【15】冬の休息日
――――外はすっかり雪景色である。冬の妖精たちは元気いっぱいだがそれ以外はおこもりがしたくなる寒さ。
ノームのロバートは温室でリフレッシュしているし、バンシーのエリンは寒いのは得意ではなく着込むことの方が多い。
「デュラハンは鎧だから寒さもへっちゃらだと思ったけど」
「そりゃぁ鎧は暑いからな。だが家の中ではそうはいかない」
リュヌさまも家の中ではセーターを着て防寒している。
「デュラハンも冬向きの妖精ではないから。あ……でも」
「どうしたの?」
「ヴィヴィ義姉上の毛並みが極上になるとルーク兄上が言っていた」
「それは……っ」
確実に幸せの毛並み!
「ま、周りにはあまり冬の妖精はいないからおこもりグッズが増えてくな」
「それもそうかもしれないわね」
「ああ。ところでだが……そろそろ冬の休息日だろう?人間の国にもあると聞いたが」
「ええ。冬の休息日は家族とご馳走を囲んで楽しむのよ。あと親しいもの同士は贈り物をするわね」
「なら妖精の国と同じだな」
「そうなのね」
冬の休息日はいわゆる祝日だ。全員が休みとはいかないが、その日勤務のひとは代わりの休日をもらえると聞く。
「だから当日はその……」
「うん……?」
「特別な晩餐を用意しようと思う」
「わぁ、いいわね。飾りつけはどうする?」
「飾りつけ?」
「休息日の飾りつけ。こちらではやらないのかしら?」
「晩餐のセッティングなんかは行うが……人間の国の飾りつけと言うのはどう言うものなんだ?」
「そうねぇ……例えばキラキラしたふわふわの飾りを使ったり」
絵図にその様子を描いていく。
「それからこれくらいの木をセッティングして飾り付けるの。子どものいる家庭の場合、木の周りにプレゼントを置くのよ」
「うーん……これくらいの木ならロバートに頼めば用意してくれそうだな」
「人間の国の飾りつけ、やってくれるの?」
「ああ。何だか楽しそうだろ?俺たちには子どもはいないが」
「え……ええ」
子ども……か。
「その……そう言う意味では!でもツェリさえよければ……」
「も……もちろんよ!その、せっかくバイブルももらったんだし」
「そ……それじゃぁその、いずれは」
「うん。そうね。でもそのためには頭の位置を決めておかないとならないの」
「頭の位置?ああ……そうか。その、ツェリが位置を決めていい」
「えと、リュヌさまは?」
「ツェリに合わせるよ。できるだけツェリに負担はかけたくないし」
「そう言うことなら」
来るべき日のために決めておかないとね。
少しだけ夫婦は無言になる。その……考えてる訳じゃないのよ。いや考えないとならないことなのだけど。今は……。
「それと……その、飾りつけか」
「そうね!その話の途中だったわ」
「木に飾りつけるわけだからな。ロバートに飾ってもいい飾りを用意してもらわないと」
「そうだわ。木に負担がかかったりしたら申し訳ないもの」
お世話をするノームにも、ドリュアスのアンジェお義姉さまにも。
「人間の国ではこう言うものを飾るのよ」
早速ロバートに説明すれば。
「では木はこちらで用意しましょう。飾りについては軽いものでしたら……ええ、用意しておきます」
「ありがとう、ロバート」
「いえいえ、休息日には毎年花を用意しておりますが、木も飾ってもらえるなんて嬉しいですよ」
やはりノーム。植物が活躍するものは喜んでくれるようだ。
「それじゃ、後の飾りも用意して当日飾ろうか」
「そうしましょう!」
迫る冬の休息日。楽しみである。
※※※
――――冬の休息日が迫るある日。私は2人のお義姉さまとのお茶に招かれ城に赴いていた。
「それでね、うちでもすることになったのよ」
そう語ってくれたのはヴィヴィお義姉さまだ。
「この前リュヌさんが子どもたちのためのプレゼントを贈ってくれて、その際に人間の国の飾りつけを聞いたルークさまが木を用意してくれたの」
「じゃぁ今年は王城でも!?」
「ええ。王城のノームたちが木を見繕ってくれて、息子たちと飾りつけもしたのよ」
見せてくれた木には確かに煌びやかな飾りが付けられ周りにはプレゼントが並べられている。
「実はうちでもすることにしたの」
そうアンジェお義姉さまが教えてくれる。
「私とうちのノームとドリュアスで見繕った木よ。木が休息日に活躍してくれるのはドリュアスとしても嬉しいものよ」
そう言えばお義姉さまのところの子どもたちにもリュヌさまがプレゼントを贈ってくれたのだ。
「そうだったのですね。何だか人間の国の風習がこちらでも広まるのは不思議なものです」
「いいものはお互いにシェアしてなんぼよ」
ヴィヴィお義姉さまがくすくすと微笑む。
「そうね。何せ木が活躍するのですもの!」
やはりドリュアスとだけあって嬉しそうなアンジェお義姉さま。
「私も子どもたちの贈り物を木の周りに飾ってるわ。リュヌさんにもお礼を伝えておいてくれる?子どもたちも喜んでるわ」
「それなら私からも」
「はい!アンジェお義姉さま、ヴィヴィお義姉さま」
※※※
――――帰邸しそのことをリュヌさまに話せば、リュヌさまが嬉しそうに微笑む。
「そうか、兄上たちのところでもやることになったんだな」
「ええ、そうなの。人間の国の風習がちょっとずつ広まってるみたい」
それを植物に関わる妖精たちも喜んでくれるなんてありがたい限りである。
「それからお子さんたちもプレゼント、喜んでいるみたいよ」
帰り際にヴィヴィお義姉さまの子どもたちにも会ってきた。
「レインさまは最近剣の鍛練を頑張っていて、カイトさまは座学を頑張っているんですって。ファナさまはとにかくかわいい」
「ははは。ならプレゼントは大成功だったな」
贈る際、夫婦でも話し合ったのだ。レインさまには剣を佩くベルトを。カイトさまには筆記用具を。ファナさまにはおもちゃを。
「アンジェお義姉さまのところも喜んでるって」
私はまだ会ったことがないのでリュヌさまにアドバイスしてもらい、女の子用のかわいいポシェットと男の子用のおもちゃを贈ったのだ。
「それは何よりだ。しかし……」
「どうしたの?」
「義姉上たちとも相変わらず仲良しのようで安心したよ」
「ええ、よくしてもらってるわ」
「困ったことがあれば俺だけじゃなくて義姉上たちに相談してもいいからな。その……女性同士の方がいいこともあるだろう?」
「それもそうね。そうするわ」
妖精種は違うけれど妖精ならではの夫婦の習慣とか私はまだまだ知らないことだらけだもの。
それに……できれば。
「どうした?」
「とある子爵夫人とお近づきになりたいと思って」
しかし爵位に差がありすぎてどうしたものか。
「へぇ、どこのだ?」
「ナハトリッター子爵家なのだけど」
「リックのところか……?」
「ええ。その、先日バイブルをもらったお礼も直接言いたいし」
デュラハンとの夫婦生活で知りたいこともまだまだある。
「なら、今度リックを通して手紙を渡してもらったらどうだ?うちにお茶会に招待してもいい」
「その、爵位の差もあるけれどいいのかしら」
「構わないよ。そもそもリックがここで務めているのは俺がデュラハンについて子爵に指南を受けたからってのもある」
「そうだったの!?」
思えばご両親からデュラハンのことを習うにしても妖精種が違いすぎるものね。
「王子の頃は城で。今もたまにこちらに来るよ。子爵は近衛騎士で今は俺の部下。夫同士の仲が良いのだから招く理由には充分だ」
「分かったわ。ありがとう!」
子爵夫人にお会いするのが今からでも楽しみだ。
「そうだ……どうせならザックくんにも何か贈ろうかしら」
「ああ、いいかもしれないな」
リックに聞いたところ欲しい本の情報を聞けたので2人から贈らせてもらったのだった。
※※※
――――そして遂に冬の休息日がやって来た。
木を飾りつけし、晩餐会場も飾りつけた。
「なかなかいい感じに仕上がったな」
「ええ!」
何だか少し懐かしい雰囲気を覚えつつも卓につけば、晩餐のご馳走が運ばれてくる。
「それじゃ、乾杯しようか」
「ええ!」
今日は白ワインに挑戦してみる。お酒はまだまだ初心者だが。
「とっても飲みやすいわ」
「だろう?そうソムリエが選んでくれたんだ」
ソムリエに感謝ね。
ご馳走を食べながらも、休息日は一大イベントに移行する。
「ツェリ、これを」
「これは……?」
贈られた小箱の中には大粒のアメジストのペンダントが納められていた。
「これは……っ、その」
「ツェリに似合うと思ってな」
「嬉しい……!ありがとう!」
ちょっと前ならば自分の容姿に自信が持てずに畏縮していただろうが、今はリュヌさまの色を纏えることが嬉しくてたまらないのだ。
「その、リュヌさま」
「ああ」
「私からはその、見劣りするかも知れないのだけど」
そっと小箱を差し出す。
「何だろう?これは……ラクリメの風景のタペストリーか?」
「え……ええ」
あの時見た風景をタペストリーにしてみたのだ。
「見劣りなんてとんでもない。2人の思い出の風景だなんて最高すぎるよ」
「リュヌさま!」
「ツェリ」
「うん……っ」
「ありがとう。これからも愛してる」
唇に落ちる柔らかい感触に頬が熱くなる。
「うん……私もよ!愛してる」
冷遇生活だと思っていた結婚生活はこんなにも温かくて愛おしいものになった。
きっとこれからも幸せな夫婦であれますように。
冬の休息日にそうささやかな祈りを込めて。
【完】




