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妖精公爵と冷遇夫婦生活かと思ったら溺愛体質だった!?  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【2】デュラハンは妖精さんです



――――身体の脇に自分の生首を抱える姿。その様子から昔は魔物と誤認された妖精族。それこそが今目の前で生首を脇に抱えたデュラハンである。


「……あなた、デュラハンだったのね」

「……ああ」

私の視線が脇に行くのを気にしてか、首を定位置に戻す。


「妖精族の種族は遺伝することの方が多いが、稀に思ってもみない妖精が生まれることもある」

妖精王の妃はセイレーンのはずだから……。

「あなたはその稀に生まれた妖精と言うことね」

「そう言うことだ」


「でも……何で隠してたのよ」

「それはその……」

思えば妖精王子は妖精王の子。王になれば妖精王と言う妖精種に強制的になるものだからそれほど細かく大別されることもない。

――――よっぽど目立った特徴でもなければ。例えば目の前の首なし騎士のような。


「でも何でデュラハンだって広まってなかったのかしら」

こんなに特徴的なのに。


「デュラハンの持つイメージが独り歩きして……呪われてるだの悪しき妖精だの言われることの方が多かった」

「悪しきって……それって人間たちに伝わる迷信じゃない」

まだ人間と妖精族が深く関わり合う前、人間たちはそう言った想像を掻き立てたのだ。


「でも……気味が悪いだろう。デュラハンなんて」

「別に気味は悪くないわよ。……夫だし」

「俺のことを夫として見てくれるのか」

「当たり前じゃない」

冷遇夫婦生活と言っても夫婦ではあるのだから。


「それよりあなたこそ……私のこと妻だって思ってる?」

「も……もちろんだ!」

え……と、その、そんなまっすぐに見つめられるとは思っても見なくて。


「だけど普段から無口だし」

「……兜は鎧と固定しているが頷いた時などに万が一中で首が外れたら……恐がらせてしまうと思って」

あれ……良く見れば鎧の首もとに固定具のようなものがある。それで無言を貫いていたのか。


「じゃぁシルフィード公爵令嬢が手を引くのを断らなかったのは?」

「……強い衝撃を受ければ首が落ちる」

そう言うことだったのね……。


「でも彼女はあなたに随分と気があるみたいだけど?」

「それは違う。彼女は……上の兄上2人の婚約者になれなかったから最後の俺をずっと狙ってきた」

「えぇっ!?けど結婚もしたのに」

「兄上2人の時とは違ってもう後には引けないのだろう」

「だからって妻の前で堂々と……あなた、断る気はないの?」

「首が落ちるかもしれない」

「別に気にしないわよ、デュラハンなんだし」

「そ……それなら!次は断る」

「う……うん」

何だかあっさりとそう宣言してくれて拍子抜けしたと言うか、何と言うか。


「それであなた……こんなところまで追いかけてきてどうするつもりなのよ」

「その……明日は仕事だから今日は戻らないといけない」

まぁ彼の予定ガン無視で予定を立てたのは私である。


「だけど明後日なら」

「はぁ……来てもいいわよ」

「いいのか!」

「まぁ……宿の部屋が取れるかどうかはそっちに任せるけど」

「一緒の部屋は……嫌か」

「そ……そう言うわけじゃ。この部屋シングルだもの」

ベッドは大きめだとはいえ夫婦で寝るにはちょっと窮屈だろう。


「思えばそうか」

「だけどその……そんなに一緒に寝たいのなら公爵邸の夫婦の寝室は?」

「来て……くれるのか?寝てる途中に身体だけ寝返りを打つかもしれない」

「……」

確かにそう言う心配もあったわね。


「ベッドから落ちなければ別にいいわよ」

あちらのベッドは大きめなのだし。


「うん……じゃぁ公爵邸の寝室は用意させておこう」

どうしてかリュヌさまの頬が嬉しそうだ。


「それでは今日はもう邸に戻るが」

「ええ」

「その、せっかくの旅行だ。楽しむがいい」

「分かったわ」

冷えきっていると思っていた頃よりは……何だか充実した旅行になりそうなのは気のせいかしら。


そしてリュヌさまがすっくと立ち上がった瞬間。


「あ」

ボロン、頭が転げ落ちすかさず胴体がキャッチする。


「悪い。デュラハンのお家芸だから」

「分かってるわよ」

こうしてみると何だかとっても微笑ましく思えちゃうわね。


※※※


翌日。


「ひとりで悠々と過ごすつもりだったのに」

カチャリ、とコーヒーカップを落ち着ける。


「リュヌさまが来るのが楽しみだと思うなんて」

旅行に来た当初は思っても見なかった。


「贈り物とか……喜ぶかしら」

手に取ったのは編み掛けのコースターだ。


「きっと喜ばれますよ」

コーヒーのお代わりを入れに来てくれたエリンが微笑む。


「そう、ね。今ならあげても喜んでくれる気がするのよね」

夫人の趣味である手芸関連。多くは夫への贈り物としても好まれる。


「無縁だと思っていたのだけど」

「あらあら、そんなことございませんわ。旦那さまは本来とても優しい方なのです」

「ええと……それは」

「奥さまも私の妖精種をご存知でしょう?」

「確かバンシーだったわね」

「ええ。人間の国の伝承では死期を察知した人間の側で泣き続けると呼ばれ死の予言者と呼ばれる……だったわね」


「ええ。家系は泣き女を務めて来ましたが、実際人間の国の伝承通りかと言われればそうではありませんわ。私たちにも生活や仕事がございますので」

「そりゃぁそうよね」

彼女たちは妖精族としてこの国で生きているのだから。


「だけど噂は噂。周り巡って妖精の国にも流れてきてしまって……就職には苦労してしまって」

「何だか申し訳ないわね」

「いえ、むしろ感謝しておりますわ」

「どう言うこと?」

「メイドとして奉公に出たもののなかなか勤めるお屋敷が決まらなかったところ、旦那さまは私がバンシーだからと気に入って雇いいれてくれたのです」

「バンシー……だから?」

うまく点と点が繋がらないのだが。


「ええ。バンシーもデュラハンも人間の国では死に関連する伝承がありますから」

「あ……そっか!」

とは言えデュラハンはバンシーとは違い魂を狩り取りに来ると言われている。もちろんただの噂話の延長から来た伝承なのだが。


「そのお陰で素晴らしい職場と奥さまにも出会えましたから。感謝しておりますわ」

「私もエリンに出会えたものね。リュヌさまには感謝だわ」

「ええ」

2人でクスリと笑む。

微笑ましい空気に包まれながら、リュヌさまが来るのを楽しみにしながら続きを編み始める。


※※※


――――side:リュヌ


臣籍降下と共に結婚を言い渡された時、何よりもよぎったのは自分のこの身のことである。


最初は人間の国の王女が嫁いでくる予定だった。しかしそれがなくなったのは王女が呪われた妖精王子など嫌だとごねたかららしい。


「どうせ俺は呪われているんだ」

そして代わりに嫁いできたのがツェリだった。身代わりとは言え国のために嫁いできた公女だ。両国の関係にヒビが入っては困る。


「デュラハンであること、バレないようにしないと」

邸ではできるだけ鎧のまま過ごした。ふとした瞬間に首が動いては困る。


その結果無言を貫く無骨な男のようになってしまった。だがそれでもツェリは毎日のように出迎えてくれる。


「食事だって……」

こんな俺と取りたいと思ってくれるのだ。


「いつまで黙っているおつもりですか?」

書斎で兜を外せば家令のロバートが問うてくる。

「それは……」

「奥さまはおひとりで旅行に行かれるそうです」

「は……?ど、どこに」

「妖精の丘だそうです」

「か……カップルに人気の景勝地じゃないか!」

何でそんなところに……っ。


「う……嘘だろ?」

「まさか奥さまをお疑いで?」

「だってあそこは」

「奥さまは社交の場に出られる以外はずっと邸でお過ごしです。社交の場では……手を放しているのは旦那さまですよ」

「……っ」

首が落ちないようにと言う理由とはいえその間に……?いやいやそんなバカな。


デュラハンであることを恐れて奥手になっていた俺のせいだ。


「旅程を……教えてくれ」

「かしこまりました」

「よし……」

最悪身体だけでも活動できるし……荷物に紛れやすい頭をこっそり……。


そう決めて、偶然空いていた旅行初日に作戦を決行した。


――――結果と言えば。


『別に気にしないわよ、デュラハンなんだし』

そう言ってツェリはデュラハンであることを受け入れてくれた。


「俺にもっと勇気があれば」

もっと早くツェリと心を通じ合わせることができたろうか。


「いや……これからだよな」

今日の昼はデュラハンの姿のままで彼女に会いに行く。


※※※


――――side:ツェリ


――――その日の昼。


コンコンとノックの音が響く。


「……!」

ひょっとしてリュヌさま……?


『ツェリ、俺だ』

「……!」

やっぱり!

高鳴る胸の鼓動を抑え、ガチャリとドアを開く。ああでも首なし騎士の姿で来たらどうすれば。

しかし今日はちゃんと首もついていた。


「……待たせたな」

「いや、そんなことは。取り敢えず、入って」

「ああ」

ほんのり頬が赤らんでいるのは気のせいだろうか。


かわいいところも……あるのね。


共に食事を取るなんて初めてじゃないかしら。


「その……」

「今まですまなかった」

「……っ!」

「食事中もいきなり首が取れたらと思うと……」

ずっと恐れていたのだ。堅物な方だと思っていたら、節々でかわいらしい一面がある。


「大丈夫よ。ビックリはするかもしれないけど」

「それは……っ」

「だからって嫌いになったりしないわよ」

「あ……ああっ」

リュヌさまは首を押さえながら嬉しそうにこくんと頷いた。


「すまない、こうしないとな」

「やっぱり食事中は大変なの?」

「口にものがある時は生存本能なのか外れないが……しゃべっている時はどうしてもな」

「そうだったのね。でもその、これからは……」

「いいのか?」

「もちろんよ」

「それじゃぁ旅行から帰ったら夕食を一緒にしよう」

「ええ」

リフレッシュするつもりが旅行から帰った後が楽しみだわ。


※※※


――――1週間の旅行を終えて世界はガラリと変化した。


リュヌさまは仕事の合間を縫って会いに来てくれた。日によってはランチやディナーを共にし、部屋は別々だが宿泊する。


こんなことだったら予定を合わせれば……いやいや、それなら来てくれたかも分からない。


それにこれからは……。


「ツェリ」

「うん」

迎えの馬車では迎えに来てくれたリュヌさまの手を取り降り立つ。


「早速、邸で食事といこうか」

「ええ」

初めての邸での食事。今日のために用意されたコース料理はどれも美味しい。


「食事はどうだ?普段のツェリの好みを取り入れてもらった」

「私の……っ!嬉しいわ。だけどあなたの好みは……?」

「心配ない。俺も好きだよ」

「……!」

そっか……本来はそんなところも気があっていたってことなのね。


「これからも楽しみだな」

「私もよ」

これからは夫婦らしいことも出来るのよね。


※※※


夫婦の部屋。使うこともないと思っていたのに。旅行から帰ってくればきれいに設えられていた。


「その……もしかしたらやっぱり、寝ている間に首が外れるかも」

「それはそれでデュラハンらしいじゃない」

「俺……らしいか」

リュヌさまが頬を赤らめる。


「それなら、一緒に寝ようか」

「ええ」

温もりに包まれる感覚は大人になってから初めてのもの。だけどこんなにも安心するのは……私たちがいい夫婦になれると言う予感なのだろうか。





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