運命の人
まず、最初に出た言葉は「なるほどな」だった。
*
端的に言って、私は珍しい家に生まれた。
やんごとなき一族の末裔だった。
そんな出身だったもので普通とは違った。
そんな私だが幼い頃から見る夢があった。
女性と見紛うほど美しい青年の夢だ。
何歳の頃から彼を知っていたのかなんてもうわからない。
なにせ、最も古い記憶の中には既に存在している顔だったのだ。
幼い私はそんな彼のことを『運命の人』なのだろうな、なんて思ってしまっていた。
出会ったことのない相手なのに誰よりも近しい人と感じてしまうほどに毎日のように顔を見ていたからだ。
月日は流れる。
普通ではない私も成長していく。
自分の道を揺るぎなく歩む。
親しいと思っていた相手から裏切られたり、反対に裏切ったり。
殺されかけたり、逆に殺したり……そんな日々の中でも夢の中に出てくる運命の人は変わらずに私を見つめていた。
そんなある日。
「抵抗勢力?」
部下の報告に眉をしかめて私は問う。
「今まで通り叩き潰せばよいだろう」
「はい。ですが、恐ろしく強い相手です。ただの人間ではありません」
「馬鹿馬鹿しい」
そう思いながら私は魔力を用いてその報告された人間の顔を覗く。
やんごとなき一族の末裔としてこの程度のことはお手の物だった。
そして、浮かんだ姿。
「ちまたでは勇者と呼ばれているそうです」
部下の言葉に時間が止まる。
そんな私の時が動き始め、最初に出た言葉は。
「なるほどな」
運命の人か。
確かにこれほどしっかりと運命に結ばれた相手もいるまい。
「いかがいたしますか。魔王様」
部下の言葉に私は笑う。
「最優先で殺せ」
いずれ出会う日が来ることを確信しながら、私は自らの生まれを呪い、そして心の中に残っていた最後の幼さと決別した。




