6.目指すは・・・?
「とは言ったものの、どうするか・・・」
先程、サキに啖呵を切ったのはいいものの、早速途方に暮れていた。今は朝飯時も過ぎ、人が溢れる程に多くなってきた市の道端に座り眺めている。
オレの考えでは、必要なのは長いロープと滑りのいいボードだ。しかし、手に入れようにも何処で売っているのか分からない。
知り合いもバフテンさんとマリベルくらいしかいない。頼ろうにも、そもそも2人の重荷になりたくないから仕事を探していたのだ。
うーん、と周りが見えない程に悩んでおり、何気なく地面の砂に文字を書いて、ぼんやり過ごしていた為、彼女が近づいていることに気が付かなかった。
「な〜にしてるの?」
それは、ここ数日で聞き慣れたマリベルの声だった。今は日中なので、肌の露出を抑えた普段着だ。咄嗟に返事をしようと思ったが、代わりにオレの腹の虫が挨拶を返してくれた。
「いや、これは、飯食ってなくて、ははは・・・」
恥ずかしさより気まずさが込み上げてきて、なんだか言い訳がましい言葉になってしまった。
「なら、ちょうどよかった!私達も今から朝ご飯なんだよね。一緒に行こ?」
「マリベルは早朝にジョーを起こしに行った時食べたんじゃなかったかしら?」
クスクスとからかいながらバフテンさんも後ろからやってくる。もう一人、女の子を連れて。
一緒にいるところを見るにどうやら知り合いのようだが、当然オレは初対面だ。
褐色の肌にマリベルと同じくらい小柄な少女。
バフテンさんと色違いのような服を着ているあたり、占い師か?。
「えっと、おはようございます。バフテンさん、マリベル、それと・・・?」
「はい、おはようございます、ジョーさん。初めましてですね。私はバフテン先生の弟子、プリシラと申します。」
とても礼儀正しい子だ。オレの名を知っているようだが、まぁ二人が教えてくれたのだろう。それはそれとして、こちらも礼儀として改めて自己紹介する。
軽く挨拶を済ますと、プリシラさんは目を細め、にっこりと微笑みかけてくれた。・・・なんだか、この世界に来てから女の子ばかりと知り合っている気がする。
「そういえば、バフテンさんの弟子ってことだけど、今まで会わなかったね。」
「私の生家は中央区にありまして、両親に呼ばれて一週間程戻っていたんです。」
中央区・・・マリベルやサキから聞いたが、所謂支配者階級が住んでいるところだ。つまり貴族子女ってやつか?
「それじゃあ、ジョーさん。知り合った記念に、一緒に朝食はいかがですか?」
改めて食事に誘われて、オレはようやく腹の虫を聞かれた恥ずかしさが込み上げてきたのだった。
今は朝食時を過ぎたのだが、むしろ漁が終わった事で、新鮮な魚が料理店で提供され始める頃だ。
パンや卵と並び、この世界の主食である砂海の魚は人々の食生活を支えている。何をいいたいかというと、つまりウマイ魚料理が多いのだ。
・・・なんか漁に携わった身としては、すごく嬉しい。漁師歴は超短時間だが。
数日前から贔屓にしている店に足を運ぶと、四人で卓を囲んで、各々料理を楽しんでいた。
ちなみにサキの元を突然飛び出したので、相変わらずオレは無一文である。バフテンさん、ありがとうございます!(独り立ちになってない)
「それで、何に悩んでたの?仕事が見つからなかったかしら?」
核心は突かれなくとも、悩んでいたのはバフテンさんには見透かされていたようだ。丸テーブルの正面に座っており、こちらを心配そうにジッと見つめられる。
口に魚を頬張っている時、唐突に問われたので思わずむせこんでしまった。
「ゴホッ、いえ、仕事は、ゴホッ、見つかりました。」
丸テーブルの右隣に座っていたプリシラさんが、サッと水を渡してくれたので、急いで流し込んだ。
「ありがとう、プリシラさん、ゴホッ、マリベル。」
いえ、と微笑み返してくれた。優しい。マリベルは背中をさすってくれた。優しい。
「ごめんなさいね、いきなり聞いてしまって、でも悩みがあるなら遠慮なく言って貰っていいのよ?」
「でしたら、その、長めのロープと木の板が欲しくて、あと砂の上で浮く魔法陣もですね。」
「あら、だったら私の店で準備できるわよ?ほとんどお客さんが置いてったモノだけど。魔法陣を描くのは私の本職だし。」
なんと、悩んでいたのはなんだったのだろう!(独り立ちのためである。)
ありがたい申し出に二つ返事でお願いすると、食事を終え、早速バフテンさんの店へと向かった。
「そういえばさ、ジョーさんはどんな仕事始めたの?」
前を歩く師弟コンビは何やら難しい話をしているので、道すがら隣を歩くマリベルと雑談していると、当然のことを聞かれた。今朝、オレを起こしにきてくれていたらしいし、なにかと心配してくれてるんだな。
「漁師だよ。船に乗せて貰って魚獲ってきた。」
「へぇ〜、意外だね。ジョーさん物怖じしない性格だし、自分で商売を始めたのかと思ってたよ。」
自分で商売?そうか、その手もあったか。でも許可とか色々ややこしそうだな。
「そんな簡単に始められるのか?オレの世界では商売をするには国から営業許可とか貰わないといけないんだが。」
「営業許可?ってのはイマイチわからないけど、税務官にお金が払えるなら、どんな商売でも自由に始められるよ。」
なん、だと、
えっ、食品衛生法やら、独占禁止法やら、エトセトラ、エトセトラもろもろ無いのか?
確かに文明レベルといえばいいのか、それらはオレのいた世界よりは低いと思ってた。
ちょっとした衝撃を受けていたが、次のマリベルのセリフで揺れ動いていた心が決まった。
「商人なんかはだいぶ儲かるみたいだよ?こんな砂漠のど真ん中にあるザイナム=テロンなら、交易が盛んだし、お金持ちにもなれるかも。」
儲かる?金持ち?それは貧乏大学生であったオレにとって、どんな魔法よりも価値がある。
まだマリベルは説明を続けていたが、右から左へと話は流れていく。
商売、商人、船、漁、マンタ、頭の中はここ最近の情報を、まるでツギハギだらけの人形のように組み合わせている。そして形を成したのは一筋の道のような目標だ。
バフテンさんの店に着いてからは早かった。こじんまりとしたエントランス兼、占いをする部屋。その奥、プレゼントだという雑多品を仕舞っておく倉庫を色々漁らせてもらった。
2メートル近いゾウ?のぬいぐるみやら、そこそこの大きさの木箱にギチギチに詰められたウィッグやら、とんでもないモノがポンポン出てくる。それらは埃を被っているのが殆どで、明らかに不用品としてほっとかれている気がする。
その中から丈夫そうなロープと、何故ここにあるか分からないが、ベッドの底板のような綺麗な木の板を拝借した。
そしてそれをバフテンさんに渡し、魔法陣を描いてもらう。10分くらいで終わるらしいので、その間に倉庫をもう少し見せて貰うことにした。
────10分後。
「はい、ジョー。しっかり描いておいたわよ。一応魔法陣を弄らなければ板を加工しても大丈夫。」
「ありがとうございます!助かります!」
板にはもうちょっと工夫は必要だが、ひとまず明日の漁はなんとかなりそうだ。
そして、その後も展望も。
そう、金持ち!じゃなくて商人になるのだ。・・・いや、勿論金持ちになりたい。
その為にはサキにも協力を仰ぐことにしよう。
「フ、フフフフハハ!」
ちょうどバフテンさんが席を外した時、今はまだ存在しない未来に唾を呑み込み、つい笑みが溢れてしまう。残った二人の少女は訝しげにこちらを見ていたが、オレは気づかなかった。
「・・・なんだか、面白い方ですねジョーさん。」
「うん、たまに不気味だけど。」
二人は小声でボソボソ話しながら、倉庫で見つけた女の子のぬいぐるみの腕をピコピコと動かした。




