神の宣告.4
『このアナウンスは、緊急で日本サーバー全土に流れています。
このアナウンスは、緊急で日本サーバー全土に流れています。
全電子生命体の皆さまは、すみやかに作業を中断し、放送に耳を傾けてください』
「なんだなんだ⁉」
監獄塔の四階から十六夜と共に、窓ガラスを開けて外を見る。
「わっ……」
そして思わず声が漏れた。
俺が今まで生きてきて、一度も目にしたことのなかった、アルムヴィルの街の外、さらにもっと無窮の彼方までここから見渡すことができたからだ。
彼女と俺は数秒か、あるいは数十秒、乾いた空気を浅く吸いこみ、感嘆の息を呑んでその絶景を記憶領域に焼き付けた。
「……ここからの景色は凄いな。アルムヴィルどころかセントラルドグマ全体が見えるじゃないか」
「私も知らなかったよ。外を気にするなんて気分でもなかったし」
その言葉で俺はふと、隣に立つ彼女の状態を思いだして、
「寒くないか」
と確認を取った。
なんたって彼女の恰好は黒のブラに下はパンツにパンストだ。白衣を上から着ているとはいえ、ここの風は少し冷たいように思われた。
しかし彼女は、
「問題ないさ。診断に使った演算熱を冷ますのには丁度いいぐらいだよ。それにほら、冷たくて乾いた空気にはタバコがよく合うだろ」
彼女はそう言って疲労を滲ませる顔でタバコを吸うと、ふぅー、と楽しげな表情で俺の顔に煙を吹きかけた。
「……あまりいい気はしないな」
「ぶっ、フフッ……そうか。悪かったね。もうしないよ」
何か彼女のツボに入ったのか、彼女はクスクス笑いながら俺の角ばった肩を、ぽんぽん、と叩いた。
「……それにしても、全体アナウンスなんていつぶりのことだ?」
「私たちの神が壊れた時以来かな?……いや、それよりも後にあった気がするけれど……私の記憶にはないね」
つまりどうでもいい記憶だから消えてしまった、というわけだった。
「俺たちは世間にもっと目を向けるべきだと思う」
「生活圏にない情報は目にしても、すぐに忘れてしまうからねぇ……」
「分からんでもない」
互いに世界に無関心という点では、低ポリゴンの囚人と高ポリゴンの医者という視座の違いはあれ、俺たちは似た者同士のようだった。
『───ピーガガッ、ピーガガガッ』
突然世界から、サーバーから異音が聞こえてくる。全体アナウンスが流れるという独特の緊張感が世界を包み込んでいた。
眼前に広がる壁の向こう側の街、アルムヴィルでも立って空を見上げる住民の姿が視界に写り込む。
誰もが空を見上げ、託宣でも聴くかのように口を半開きにして、アナウンスを今か今かと待ち望んでいる無辜な民たち。
バグを取り除くことで恩恵を得ている人々の姿がそこにはあった。
彼らに倣って俺も空を見上げる。
すると、青空の一部のテクスチャが禿げ、崩壊すると、“外”から霧のような乳白色の渦巻く雲が侵入し、やがてそれは人の形を取って俺たちの目線の先に顕現した。
「裸にされたバービー人形みたいだね」
「人形って頭がないのか?」
そう訊くと彼女は驚いた様子で、
「バービー人形も見たことないかい」
と俺を馬鹿にした。
「悪いな。世間知らずなんだ」
「悪くないさ。今度持ってきてあげよう」
そんな談笑をしながらも目線は人の形をした雲から離れない。
頭は渦を巻き、顔がない。
首の上だけ竜巻が起きているような人間のふりをするその個体は、日本サーバーのどこからでも見えるように巨大なその輪郭を露わにした。
「あれ……どこにいるんだ?」
「大気圏の外にいるようだね。……全長は目測だけど、約500㎞。人間じゃ考えられない大きさだよ。まさにこのサーバーの管理者、今の『神』に相応しい出で立ちだね」
アルムヴィルの人々のざわめきが、監獄塔にいる自分達にも聞こえてくるほどに大きくなっている。
「監査官だ!」
「初めてみたー!」
監獄の敷地内のグラウンドでも、低ポリゴンの囚人たちが空を見上げては、今を統治する神の登場に沸いていた。
『日本サーバーで生活する皆さん。私は監査官です』
老若男女全てを混ぜ合わせたような機械音声が、別の角度から発せられた。よく聞くと街や監獄に設置されているスピーカーからだ。
動くシステム系統も違うだろうに、全てのシステムに介入するパスが存在しているのか、監査官はその全てを掌握し、俺たちに声を届けるようだった。
『日本サーバーでは現在、深刻なバグを利用した違法な高解像度が検知されています』
世界から声が響くように紡がれる監査官の言葉に、俺は思わず心臓が飛び跳ねた。
後書き
ボスの登場はカッコよくシュールで、かつ怖さをイメージしました。
なので神様は全裸のバービー人形です。顔はあったら怖いので、煙にして見えなくしました。
リアクションされると喜びます。
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




