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この恋は、とける ー2/14の謎解きー

作者: だぶんぐる
掲載日:2026/02/13

※本作はカクヨム自主企画三題噺「紙」「声」「知恵」をお題に書いた短編です!

※3000字程度ですぐ読めます!


【あらすじ】

2/14、バレンタイン。

『あたし』にとって家が近くて小中と仲の良い幼馴染にチョコをあげるのは恒例となっていた。

しかし、今年は違った。


『今年のバレンタインは、この暗号が解けたら……あげる』

『な、なにいぃいいい!?』


幼馴染の謎で繋がれた関係性。

とけるのか、とけないのか。

彼の出すこたえはー


ゆっくりとけていくバレンタインストーリー。

2/14 → いせ

30 50 34 2,16“ 2 18 7。



 赤い文字でそう書かれている紙を伊勢真一、あたしの幼馴染はあたしの隣で運動部らしい短く切り揃えた黒髪を掻きむしりながら睨んでいた。太陽死んだ?ってくらい冷たい廊下から教室に戻ってきたあたしはあたたかい空気を感じながら笑みを溢す。


 2/14、バレンタイン。

 家が近くて小中と仲の良かったこの幼馴染にチョコをあげるのは恒例となっていた。

 だが、今年は違う。

 なんでもかんでもほいほい貰えると思ってもらいたくない。

 そこであたしは一計を案じた。



『今年のバレンタインは、この暗号が解けたら……あげる』

『な、なにいぃいいい!?』



 いつものクソ馬鹿デカい声で驚く真一の顔を思い出し思わずくくくと笑ってしまう。

 本当にコイツは見ていて飽きない。何もかもリアクションが大きい。謎解き同好会に所属しているあたしが出す謎を解く時渋そうな顔や解けなくてヒントを乞う時の悔しそうな顔はあたしの大好物だ。



「おい、にやにやしてんじゃねーぞ」



 そして、これも恒例。あたしが愉悦に浸っていると真一の鋭い睨みが入る。

 だが、何も怖くない。何年この睨みを喰らってきたことか。


 出会いたての頃は本当にこの睨みがあたしは怖かったようで泣いていた。そう親から聞かされたけど、これは生来の目つきの悪さのせいで本人はそこまで怒ってはいない。

 あたしには分かる。だから、全然怖くない。逆ににまあと笑って言い返してやるのだ。



「おい、とろとろしてんじゃねーぞ。問題解ける前にチョコとけちゃうぞ」

「は! ……くそ! バレンタイン当日に謎出してくんじゃねーよ! もっと早く渡せっての!」



 当日に出すからこそ緊張感があるんじゃないか。今日とけなければ終わり。そのドキドキがいいんじゃないかとあたしは胸を押さえる。必死な顔で知恵を振り絞っているこいつの顔がたまらない。この熱い眼差しを見ているとにやにやしてしまう。サッカーの時くらいしか見せないガチの顔。これもあたしの大好物なのだ。


 あたしも小学校の頃はスポーツ少年団に入ってサッカーをしていた。低学年の頃はあたしの方が小さくて真一に怯えていたが、高学年になった頃にはあたしの方が大きくなって活躍していた。真一がよくサッカー勝負を挑んできては負けて、悔しそうに見上げる顔がおもしろかった。


 だけど、神は残酷だ。中学生になると、一気に真一の方が大きくなってしまう。こうなると力では勝てない。

 ならば知恵で真一に勝つ、と考えたあたしはクイズ研究会に入る。その時の真一の眉間に皺を寄せてあたしを睨みつける顔は滑稽だった。


 なので、中学からは知恵比べ、謎解き勝負になった。あたしの出す謎を真一が解けるかどうかの勝負。真一は真剣に問題に取り組むけど解けない事のほうが多くて悔しそうだった。


 高校に入ってからも勝負は続いた。だけど、いつまでもあたし達も子どもじゃない。

 いい加減、謎解き対決をずっとしている幼馴染という関係は終わらせるべきだ。

 高校生にもなれば恋を知る。あたしもそろそろ恋人を、と思うし、真一も告白されてた。


 だから、今回のバレンタイン謎解きが最後。真一には言ってないけどそうしようと思っている。



「くそ……わっかんねえ……!」



 1時間目の休み時間も2時間目の休み時間も、そのあともずっと真一はうんうん唸りながら考えていて、あたしはそれを見て笑っている。


 とけないならとけないでいい。

 それでもいいと思っていた。



(それに……)



 とけない振りをしてくれてもいい。

 そう出来るように今回は準備しておいたのだから。


 とけたらとけたでいい。

 とけなかったらとけなかったでいい。


 それでいい。


 あたしは、机の中に準備しているチョコの包みをぎゅっと握る。

 今回つくったチョコの難易度と謎の難易度が全然見合ってない所があたしらしいと自分にも笑ってしまう。


 とけてほしい。


 そう願っている自分がいる。



 でも、



 わからない、答えのない応えで安心したい自分もいる。


 チャイムがなって今日最後の授業が始まる。



(ああ、おわったんだ……)



 あたしはわらう。自分の臆病さにわらってしまう。


 チャイムが鳴る前に既に準備万端で立っている先生に恨み節の一つでもぶつけたくなるが、先生はただちゃんと真面目に先生をしているだけ、本気から逃げてるあたしがどうこう言えることじゃない。



「おい、伊勢。何やってんだ。授業始めるぞ、教科書出せ」



 真一が一生懸命解いてる謎の書かれた紙を片付けるように先生が促す。真一もほんと馬鹿だ。バレないように隠しながら解けばいいのにそういうことの出来ない真っ直ぐな馬鹿。あたしに隠し事出来ないし、あたしがいじめられてると知ったら飛び出して行っちゃう馬鹿。そんな真一が悔しそうに机の中に謎を片付けようとしている。


 ああ、とけなかったんだな……。

 あたしは、わらう。自分にわらってしまう。



「よーし、始めるぞ。じゃあ、教科書11ページ。今日は2月14日だから2番の、あ、い、石崎と14番目は……清水だな。二人で健一と幸恵の会話のところを読め」



 その時、ガタっと隣の真一が音を立てる。そして……慌てて謎の書かれた紙を取り出し、ペンを走らせる。幸い、前の席が石崎くんだったお陰で先生にはバレてない。だけど、この先生のパターンだと、このあとは次の出席番号に当てる。3番は真一だ。



「50音順……! なら、30、は……あ、か、さ、た、な……はが26だから、は、ひ、ふ、へ……」



 真一が必死で謎を解こうとしている。その表情は真剣そのもので、胸がどきどきと高鳴っていた。



(なんで、そんなに必死になってんのさ……あたしのチョコなんかで……)



 毎年あげてるものがもらえなくなったくらいで……他にも今年は貰えそうなくせに……あたしよりよっぽどかわいげのある子に……。

 そんな馬鹿な真一にバカなあたしは期待してしまう。

 少しずつ真一の目に光が宿っている、ような気がする。とけている。今、真一は答えに迫っている!



(がんばれ……! がんばれよお……!)



 あたしは何を応援しているのか。半分諦める為につくった謎じゃないか。

 それでも、机の中のチョコの包みを思わず強く握りしめて慌てて離す。

 汗をかくほど手が熱い。いや、身体全体が、あつい。


 ドキドキと心臓が脈打ち続ける。まるで真一を応援するみたいに強く何度も何度も胸を打ち続ける。


 前の石崎くんが座るその瞬間だった。真一はペンを投げ紙を掴む。そして、笑った。



「わかったぞ! ほ、ん、め、い! だ、い、す……!!!」



 そして……この馬鹿は声に出して読みやがった。


 幸い、最後の一文字は踏みとどまったみたいだけど。だけど、先生は真一と同じくらい真っ赤な顔をして怒っていた。



「伊勢ぇえ……! お前の順番だ……! 今の声に負けないくらい大きな声で読んでみようかあ……!」



 そして、真一は怒られた。思いっきり。



「って、おい。志摩!? お前、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か!?」



 あたしは心配された。思いっきり。

 しかも、真っ赤な顔で笑っていたせいでより心配された。


 もうほんとわらえる。色んな意味で。そして、いい意味で。


 そして、あたしにとって難易度過去最高だったチョコは難易度低めの謎をといた上であたしの欲しかったこたえをくれた男の口の中でとけた。ゆっくりとゆっくりと。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


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