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低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


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情報食い.2



低ポリゴンの囚人を乗せたバスは途中、監査官(オーディタ―)によって阻まれた壁の前に立ち止まったが、奉仕活動の名目で移動する分には問題ないようで、薄緑色をした燐光を放つプログラムの防壁は俺たちを容易に外に吐き出した。


バスに揺られること数十分。今回の特別任務は近い場所にあったのか、すぐにバスは停車して、三十人ほど掻き集められた低ポリゴンの囚人が外へ出た。


バスの入り口に押し込まれていた俺は、全員が出たの確認した後にゆっくりとバスを降りて今回のフィールドを確認する。


「寂れたアーケード街か。シャッターも軒並みしまってるな」


奥まで日除けのために設置された長方形のドーム状センター街。先ほどまで生きていたと思われる人間の死体が転がっていること以外には、生活感溢れる場所だ。どんなに平和な場所でもバグの発生によって一瞬で地獄に変わる。


「なにも悪いことをしていないというのに……可哀想な奴らだ」


俺は死体の転がる精肉店らしき店に入って、揚げたてのコロッケを口にする。

ザコしかいない今の時間に燃料の補給は急務だった。


「───おっ、いたいた!おい姫守!」


コロッケをモグモグしていると、声を掛けられたので振り返る。


「んぐんぐ……ごくん。……ビットか」


ビットと新人らしき囚人が二人、隣に立っていた。

眼つきの悪い、こちらを睨みつけてくる五分刈りと、俺に目を合わせないおどおどした青年の二人だ。


「コイツらは新人のジャックと晴信だ」


「アンタがここのボスか」


ジャックは俺を品定めするような目で睨みつけてくる。

一方で、


「よろしくお願いします!」


と、礼儀正しく頭を下げたほうが晴信だった。

二人とも見た目は低ポリゴンだが、片や金髪の五分刈りヤンキー、片や七三わけの好青年と二極化したことで、思わず「これはお前の差し金か?お前は俺を笑い殺す気なのか?」と視線でビットに訴えかけたが、単なる偶然のようだった。


「ジャックは武道を嗜んでいるらしい。ファイターとして期待できるぞ。晴信は戦闘経験という側面では

心もとないが、言うことをよく聞く。囚人にしちゃあ珍しいタイプだ」


ビットの簡単な説明を聴きながら、俺は二人の武器を見た。

ジャックとかいう柄の悪い五分刈りは、支給品の棍棒。晴信は少し上等な盾に片手剣を装備している。たぶんどちらも今日中に死ぬとは思うが、ビットも考えていることがよく分からなかった。


「そうか。───コロッケ食うか」


そう訊くと、


「いらねえ」「結構です」


と二人ともそう返してきたので、ビットにも訊く。


「いるか?」


ビットは笑顔で舌なめずりをして、


「ぜんぶ食っちまうぞ」


と笑った。精肉店のコロッケを再び口にすると、重湯では感じる事の出来ない多幸感のデータを手に入れることができる。周囲では逃げ遅れた人間がバグに食われる悲鳴が聞こえたりするが、気にせずコロッケを口に放り込んだ。


「助けなきゃ……!」


晴信がそう言った。

盾と剣を構えて、彼は一人でアーケードの中に姿を消していった。


「ビット、アイツは良い奴だな。なんで低ポリゴンの囚人になったんだ?」


「激情家みたいだぜ。不倫した恋人を怒りに任せて殺しちまったらしい」


コロッケを口に入れるビットが簡単な説明を終える前に、晴信の悲鳴が聞こえた。


「アー……社会の悪を滅したいい奴じゃないか。勿体ないな」


「ああ。勿体ない」


コロッケを食い終わり立ち上がると、店の外を腕組みして伺っているジャックが気になった。


「そこにいるジャックは?」


「そいつは元々マフィア出身らしい。今回は上司の尻ぬぐいでココにきたんだと」


マフィアと聞いて五分刈りを確認する。

五分刈りのマフィアだっているかも知れない。現に目の前にいるし。


「ほう、マフィア。怖いな」


五分刈りのマフィアがいることに俺は戦慄していた。


「姫守、ココでの生き方を教えてやってくんねえか?」


ビットは生き残ったジャックを見て、俺に手を合わせた。

だから手を合わせた分だけジャックに忠告してやる。


「簡単だぞ。戦わないことだ」


戦わないこと。それが一番の長生きの秘訣だった。


「えー確かに戦わなかったら負けないわな~ってそうじゃねえよ!戦闘訓練とかって話だよ!」


ビットがあまりにプロのノリツッコミをするので、俺は思わず拍手をした。


「いや拍手するだけで教えてはくれないのかよ」


「口で言ってもどうにもならないからな」


そうこう話していると、精肉店にいる俺たちを見つけたのか中に小型の卵型バグが入り込んでくる。狭い路地のような場所でやっている精肉店だから、小型の卵型バグは一列で突撃してきた。

当然一番初めに戦うハメになったのは、コロッケを食べていなかったジャックだ。


通路に腰かけていたジャックは慌てて自分の手に持った棍棒で殴りつけ、消滅させる。次から次へと湧いてくる小型バグを必死の顔で消滅させ、血しぶきを上げるジャックにビットは笑って手を叩く。


「いいぞー!若いのー!」


俺は自分の剣の面倒を見ながら、ジャックがヘマをしないかだけ見ていた。


「何が……可笑しいんだ……アンタら」


顔に血をべったりつけたジャックが、息を絶え絶えにしながら訊いてくる。


「まだ残ってるぞ」


ビットがそう言って、振り返った瞬間にはもう新たな小型の卵型バグが口を開けていたので、俺はカウンターに置かれた割りばしを抜き取り、力を込めて小型バグの口に向けて投擲した。


パンッ、と飛沫を飛ばして卵型バグは消滅する。

辺りには一時の静寂が流れ、ジャックは呼吸を落ち着かせるように膝に手をついて、大きく深呼吸をした。


「コレが序盤の戦い方だ。小型は弱いが数は多い。囲まれて袋叩きに合わないように、場所取りが絶対条件になる」


そう言って新しく割りばしを取り出して、コロッケをまた一口食べる。隣では箸をパチパチさせながら、ビットがジャックに行儀悪く箸を向けていた。


「そういやよぉ、ジャック君、お前さんの刑期を聞いてなかったな」


ビットはコロッケの一杯詰まった腹を撫でながら訊く。今日死ぬだろうから別に聞いても仕方ないと思ったが、話のネタにでも困ったのか、そんなことをビットはジャックに訊いた。


「……三年六カ月だ」


ちゃんと答える辺り、ジャックはビットには懐いているようだ。


「じゃあ、あとコレと同じ方法で二十回ぐらい序盤を乗り切れれば、刑期満了じゃねえの。やったなジャック君、君は運がいいぞ」


ビットがジャックの面倒を見ている間に、俺は自分の大剣を確認する。


「どうしたん姫守」


「まだ剣の試し斬りが出来ていないからな。序盤の内に試しておきたい」


「ほほん。なるほどね。そいじゃ、ジャック君下がりたまえ。貴重な姫守先輩の戦闘シーンだ」


「あの人そんなに凄いのか……?」


「姫守は強いんじゃない。監獄で一番変なやつだ」


そんな後ろの声が聞こえてくるのを無視して、俺は筋から中央のアーケードで、敵を細道に誘い込む。一本道は、刺突モーションしかない俺にとって最高の狩場だった。


だが、今日の俺が使っている大剣は、十数年使い慣れ親しんだ錆びた大剣とは違う。

情報喰い(データイーター)は俺を試すように、幾何学模様の赤黒い光を刀身の中を循環させていた。

狙いを定め、腰を据える。


ザコでも容赦はしない。それが俺のやり方だ。

息を軽く吸い込み、ボクセルの足に力を籠める。


「シュッ───」


力み過ぎず軽く大剣を握り、衝突の瞬間に力を爆発させる。

すると普段感じる叩き割るような感触とは別物の、ヌルッ、と刃が体を通り抜ける感覚に妙な手ごたえを感じた。


「なっ……⁉」


卵型のバグは二~三回、転がりを見せると、パックリ半分に両断されたのを見て、この大剣の切れ味に俺は茫然とした。


「なんだこの大剣……」


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