2.新しい日常
あれから家を譲ってくれたマリベルさんは他にもいろいろ手を焼いてくれた。正直オレの第一印象は最悪だったと思うんだが、それでも見捨てずにいてくれるのはこの子の優しさゆえだろう。特にこの殺人的な暑さには参った。今日の日本も相当暑かったがそれを遥かに凌駕していた。マリベルさんが見繕ってくれた服がなければ2日目もぶっ倒れていただろう。
そして、バフテンさんとも色々話した結果、超重要事項が二つ程判明した。
一つ目はこの世界のことだ。実際にオレも足を運んだが地平線の先まで砂漠が広がっている。そして何より砂が"流れて"いるのだ。これにはビビった。手を突っ込むとスルリと肘まで沈むくらいだ。日中の太陽で照らされホッカホカの砂だったのでクソ熱かった。死ぬ程後悔した。
だがなにより驚いたのはその"砂海"を魚が泳いでいて、それらを獲る為の船まで存在することだ。遥か向こうで巨大なマンタが跳ね飛んでいるのを見た時は言葉を失う程感動した。
二つ目は今いる都市、「ザイナム=テロン」だ。
約5万人が住み、オアシスを中心に広がる円形都市だそう。まじで小国くらいはある大都市だ。しかも四方は砂海に囲まれ完全に孤立している。
砂漠環境の為か地球のエジプトやインドなんかと酷似した文化が発展しているらしく、砂岩の建築物や肌を覆うターバンのような布地の衣装なんかが目をひいた。
あと何より料理だ。スパイスがたっぷりの肉料理がそこら中で作られていて、毎日開かれている大通りの市には香ばしい匂いが何処から共なくただよってくる。
「うっま〜!こほなんまいにちくっへるのは?」
(※こんなん毎日食ってるのか?)
バフテンさん達との話しがひと段落した後、奢ってくれるというので遠慮なく口を肉で満たしていた。夕刻も過ぎ、辺りは薄暗くなってきていたが市の賑わいは収まることはない。
「私も最初はいっぱい食べてたんですけどね。踊り子になってからはパンと卵ばっかりです。」
「マリベルはすーぐ肉がつくからねぇ、いろんなところに。」
ちょっと!とマリベルさんは頬を膨らませ抗議するがバフテンさんはクスクスと上品に笑い、どこ吹く風だ。
そんな可愛いやり取りもこの喧騒を彩る些細な日常。まだやってきて数日だがオレはそんなこの世界が好きになっていた。
「で、どうだったかしら?やっていけそう?」
「えぇ、なんとか。明日からは仕事を探してみようと思います。世話になってばかりだと悪いので。」
底抜けに優しい二人に甘えてばかりだとこちらのほうが気を使う。何より大学時代のバイト生活が染み付いていて、働かないと落ち着かない。もしかしてオレってワーカーホリックの才能があるんじゃないかしらン?
食事もそこそこに家路についたオレ達。すぐそこなのにマリベルさんは送っていくと聞かず、せっかくなので甘えることにした。可愛い子にせがまれたら断れないしな!
「これからも困ったことがあったら相談してくださいね!私・・・は、ともかく!バフテンさんはとっっても頼りになりますから!」
「うん、右も左もわからないし、どんどん頼らせてもらうよ。もちろん、マリベルさんにもね。」
「えへへっ、ありがとうございます!あと、私のことはマリベルって呼び捨てにして下さい!」
「・・・じゃあ、マリベル、これからもよろしくな。」
はいっ、と満面の笑みを返すとそのままバフテンさんの家へ走って行った。あぶねぇ、あまりの可愛いさでぶん殴られて心臓が跳ね上がったぞ。
なんにせよ、テンションは爆上がりしたし、明日からの仕事探し頑張らないとなー。とりあえず港に行ってみるか。
昼間に目星をつけた船があったからそこに乗せてもらえるといいんだが。




