4.いざ砂海へ!その2
「どう?初めての砂海は?」
「いや、めちゃくちゃ快適だな。なんてったって波が無いもんな。船も不気味なくらいに揺れが少ないし。」
そう、波がないのだ、少しもない。水みたいな液体じゃないからか?なんて思ったが、じゃあなんで砂は流れてんだよ。と不毛な一人問答をした所で答えは出る筈がない。不思議なもんだ。
あと気になるのは船の後方に付いている水車だろう。砂を掻き出して船を前進させる為のもので、ガタゴトと木製の歯車が噛み合って、小気味いい音を出している。なんでも魔法陣の描かれた"エンジン"で動いているらしい。便利だな魔法陣。オレも覚えよっかな。
「そうだ、ジョー。これちゃんと着ておいてくれる?命に関わるからね。」
渡されたのは雨の日に着るカッパのような上着だった。というか命に関わるって何?
きょとんとしているのに気づいたのか補足をしてくれた。
「水と違って砂海には浮力が無いからね。人間が落っこちるとそのままズブズブ沈んでいっちゃうの。だから、こういった特別な魔法のかかった救命胴衣を着ておくんだよ。」
おいおい、初めて聞いたぜ?そんなSSS級の危険地帯だったのかよ。いまさらになって冷や汗ドバドバ出てきた。
「・・・ちなみに〜、船にもおんなじ魔法はかかってるんだよな?」
「もちろん!じゃなきゃとっくに沈んでるよ〜。というか失礼かもだけど、ジョーってあまり砂海に詳しくないんだね。中央区だと砂海を見たことない人もいるらしいけど、ジョーも中央出身なの?」
「いや、異世界出身。数日前にこの世界に来たばっか。」
「えっ!?異世界?」
さすがに驚かれるか。なんてったって荒唐無稽すぎる話だ。オレなら「なに言ってんだこいつ」となってるところだろう。
「だから珍しい名前なんだね!アタシこの砂漠しか知らないからさ、異世界の話聞かせてよ!」
って受け入れんの早すぎだろ!なんだ?バフテンさんといいマリベルといい、オレがおかしいのか?
「おっおう。どんな話がいい?」
「じゃあね、じゃあね!食べ物!おいしいもの!」
終始こんな調子でグイグイくるサキに気押されながら、たわいもない話しで盛り上がった。
「ついたよ!ここがいつもの場所!」
太陽がちょうど地平線から出切った頃、エンジンを止めた。ようやく目的地へと到着したらしい。
まぁ、遠くに小さく都市が見えるのと、所々に同業者らしき船がいる以外なんの変わり映えもない砂海だ。「いつもの場所」といっていたが目印なんてない。
「で、これ。銛と、網と、ルアーね!」
銛、網はわかる。だがルアーと言って渡されたのは、ゴムで出来た風船部分を握るとブゥ〜と鳴る、あのラッパみたいなやつだ。
「やりかたはね、まずルアーを砂に突っ込んで鳴らすでしょ。そしたら待つ。魚が来たら、銛で突いたり、網で掬う。以上っ。ねっ簡単でしょ?」
「おい、待ってくれ、色々聞きたいことがあるんだ。ひとつひとつ処理させてくれ。まず、なんでこの、ルアーってのを使うんだ?」
「ごめんごめん、説明不足だったね。この砂海にいる魚は水の魚と違って、目がほとんど見えないんだよ。その代わり振動を感知するんだ。そこでこのルアー!魚が仲間に"ここにご飯があるぞ〜"って教える声とおんなじらしくて、しばらくすると表面まで上がってくるの。」
なるほど、理に適ってる。確かに水と違って砂を見通せるわけがないもんな。だから振動を感知するよう進化した、と。追加情報によると、地表より上の音は拾えないらしく、いくら騒いでも大丈夫らしい。
「あと、気になってたんだが、浮力が無くて人間は沈むのに、なんで魚は沈まないんだ?」
「それはねぇ、あっ、ちょっと待って、今表面にきてる。」
ルアーの効果は適面なのか確かに砂の上に、黒っぽい魚が顔を出すところだった。そこに間髪入れずにサキが網を突っ込み、そのまま引っ張りあげた。
「えっと、さっきの続きだけど、これがその答え。」
そう言って見せてきたのは、異常な程に大きな胸ビレを持った魚だ。ピチピチと体をくねらせ暴れると、胸ビレがうちわのように風を煽いだ。
「このヒレで砂を掻き分けて泳ぐんだよ。ちなみにこのヒレ、めちゃくちゃ頑丈で人気あるんだよね〜。この魚の場合、ヒレだけのほうが高く売れるし。」
まじまじと観察させて貰ったが、やっぱり地球の魚とはまるで別物だな。環境が環境だからか面白い生態を持っているらしい。
「オレ!オレもやってみていい!?」
こんなん、クッソ楽しそうじゃねぇか!質問ばっかりするよりも、"習うより慣れろ"だよな?!
ワクワクが抑えられなくなったオレは、早速網を片手に漁を始めた。




