表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/13

刑期127年の低ポリゴミ屑野郎

久々の投稿。

長期連載開始します~。

先に誤解のないように書いておくのですがVRMMOモノではないです。

ファンタジーもので、全員この世界の住人です。

なので変な表現ですが、死んだら文字通り消滅します。


「オラ、歩け、このゴミクズ! 貴様の命より高価な剣だ、落とすなよ!」


 看守の鉄靴(てっか)が俺の腹を蹴り抜く。泥水の中に倒れ伏した俺の首から、刑期を示す鉄の輪がジャラリと鳴った。


 そこに刻まれた数字は【残り127年と364日】。


 ……俺の体は、この世界の住人とは少し違う。荒い角張った輪郭、情報の欠けた視界。人々は俺のことを、蔑みを込めて《低ポリゴン》と呼ぶ。


 渡された錆びついて刃こぼれのある両手剣は、ポリゴンの粗い俺の腕には岩のように重い。こんなナマクラで、これから凶悪な魔物がひしめく《特別任務》に向かわなければならないのだ。


 列に並んで、今日のバーコードが首筋に打たれるのを待つ。


 俺の他にも大勢の低ポリゴンの人間が武器を持って《特別任務》行きの列に並んでいるのが見える。壁の外に建てられた広告塔には、俺達よりもはるかに高解像度の俳優が、広告宣伝用のビールを楽しそうに飲んで笑顔を浮かべていた。


「どうした次の《低ポリ》!前にでろ!」


 後ろの同業者が俺の尻を蹴って、看守の前に突き出す。


 尻に泥はつかない。そんな後負荷な処理はこの俺には必要ないからだ。

 ペラペラの首筋を見せると、他の看守と見分けのつかない目の前の看守は、俺に今日の仕事の烙印(らくいん)を押し付ける。


 ピッ、とレジを通すような無機質な電子音がして、俺はその他大勢の《低ポリゴン》と共に《特別任務》行きのバスに詰め込まれた。






 ◇







 赤黒く光沢を帯びた死が、俺の足元を喰らいついた。

 視界下部に固定表示されている総ポリゴン数のインジケーターが微減する。

 同時に俺の全身から劈く(つんざく)ような痛みが爆発した。


「くそッ……!」


 衝動的に足を振り払ってバックジャンプし、対象の(恐らく)狼が前足を踏み込むより早くその間合いから距離を取る。


 血なんて《高負荷》なものは流れない。

 俺にとっての体は、無駄を削ぎ落した角ばった荒いポリゴンで構成された体だけ。

 それが俺を取り繕う、俺の命、全てだった。


『残りバグは十を切りました。《特殊バグ》の検出が予想されます。執行者の皆さまは、連携を取りつつ新たな敵の出現に備えてください』


 バーコードから流れるアナウンスに耳を傾ける。

 その耳に新たな犠牲者の声が響いたとしても、俺の心は動じなかった。


 目の前で、ぐるる、と呻き犬歯を覗かせた狼の形をしたバグは、俺との間合いを計りながら移動している。視界から外した瞬間に飛びついてくる算段だろう。


 こちらも両刃の大剣を前にかまえ、深く腰を落とした。


 黒檀色の大型の狼は僅かに笑みを浮かべ、深々と前足を溜め、腰を震わせた。

 広い崩壊した市街地の通路に、偽ものの熱風が吹き込み、砂塵を上げる。舞い上がった砂埃にわずかに狼の目が収縮した刹那(せつな)


「はッ…!」


 踏み込みと同時にキューブの足が大地を穿った。出遅れたように狼の鋭い爪牙が突進してくる。溜めの時間は互角、しかし運が俺に味方して僅かに俺の刺突攻撃が速く狼の喉元に深く突き刺さった。


 ジタバタと暴れる狼の喉元めがけ、俺はひたすら《刺突モーション》を連続で叩き込み、無理やりポリゴンを砕き割る。首のデータが欠損し、ぴょんぴょんと二〜三回跳ねる挙動を見せたところで、狼に完全な死が訪れた。


 周囲を見渡すとまだ、他のバグと戦っている執行者の姿が目に映りこむ。


 震える者、戦う者、追い詰められた末に絶命する者。いつも通りの光景が広がっている。

 大剣と足を引きずりながら倒壊した摩天楼(まてんろう)の一つ向かって歩く。

 

 一階フロントの隅っこに直方体の体をフィットさせると、ずるずると体を滑らせ冷やかな地面に尻をつき、大きく息を吐いた。


 高ポリゴンなら一瞬のうちに倒せてしまう中型バグの《狼》に辛勝する。

 それが今の俺の限界だった。

 持ち込んだ医療バッグから《治療用プログラム》を取り出して足首……ではなく、首筋の首輪についた(ソケット)に注入する。


「あぁぁ……キクゥ……」


 ジクジクとしていた足の痛みが、スゥーと引いて行く。

 正常になった足を振ってガラス張りの壁から外の戦場を眺めた。

 外では見たことのない小型の《人》のバグが歩いている。


 頭が犬であったりサイであったりと、人型をしたバグは見たことがあっても、完全に人間を模倣したバグを見るのはコレが初めてだった。


 遠巻きからその生態を覗く。今回が初参加の執行者はなんの臆面もなく、そのバグに戦いを挑み、一瞬でそのポリゴンを細切れにされて消滅していく。


 あまりの速さに肉眼で全てを追うことは叶わなかったが、複数の触手で撫で斬りにした、という部分は辛うじて捉える事ができた。


「あいつが今回の特殊バグか……早すぎないか……?」


 安全を確保しつつ、生存のために思考を巡らせる。

 ビル一階の広いロビーには縦掛け時計も設置されていて、時間を確認することができた。


「もうそろそろか……」


 そろそろ中ポリゴン組(一般執行者)が到着する頃合いだった。


 俺達低ポリゴン組(囚人執行者)が帰投する時間が迫っている。

 あの特殊バグは《低ポリゴン》では太刀打ちできないポリゴン数だ。

 それが一目でわかるほど、《特殊バグ》と俺の間には隔絶された差があった。


 ポリゴン数が高くなれば、柔軟な動きも可能になる。

 俺のような《低ポリ》には不可能な芸当も、《特殊バグ》なら不可能ではない。

 そしてそれは同じく高ポリゴンな執行者でも同じことが言えた。


 そうこうしているうちに、けたたましいエンジン音と共に中解像度組のバスが到着し、彼らが戦場へとなだれ込んでいくのが見える。勇猛な新手の登場に、俺は小さな安堵の息をつく。

 

 ……だが、その希望はすぐに絶望へと変わっていった。


 ◇


 三十七機。

 たった一体の《特殊バグ》に消滅させられた執行者たちの武器が、バグの周囲に突き刺さっていた。


「ぐあああぁあ!」


 また一人、中ポリ組(一般執行者)が姿を消す。


 俺はビルの一階ロビーから、外に出ないまま、ガラス越しにその惨状を目の当たりにしていた。

 低ポリ組(囚人執行者)の乗るバスは既に発車してしまい、一人取り残された俺は、この一帯から《特殊バグ》が去るのを祈るように待っていた。


 《特殊バグ》は中ポリ組の攻撃を受けるや否や、その姿を変異させその解像度を上げてより強力になっていく。


 元は辛うじて人と分かるような四肢だったのに、攻撃を受ければ受けるほど、やつは学習し、適応していく。終わり際には体を優雅に回転させながら、軽やかな円舞(ワルツ)を踊るように中ポリ組の面々を虐殺して周っていった。


 先ほどまで出来なかったであろう、花のように美しい嘲笑を浮かべて。


「我々では倒せない!高ポリ組(上級執行者)を待とう!」


 中ポリ組のリーダー格の男と思しき執行者の撤退合図とともに、《中解像度組》が脱兎の如く逃げ始める。


 しかし《特殊バグ》の攻撃はまだ終わっていない。ぱっくりと割れた3Dモデルの中から撓る(しなる)触手が、バネに弾かれるような勢いで、逃げ惑う執行者たちの心臓を捕らえた。


「ぎゃあああああああ!!」


 地獄の摩天楼と化した荒廃した市街地でまた一人執行者が消えた。

 そしてまた新たなバスの音が聞こえてくる。

 俺達が乗ってきた車輪のついた四角い箱ではなくて、滑らかな流線型を持つ高解像度のバスだ。


「高解像度なバスだ!高ポリ組のバスだぞ!! たすかっ───」


 リーダー格と思われた男は言葉の途中で切り刻まれて消滅した。

 そして全員に望まれた高ポリ組の一人がバスから降りてくる。

 それはブロンドの髪を(なび)かせる、女騎士だった。


「生存者は退避しなさい! ここからは私の管轄です!」


 女騎士は、鋼鉄のブーツを鳴らして《特殊バグ》に向かって一直線に歩く。後続は降りてこない。ポリ組は彼女一人だった。


 《特殊バグ》は首を傾げながら、薙刀を背負った女騎士に興味を示す。《特殊バグ》の周囲には既に中ポリ組の武器だけが残り、殺風景な武器の原が続いていた。


 《特殊バグ》はニヤリと笑みを浮かべて、地面に埋まった中ポリ組の武器を進化した腕で手に取った。


「冗談だろ……武器を使うのか?」


 俺はビルの隙間から固唾をのんでその光景を見ていた。

 女騎士が先に《特殊バグ》の間合いに入った。凄まじい雄叫びと共に、《特殊バグ》は八つの武器を持った触手を鞭のように(しな)らせて、女騎士を滅多斬りにしようと振り回し始める。


 しかし、彼女はその攻撃を先読みしていた。

 そうなるように彼女は発破をかけたのだろう。鼻先で掠める武器の刃を撥ね退けて、返す刀でその一本を斬り飛ばした。


「ヴォー……!」


 クジラが鳴くような重低音を大地に響かせる《特殊バグ》。

 その瞬間、更に不可視の剣先で女騎士は残る触手を切り刻んでいった。

 強いなんてものじゃない。《特殊バグ》を前にして彼女は圧倒的だった。


 誰もが勝利を確信した瞬間に、《特殊バグ》は新たな行動に出る。


「ヴォヴォヴォヴォヴォヴォ!」


 口から液体を吹き出しながら、走って逃げだしたのだ。

 バグが逃げ出すなど聞いたことがなかったため、女騎士も驚いたのか、後を追いかける。

 そして《特殊バグ》は目的の獲物を捕らえたのか、笑みを浮かべて立ち止まった。


 腕の中には、瓦礫の陰で震えていた逃げ遅れの執行者が引きずりだされ、掴まれていた。狡猾にも触手を刃状にしたまま喉元に突き立て、人質にしたのだ。


「卑怯もの……!」


 それでも女騎士の動きは止まった。

 その瞬間を待っていたかのように、女騎士をさらに後ろから追っていた斬り飛ばしたはずの触手が、自立した刃となって彼女の背中に突き刺さる。


「がぁ……!」


 膝をつく女騎士。《特殊バグ》はニヤケ顔のまま、人質になっていた中ポリ組を殺して消滅させると、更にその解像度を増して、女騎士前に立ちはだかった。


『お前、中々強いじゃないか。気に入ったぞ』


 《特殊バグ》は彼女にそう喋りかけた。


 バグが喋るなど前代未聞のことだ。俺の背に冷たい汗が流れた。隠れてビルの支柱になり果てている俺でさえこうなのだから、目の前に立つあの騎士の恐怖は想像に難くない。


 だが、彼女は立ち上がった。


「バグの分際で喋るなんて……笑止千万(しょうしせんばん)!! 」


 女騎士は膝をついた状態から器用に足で薙刀を蹴り上げると、その勢いのまま《特殊バグ》を両断して見せた。

 

 不可視の速攻に両断された《特殊バグ》は目を見開き驚愕を露わにする。


『なるほど……そんなに速く動けるのか。想定外……ダ……』


 二つに両断された《特殊バグ》だが、切断面から無数の触手が伸びて無理やり体を繋ぎ止め、強引に女騎士をビルに蹴り飛ばす。


 そして吹き飛ばされた彼女が、偶然にも俺が隠れ潜んでいるビルに突っ込んでくるところまでは、俺も想定外だった。


 倒壊したビルの残骸に、蜘蛛の巣のようなひび割れを作り、倒れた女騎士。

 血を吐いて動くことができなさそうな彼女に、死神の鎌が掛かる。

 

後を追って《特殊バグ》は完全に彼女を消滅させるために、彼女と俺がいるビルの中に入ってきたのだ。


 先ほどまでのような表情豊かな人間の頭はそこになく、死神のような骸骨(ドクロ)を頭につけた《特殊バグ》は、腕から伸びる触手を蛇行剣のように振り回し、女騎士に迫る。

 

 しかし薙刀によって受けた傷は浅からぬ傷のようで、ジワジワと修復されている背中の傷口からは未だにテラテラと赤い筋肉を覗かせていた。


 そして俺はその傷口から、《特殊バグ》の心臓を見つける。心臓は不規則に高速移動している。点での狙撃は不可能だ。

 

 だが、俺の無骨で巨大な大剣ならば──その移動範囲ごと「面」で押し潰せる。

 自分でも何を考えているのか、そっと俺はビルの端から物音一つ立てずに立ち上がった。


 《特殊バグ》の死角から錆びた大剣を握り締めて、息を殺して背後を歩き始める。

 見つかれば一瞬のうちに細切れだ。そんなことは分かっている。

 

 生唾を飲む音さえも掻き消して、大剣を《刺突モーション》にしたまま《特殊バグ》の背後をついて歩いた。


 バグにとって俺はなんら雑魚と変わらない背景のような存在なのだろう。だから倒せる。だから命取りになる。


『中々良いデータが取れた。お前には感謝するぞ、強気者よ』


 額には【Ver.XⅢ】の文字。

 見たことのない次元に《特殊バグ》は進化していた。


《特殊バグ》が彼女の命を刈り取ろうと、触手を高々と振りかぶる。

 ───そしてその一瞬の奢りを、彼女は見逃さなかった。


「ハァあああ!」


 女騎士は意識を覚醒させ、薙刀で再び《特殊バグ》を正から目にもとまらぬ四連撃を突き出した。


 が、その時点で既に《特殊バグ》は触手を前に集め盾のように構えて、それら全てを致命傷となる猛攻(もうこう)であったにも関わらず、完璧に防御されてしまう。


「嘘………!」


『バァカめ。その攻撃は学習済みだ』


 《特殊バグ》のドクロが僅かに歪む。

 《特殊バグ》にとって最大の好機───そしてそれは俺にとっての千載一遇の好機でもあった。


 奴の背中は今、かつてないほどガラ空きで。


嘘みたいに、刃が通る───。


 ───ずぶり、と嫌な感触と共に錆びた大剣がその滑らかな背中に突き刺さった。


『が、アァァァァ……ッ⁉ダ、ダレダオマエェェェ⁉』


 バグが振り返る。その超美麗なドクロが苦痛に歪んだ瞬間、傷口から致死量の赤黒い液体───高密度なバグデータが噴水(ふんすい)のように噴き出した。


「あ……」


 回避する間もなかった。頭からその体液を被った瞬間、システム音声が脳内に響き渡る。


『警告。警告。致命的な不正コードの混入を確認しました』


『低解像度モデルの崩壊を開始します───』


 全身のポリゴンが剥離(はくり)し、俺というデータの定義が融解(ゆうかい)していく激痛。

 アァァァァァァアアアアァッ!!!

 声にならない絶叫は誰にも届かない。

 俺の存在は、電子の海に溶けて沈んでいった。


ちょっと変わった世界で戦う一人の若者の話です。

主人公の見た目は灰色のスティーブ見たいなものだと思って下さい。




リアクション・ブックマークされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ