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山羊の眼

作者: 江渡由太郎 原案:J・みきんど
掲載日:2025/12/17

 動画を再生した理由は、特にない。

 ただ、仕事から帰って、コンビニ弁当を食べ終え、風呂に入る気力もなく、ベッドに仰向けになったままあつしはスマホをいじっていただけだ。


 おすすめ欄に、見覚えのない動画があった。


【※音量注意※ 最後まで見てください】


 再生数は異常に少ない。

 コメントはオフ。

 サムネイルは、暗い部屋に置かれた何かの眼だった。


 白目がやけに黄色く、瞳孔は横長。

 ――山羊の眼だ。


 淳は本能的な直感では気味が悪いと思ったのに、指は止まらなかった。

 再生ボタンを押した瞬間、画面が暗転する。


 ザー……というノイズ。

 次に映ったのは、どこかのリビングだった。


 古い日本の住宅。

 見覚えがある気がして、背中がむず痒くなる。


 ソファ。

 テレビ。

 カーテンの柄。


 自分の部屋だった。


「……は?」


 思わず声が漏れた。

 動画の中の部屋は、今まさに自分が横たわっているこの部屋と寸分違わない。


 ただ、一点を除いて。


 動画の画面奥、テレビの反射に、

 こちらを見ている“何か”が映っていた。


 人間の輪郭をしている。

 だが、顔だけが異様だ。


 眼。

 横に裂けた、山羊の眼。


 まばたきもしないまま、じっとこちらを見ている。


 動画は無音だ。

 なのに、耳鳴りがひどくなった。


 再生時間は、まだ半分もいっていない。


 止めようとした。

 だが、画面が反応しない。


 動画の中で、“それ”が一歩だけ前に出た。


 テレビの反射越しに、こちらを見て笑った。


 その瞬間、スマホが熱を帯びた。


 視界が揺れ、部屋の空気が急に重くなる。


 首の後ろに悪寒が走り、ただならぬ不気味な気配がある。


 振り向いてはいけないと、本能が叫ぶ。

 だが、動画の再生は止まらない。


 画面の中の“それ”が口を開いた。


 声は出ない。

 だが、言葉は直接しみるように頭の内側に流れ込んでくる。


 「見たね」


 スマホの画面が、こちらを映した。


 ベッドに横たわる自分。

 蒼白な顔。

 眼だけが異様に見開かれている。


 そして――。

 その背後に立つ、山羊の眼。


 再生時間が、残り一秒になった。


 「終わりだと思った?」


 動画が終わった。


 画面は、いつものホーム画面に戻る。

 部屋は静か。

 何も起きていない。


 ……はずだった。


 首が痛い。


 否――違う。

 視線が首の後ろに“刺さっている”。


 振り向かなくても分かる。

 ――いる。


 見なくても、分かる。


 目を閉じても、スマホを投げ捨てても、布団をかぶっても――。


 山羊の眼は、淳の内側から見ている。


 それからというもの、動画を再生するたびに、ほんの一瞬だけ音が遅れる。


 鏡を見ると、自分の眼の奥に、横長の影が映る。


 眠る直前、必ず同じ囁きが聞こえる。


 「次は、どの動画を再生する?」


 苦しみは終わらない。

 再生されたからだ。





 ――あなたも……もう一度、スマホを手に取るだろう?


 そのとき、サムネイルの眼が、瞬きしていないかだけは、確かめたほうがいい。


 もっとも、確かめたところで、もう遅いのだが……。



 ――(完)――

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