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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE5 帰れないげっこ様

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4-1 げっこ様を探して

 風が丘高等学校の校門前で待つハルたちのところへヒバリが戻って来たのは、日がすっかり落ちた頃だった。校舎内には生徒の姿はないが、教師たちがまだ仕事をしているようで、職員室やいくつかの教室には明かりが灯っていた。


「ヒバリさん、お帰りなさい」

「お帰り~、ヒバりん!」

「……戻りました」


 ヒバリはワサビへもの言いたげな視線を投げた後、鞄からげっこ様の石膏像を取り出した。


「こちらはお借りすることができました。一応、目が見つかった際の取り付け方も。お二人の方はどうですか?」

「ばっちり! どこで怪異が起きたかちゃんと調べといたよ~」

「私の方も無事に。経緯につきましては、後ほどご相談させていただきますね」


 ハルは二つの狐石をヒバリに見せながらそう言った。

 多田の件だ。いくら周りに人気(ひとけ)がないように見えていても、何かの拍子で話が誰かの耳に入ってしまう可能性もある。だから五十島家への戻る途中の車の中で話します、とハルが伝えると、ヒバリは特に疑問も抱いた風もなく「分かりました」と頷いた。

 ハルはそんなヒバリに狐石を手渡した。彼はすぐにそれを像の目に押し込む。すると、こつ、と小さな音を立てて像の目が嵌った。

 三人がほっと息を吐く。けれども一度は取れてしまったものだから、落ちやすくなってはいるだろう。持ち運びは慎重にしなければならない。


「それでは、げっこ様を探しに行きましょう」



   ◇  ◇  ◇



 校舎内に入ったハルたちは、ワサビが調べた情報を元に、怪異現象が起きた回数の多い場所から順番に周ることにした。

 職員室、二年一組、二組、それから三年一組と二組。携帯電話のライトを頼りに、げっこ様の像を周囲へ見せながら歩いているが、なかなか反応は現れない。


「ん~、意外と見つかんないね~。でもさ、不思議だよね。職員室以外、全部美術部関係なんだもん」

「たぶんそれは、キクコさんの気配を辿っていたんだと思います。目が見えないげっこ様からすれば、気配や霊力を辿るくらいしか、探す方法はなかったのだと」

「あー、にゃるほど! だから職員室でも起きてんだ。あそこ、先生たちの部屋だもんねぇ……って、あれ? でもさ、一年生にも美術部いたけど、あそこでは起きてないよ?」

「それは新入生だからでしょう。美術部でも、一年生ではキクコさんとは縁が薄い。だから彼女の気配がなくて探す必要がないし、探せない」

「あ、そっか。げっこ様も大変だねぇ……」


 そんな話をしながら、ハルたちは美術室へと到着した。周るのは、ここと美術準備室が最後だ。この二部屋にいなければ、もう一度同じ場所をぐるりと周回することになる。

 預かった鍵で扉を開けて、室内へと入る。

 しんと静まり返った美術室は、昼間とは打って変わって、どこか異界のような雰囲気を醸し出していた。入口側へ顔が向けられていた石膏像にワサビが小さく悲鳴を上げる中、ヒバリは淡々とした様子でげっこ様の像持ち上げた。


 ——その時、かたん、と小さな音が聞こえた。


 ハルたちは顔を見合わせると、音がした場所を探して携帯電話のライトを向ける。

 すると一番奥の窓際に置かれていたらしい絵筆が、床に転がっていた。


「……げっこ様、そちらにいらっしゃいますか?」


 ハルが呼びかける。すると少し間を空けて、返事代わりに落ちた絵筆がころんと動く。それを見て、ワサビが目を見開いたのが分かった。

 ハルとヒバリは軽く頷くと、落ちた絵筆の方へゆっくりと歩み寄る。ワサビはその後ろを慌ててついて来た。

 近付いて、一メートルほど手前で足を止めると、三人はその場にしゃがむ。


「私たちは五十島キクコさんから頼まれて、あなたを探しに来ました。五十島の家へ帰りましょう、げっこ様」


 ヒバリはそう言うと、げっこ様の像を前に差し出した。

 すると、ふわりと、どこか優しい霊力が恐る恐るハルたちに近寄ってくる。美術準備室で感じたものと同じだ。その霊力がげっこ様の像を包んだ時、ぼう、と狐石の目が淡く光った。


『おうち かえれる うれしい』


 不思議な響きを持った子供のような声が、頭の中に響いた。わ、とワサビが驚いた声を出す。そうしている間に、光はすうと消えた。


「……入ってくださったみたいですね」

「そのようです。あとは無事に家までお連れするだけ。……良かった」


 像を見ていたヒバリの表情が、ほんのりと柔らかくなる。カモメのことを考えているのだろうな、とハルは思った。

 げっこ様が五十島家へ戻れば、残すはカモメに取り憑いている霊の対処と、五十島家で起きている怪異現象の解決だけだ。

 そこでふと、温泉で出会った不思議な少女の言葉を思い出す。彼女は「皆で頑張っている」と言っていた。あれはげっこ様の関係者でなければ出てこない台詞だろう。そしてハルはあの子に対して悪い何かは感じなかった。

 そこで、あの子が良いものと仮定すると、少女は五十島家のげっこ様の代わりに家を守っているのではないか、という仮説が立つ。そして物が落ちたり、部屋が荒らされたりするのは、げっこ様が悪い何かと戦っているからではないか、とハルは推測する。


(……悪い何かが、五十島家にいる)


 それも、カモメに取り憑いているのとは別の何かが。


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