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リナの冒険ノート2  作者: リナ


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71/71

リナ、「七月の空気」を試し読みする

**20xx年7月1日(水曜日) 高校1年生**

**朝**


目を開けた瞬間、

カーテンの向こうが、いつもより白っぽくてまぶしかった。


(あ〜……完全に“夏っぽい光”になってきたな)


布団の中で、手足のだるさをざっとチェックする。


・足 → 軽くはないけど、階段くらいなら普通にいけそう。

・お腹 → 生理後ゾーンから、そろそろ次の周期の影ちらほら。

・頭 → ちゃんと起きてるけど、「あと5分だけ横になってたい」って駄々こねてる。


(今日は“元気少なめ元気デー”って感じか)


ベッドわきの体調メモを見る。


『6/29 元気少なめ元気デー(部活+汗)』

『6/30 なんとかデー(眠+ちょい頭重い)』


空いている7/1の欄に、ボールペンを走らせる。


『7/1 元気少なめ元気デー(七月スタート+湿気)』


(“七月スタート”って書いとくと、

 あとで見返したときちょっとだけドラマあるんだよな)


ぬるま湯で顔を洗って、

タオルでぽんぽんと水気を取って、

化粧水→乳液→日焼け止め。


(はい、本日の“3秒自分チェック”いきます)


鏡の前で自分と目を合わせる。


一、二、三。


(クマ、ギリセーフ。

 肌は、たまに出てくるプチっとしたやつ以外は、

 まあまあ落ち着いてる)


「……今日の私としては、ふつうにアリ」


口に出してみると、

(“まあアリ”から“ふつうにアリ”にランクアップした感ある)と、

ちょっとだけにやっとした。


前髪を整えて、

薄くパウダーをはたいて、

いつもの学校モードに切り替える。


(七月一発目、

 とりあえず“ちゃんと登校できてる自分”に◎つけとこ)


---


**午前(登校〜1時間目)**


家を出た瞬間、

湿った暖かい空気が、肌にぴたっと貼りついてきた。


(これ、もう“梅雨の終わりと夏の始まりがケンカしてる空気”だ)


通学路のあじさいは、

少し色あせてきていて、

かわりに街路樹の葉っぱが

「これから本気出します」って顔をしている。


駅までの道、

前を歩いていた小学生たちが、

ランドセルをゆさゆささせながらしゃべっていた。


「ねえ、アイスまた値上がりするんだって〜」

「え、やだ。もう百円で買えないじゃん」


(そういえばこの前、ニュースでもそんなこと言ってたな)


(アイスはあんまり食べないけど、

 “なんか全部ちょっとずつ高くなってるよね”っていう空気、

 じわじわ学校でも広がってきてる気がする)


電車の中では、

窓ガラスの向こうが

白くにじむみたいに明るい。


(七月。

 夏休みまで、あと少し)


(でも、その前にテストとレポートと、

 “なんか知らないうちに増えるプリント”たちがいるんだよな)


学校に着いて教室に入ると、

すでに数人がワイワイやっていた。


「おはよー」


「リナ、おはよ。なんか今日、空気ベタッとしてるよね」


椅子に座る前に、

鞄からハンカチを出して首もとを押さえる。


「分かる。“湿気デー”って感じ」


「なにそれ」


「“元気デー”とか“なんとかデー”とかあるじゃん。

 今日は“湿気多め元気デー”」


「名前増えてるし」


笑いながら、

窓際のあたりを一瞬見上げる。


夏の太陽が、

まだ本気半分くらいの力で

ガラスを叩いていた。


---


**昼休み**


午前中の授業が終わって、昼休み。


机をくっつけて、

いつものメンバーでお弁当タイム。


友達の一人が、

スマホをテーブル代わりの教科書の上に置いて、

ニュースアプリを見せてきた。


「ねえ、これ見た? 制服のスカート丈、

 来年から“自由度上げます”って言ってる高校あるらしいよ」


「え、まじ? 逆に?」


「なんか、“時代に合わせた見直し”とか書いてある」


(うちの学校でそれやったら、

 一部の先生が絶対発狂するやつ)


心の中でそう思いつつ、

手の甲をそっと見下ろす。


(はい、“翻訳+本音一言”スイッチオン)


「自由になるのはいいけどさ、

 “自由になったからにはこうしろ”って空気が

 増えないといいよね」


「それな〜。

 “短くしないの?”とか、

 逆に“長くない?”とか絶対言われるじゃん」


友達が一斉にうなずく。


「自由って言われた瞬間に、

 なんか逆にしんどくなるの、

 あるあるなんだよな……」


(“自由=好きにしていいよ”じゃなくて、

 “自由=周りの空気を自分で読み取れ”って

 言われてる感じになるとき、ほんと疲れる)


そこから話題は、

「夏休みの予定」と「海に行くかどうか」へ。


「海、行きたいけどさ〜」

「日焼けと砂と、そのあと絶対ヘトヘトになるのがな……」


私は、お弁当の蒸し野菜をつまみながら考える。


(海もいいけど、

 個人的には“冷房効いた図書館で本読む夏”も捨てがたいんだよな)


(あと、家でサーモン蒸してブルーベリー食べる夏)


(地味すぎてインスタ映えはしないけど、

 未来の自分からの評価は高そう)


---


**放課後**


授業が全部終わるころには、

外の空はちょっとだけ曇ってきていた。


(“夕立フラグ立ってます”って空)


部活は今日は軽めのメニュー。


汗をかきすぎない程度に走って、

ストレッチして、

早めに解散になった。


(ありがたい。“元気少なめ元気デー”にはちょうどいい負荷)


昇降口を出たところで、

同じクラスの子が声をかけてきた。


「ねえリナ、『二人の季節』さ、

 この前の“夏の途中のメモ”のとこ、めっちゃ好きだったんだけど」


「え、まじで?」


(心臓、急にドクンってなった)


「なんか、“夢”って言われると

 しんどくなることあるじゃん。

 でも“今いたい場所のメモ”って言い方、

 ちょっと気が楽になる感じして」


「あ〜それ、分かってもらえたの普通に嬉しい」


(やば。

 “自分のぐるぐるをそのまま入れた文章”、

 ちゃんと届いてる)


「続き書いたら、また読ませてね」


「うん。七月バージョン、がんばる」


校門を出て、

少し歩いたところで、

ポツ、と頬に何かが当たった。


(あ、やっぱ降ってきた)


慌てて傘を出して、

駅までの道を小走り。


地面に落ちる雨粒と、

アスファルトから立ちのぼる匂いが、

なんか一気に“夏休み前の日本”って感じを連れてくる。


(ニュースとか制服の話とか、

 アイスの値上がりとか、

 そういうの全部ひっくるめて、

 “二〇xx年の七月”なんだよな)


(このタイミングで高校生やってる私も、

 ちゃんとその中の一人なんだって思うと、

 ちょっと不思議)


---


**夜**


家に帰ると、

キッチンから蒸し器の音が聞こえた。


「おかえり。今日はサバとじゃがいもとブロッコリー蒸してるよ〜」


「あ、絶対おいしいやつ」


制服を脱いで、

軽くシャワーを浴びて汗を流してから、

ダイニングへ。


夕ご飯は、

サバと野菜の蒸しもの、

トマトと玉ねぎのマリネ、

豆腐とわかめのお味噌汁。


「なんかさ、最近また色々値段上がってるねって、

 スーパーのレジのところでも話題だったよ」


お母さんがぽつりと言う。


「そうなんだ」


「でも、魚と野菜蒸すやつは、

 まだコスパ的には優秀って思ってる」


「たしかに。

 未来の私の肌と体にもリターンあるし」


そう言いながら、

サバとブロッコリーを一緒に口に入れる。


(塩とレモンとオイルだけなのに、

 ちゃんと満足感あるのずるい)


ご飯のあと、

少し休んでからお風呂へ。


湯船に入ると、

今日の湿気で重くなっていた体が、

ゆっくり溶けていくみたいだった。


(あ〜……

 “湿気多め元気デー”の終盤に、

 お湯は普通に救世主)


湯船から上がって、

白湯を飲みながら、

スマホで3分のストレッチ動画をひとつ再生する。


(今日はちゃんと“白湯+3分ストレッチセット”できた)


太ももの裏を伸ばしながら、

(これくらいの長さなら、

 ギリ続けられそう)と、

ひそかにガッツポーズ。


部屋に戻って、

机にノートを広げる。


今日は『二人の季節』の、

七月の章の最初の一ページ。


さっきの雨の匂いと、

ニュースアプリのスクロール音と、

制服の話のモヤモヤを、

そのまま物語に流し込む。


> 「七月の空気には、

>  湿気と、ニュースと、

>  “自由”って言葉の重さが混ざっていた。

>  でも、果物売り場の冷気だけは、

>  相変わらず静かに未来の味がした。」


書き終わったところで、

一度ペンを置く。


(“夢”って言葉を出さなくても、

 ちゃんと「今ここにいたい場所」の話、

 書けるんだな)


(たぶんそれが、

 今の自分にとっての“七月バージョンの一歩”なんだと思う)


最後に、

英語ノートを開いて一行。


『July memo:


 The air is heavy,

 but I can still choose a small place

 where I want to stay today.


 → 空気は重いけど、

   それでも「今日ここにいたい場所」を

   小さく一つ選ぶことはできる。』


(ニュースも物価も校則も、

 私にはどうにもできない部分多いけど)


(“今日どこにいたいか”くらいは、

 自分で選んでいいよね)


そう思いながら、

ベッドの上で日記ノートを開いた。



## 後書き


**日記**


**20xx年7月1日(水曜日) 高校1年生 田中里奈**


今日は、

「七月の空気がちょっと重かったけど、

 その中で“自分の居場所のメモ”を一個だけ書けた日」だった。


お昼に、

制服のスカート丈のニュースを見て、

みんなで「自由って言われると逆にしんどいよね」って話になった。

“自由=好きにしていい”じゃなくて、

“自由=空気を読んで自分で調整してね”って

言われてるみたいな圧があるの、

やっぱりモヤモヤする。


でも、

そのあと放課後に

『二人の季節』を読んでくれてる子から

「“今いたい場所のメモ”って言い方が楽だった」って言われて、

自分のぐるぐるが、

ちゃんと誰かのところでやわらかく受け止められた感じがした。

そこで、「あ、やっぱり“夢”じゃなくて“今いたい場所”でしばらく行こう」って

自信がちょっとだけ増えた。


夜は、

サバと野菜の蒸しものを食べて、

白湯と一緒に3分ストレッチ動画を一本やった。

「ストレッチ=ちゃんとしたメニュー」じゃなくて、

“動画一本分だけ動く”って決めたら、

ベッドから立ち上がるハードルが少し下がった。

これはしばらく続けてみたい。


ニュースも物価も校則も、

私にはコントロールできないことばっかりだけど、

“今日ここにいたい場所”を小さく選ぶことと、

“未来の自分に票を入れるご飯”を一回作ることくらいなら、

たぶん私にもできる。


だから今日は、


「七月の空気はちょっと重かったけど、

 その中で選んだ私の居場所とご飯は、

 けっこう悪くなかったよ」


って、

ノートにメモしておく。


明日は明日で、また湿気とテストと、

よく分からない“自由”が押し寄せてくるんだろうけど——


今夜のところは、


I chose one small place for myself today.

It is good enough.


って書いて、

サバとレモンの味を思い出しながら、


今日はこれで、よし。


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