しい街並み。
「これもコースターにしてみたいわね」
「お、新作のアイディアが出たか?」
「ええ!」
今からでも楽しみね。それから……。
「リュヌさま、あっちに海が見えるわ」
「本当だ。海だな。俺は両親に全く似ないデュラハンとして生まれちまったけど……大切な俺の半分のルーツだ」
「リュヌさま……」
「こうして遠くからでも見ると安心するんだ。デュラハンだから水が苦手なはずなんだけどな」
「そう言うのってあると思うわ。遠くから見るととても美しいのに近付いて泳ぐとなると恐くなっちゃう……みたいな」
「そう言う考え方もあるな。面白い」
「ええ、リュヌさま」
海を眺めるリュヌさまの表情は、決して帰れぬ故郷に向けたもののようにも見えたけど。
「ここの海なら通れるな」
「ええ」
この街のアートのお陰でリュヌさまもお母さまの故郷に浸れるのね。
「ツェリ、あっちに食べ物屋があるみたいだ」
「うん、いい匂いがするわね」
「これは何の匂いだ?」
しかし近付くにつれて賑やかな声が響いてくる。
「ほーらよっと!たまーにデュラハンの首も転がるたこ焼きだよー!」
「ほーら、首とれたー!イヒヒヒヒーッ!」
「わっ、昨日のデュラハンたち!?」
「何だ、お前らの店か」
「おっ!兄貴にお嫁ちゃんじゃないのー!」
「俺たちのたこ焼き食ってくべ。海の妖精たちが獲ってきてくれたとっておきのタコ使ってんよ」
「わぁ、確かに美味しそうだわ!」
「そんじゃぁ二舟くれ」
うん?注文の仕方も独特ね。海の街だからこそ入れ物の単位も舟なのかしら。
「兄貴のは激辛ソースかけとく?」
「ん、そーして」
たこ焼きにもかけるのね。
「お嫁ちゃんには普通のめちゃうまソースね」
普通と言うのは辛さのことよね。
「ありがとう!美味しそうだわ!」
「中のタコが熱いから気を付けろよ、ツェリ」
「う、うん、リュヌさま」
リュヌさまは棒のような細いピックで器用に食べている。私は慣れていないとデュラハンたちが気を使ってくれたのかミニフォークである。
ミニフォークを使い少しずつ口に食めば。
「ん……ソースも生地も美味しい!タコもぷりっぷりだわ!」
「でっしょー?俺たちの飛びっきり!」
「タコは仕入れだけどねー。俺たち海入れないし」
「ああだけど、アートの海なら通ってきたわよ」
「お嫁ちゃんあそこ見付けたんだねー」
「結構な穴場なんだ」
「あそこなら俺らデュラハンでもすいすい泳げちゃうんだー」
「ふっはは、確かにな」
リュヌさまも楽しそうに笑うのだった。
※※※
海の街の滞在はどこも美しいもの、楽しいものばかりで。
「すっかり満喫しちゃったわね」
「ああ、楽しかったな」
「ええ、もちろんよ!」
私たちのラクリメ旅行は大成功におさまった。帰ったら早速ラクリメのコースターを編んで、お義姉さまにも旅のお話をして……楽しみなことがまだまだたくさん待っている。
最高の新婚旅行だった。




