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低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


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神の宣告.5

神、登場。

 

当該行為(とうがいこうい)は、サーバー全体の演算資源を不当に占有し、世界の整合性を(いちじる)しく乱す行いです。これはテロ行為であり、明白な『国家反逆罪』として定義されています』


「国家反逆罪……最も罪が重いとされる犯罪だね」


 十六夜はタバコをふかしながら呟く。そんなことは流石の俺でも知っていた。


『心当たりのあるものは速やかに憲兵に出頭し、経緯を説明しなさい。48時間後に、日本サーバーの地区ごとに一斉検査(サーバーメンテナンス)を行います。そこで発覚した場合、よりその『罪』は重くなるため、早期の発見が望まれます』


「黙っているのが一番だろうね。一斉検査で発覚するぐらいなら、君は年一の健康診断にパスできず、とっくの昔に消されている」


「……いや、でもここでちゃんと事情を説明すれば、厳重注意で何とかなる可能性もあるだろう」



 そう言った矢先のことだ。

空気が、重低音を伴って震えた。

監査官(オーディター)は遥か頭上から、光る柱を地上に降ろしたのだ。それが照射された熱線だと分かるまでに幾ばくかの時間を必要とし、その間に大地は焼かれ、空は焦げていった。


「あっ……」


 十六夜と俺、どちらがそう言ったかは分からない。

 ただ茫然と、俺たちは監査官(オーディター)による削除を目の当たりにしたのだ。


 (ほとばし)った閃光に呑まれた者は跡形もなくこのサーバーから消滅し、蒸発の際に残された煙だけが、(よすが)を求めて周囲を(ただよ)っている。


 丁度死人が出たのは、アルムヴィルの街を(へだ)てる周辺一帯。

 つまり街と外部を分ける境界線に、監査官(オーディター)は楔を打ち込んだのだ。


「人間が……溶けた」


 雷が落ちたような残響と、大気の震えが今起きた現象が現実のものだと俺に教えてくる。

 しかし俺は残された煙が消えるまで、その焼けて燻ぶる野原から目が離せなかった。次に視線が動いたのは、彼女の言葉が聞こえてからだ。


「あれを見て、まだ出頭しようだなんて思うかい?」


 彼女の言葉に、俺は焼野原から視線を少し上げた。

 放たれた光線によって地上には、薄緑色をしたガラスのようなホログラムの壁が浮かびあがっていた。


「あれは恐らく一時的な移動制限……と、(とら)えるべきだろうね」


 十六夜が言うように、監査官(オーディター)が発射した光線は、ホログラムの壁を作るための材料投下の意味合いがあったようだった。それにしては余りにも下界のことを考えていない行動だが、あの超高ポリ存在()にとって、俺たちなんて全て同じ背景のシミ程度にしか見えていないのかもしれない。


監査官(オーディター)は相当に焦っているようだね。これほど強硬手段を取る彼を見たことがない」


 十六夜は悲しむように眼鏡の鼻を抑えた。

 眼下に広がるアルムヴィルの街の交通網は自然と崩壊し、流通は滞りを見せている。

 一時的にとはいえ、アルムヴィルの街は完全な機能不全に陥っていた。


 次に聞こえてきたのはアルムヴィルに住む人々の怒号や悲鳴。そしてその騒ぎに呼応するように監獄にいる囚人たちの笑い声が下から聞こえてくる。


「贅沢な絶望だな……」


 そんな両極端な監獄の内と外を見て、俺は再び視線を上にあげた。空ではふてぶてしく監査官(オーディター)が下界の反応でも見るかのように、空に肌色の両手両足を広げて空に張り付いている。世界一邪悪なぺったん人形だ。


「あれからして見れば、俺たちの命なんて羽虫程度にしか思われていないのかも知れん」


「同感だよ。虫唾が走るとは正にあのようなデクの坊にこそ相応しい」


 よくも医者()の前で人を殺してくれたな、と十六夜は吸っていたタバコを静かに握り潰した。時間をかけて一人を救う医者にとって、無意味な殺戮ほど神経が苛立つことはないのだろう。


 だが、そんな彼女の苛立ちも、眼下に広がる阿鼻叫喚も、全て泰然として受け止めるように監査官(オーディター)は再びアナウンスを流す。


『通報コマンドは上部右側のアイコンから確認することができます。

 普段よりも羽振りがいい、解像度が高いなど、異変がございましたら、些細な理由で構いません。ご一報ください。直ぐに駆けつけ修正いたします』


 全員が畏怖を持ってその声に震えながら耳を傾ける。


『日本サーバーに属する全ての生命一眼となって、この危機を乗り越えましょう』


 ピーガガッ、という電子音を最後に監査官(オーディター)は、雲のように散り散りになり、風に流されるように消えていった。


 日本サーバー全体が疑心暗鬼になり、互いが互いを疑い合うそんな世界がやって来ようとしている。

 それを阻止するには、高解像度化をした犯人。


 つまり俺が出頭すれば丸く収まる話だった。


「その顔は良くないことを考えている顔だな、私にはわかるよ、姫守」


「別に。ただ俺が出頭すれば丸く収まる話をここまで大事にされると、こっちも感情に困るというだけの話だ」


「……出頭すれば、君という存在は完全に消されるぞ」


 十六夜が、タバコの灰を落としながら問いかけてきた。


「サーバーの危機らしいからな。俺が消滅すれば、全区画で起きる未来の惨劇(さんげき)は回避できる。……『誕生罪』のゴミ一個で世界が救えるなら、これほどコストパフォーマンスの良い取引はないだろ」


功利主義の名の下に、人の幸せは数値化できるのだという傲慢を胸に自己申告するつもりでいた。俺は自由になりたいが、それは誰かの犠牲に成り立つものではない。日本サーバーの全ての人々が、俺のせいで苦しめられている。そう言うのは気分が悪かった。


「俺みたいな悪人が幸福になるのは、他の人が幸せになってからでいい」


 本気でそう思っていた。そう言ったら、パチン。

 乾いた音が、静まり返った医務室に響いた。


毎日投稿中。次回投稿時間は決めていませんが、基本夜の12時か7時に投稿されます。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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