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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE5 帰れないげっこ様

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3-1 風が丘高等学校


 翌日、ハルはヒバリの運転する車で風が丘高等学校へとやって来た。昨晩出会った幽霊らしき女の子が言った「戻って来れなくなった子」がどうにも気になったのだ。

 彼女はハルたちが、五十島家へ仕事の依頼を受けて来たことを知っていた。あの子が何であるかは分からないが、こちらの事情を知っていると考えて良いだろう。

 五十島家に戻ってからハルはフユキたちに温泉での出来事を話したが、やはり無関係ではないだろう、との結論に至った。念のためキクコにも、家を出た時に誰かと一緒だったか訊いたが、不思議そうに首を横に振られてしまった。

 つまり女の子の話を信じるならば、キクコについて行ったのは見えない何か、ということになる。

 そんな事情で、風が丘高校で何か新しい情報が得られないかとやって来たわけだ。


 学校内の調査に関してはヒバリが許可を取ってくれている。以前に浮島リサーチが除霊をした時のことをだいぶ感謝しているようで、すんなりと話が通った。

 そうして学校の近くまで来ると、駐車場に車を停めて、ハルとヒバリは並んで校門へ向かった。

 すると、そこに誰かが立っているのが見えた。髪に赤色のメッシュを入れた大学生くらいの女性だ。あ、とハルは口を開けて、右手を挙げる。


「ワサビさん、こんにちは。お待たせしました」

「あっハルちゃん! この間ぶり~! 元気?」

「はい、元気です。すみません、わざわざ来ていただいて」

「いーよいーよ! 村雲さんにはタダ働きさせちゃったんだもん。手伝えることがあるなら、全然やっちゃうよ」


 そう言って女性——ワサビは人好きのする笑みを浮かべた。

 ワサビこと戸田ワサビ。先日の卯月駅の件で知り合ったオカルト系の元迷惑動画配信者だ。

 あの事件のあとも動画配信は続けているようだが、佐奇森を含む超常現象対策課の刑事からしっかりと説教されて、今では迷惑行為はきっぱり止めたと言っていた。彼女の動画をナツが時々見ているらしいが、迷惑行為のあった動画はすべて削除し、謝罪文も掲載。あの日を境に普通のオカルト動画を配信しているのだとか。


(普通のオカルト動画が何なのか、正直ちょっとよく分かりませんけれど)


 何にせよ、迷惑行為を止めたのならば何よりだとハルは思っている。


「……あの、ハルさん。彼女が仰っていた協力者ですか?」


 そんなことを考えながらワサビと挨拶を交わしていると、後ろに立ったヒバリが、やや困惑した風に訊いてきた。


「ええ、そうです。戸田ワサビさんです。ワサビさん、こちらは同業者で、浮島リサーチの氷見ヒバリさんです」

「どもども、初めまして。戸田です。オカルト関係で動画配信してまーす。よろしくー!」

「は、はあ……氷見です、どうも……」


 珍しくヒバリが押され気味だ。珍しいものを見たなと思いながら、ハルは校舎を見上げる。

 風が丘高等学校——山梨県にある女子高だ。

 本来、情報収集はナツの方が得意なのだが、さすがに女子高でうろちょろし辛い。そのためハルと、高校側に面識のあるヒバリが向かうことになったのだが、どちらも対人に少々不安がある。だから急遽ワサビに協力を依頼したのだ。もちろんアルバイトという形で、である。


「いや~、ちょうどヒマしてたから、新しい配信ネタができて嬉しいよ」

「くれぐれも土地等の詳細は入れないでくださいね。学校も依頼主の方も」

「だいじょーぶ、分かってるよ。フェイク入れて原型が分かんないようにするし、友達の友達から聞いたって感じにしておくから」

「それはほぼ創作では……本当に大丈夫なんですか?」


 ヒバリが胡乱なものを見る目をワサビへ向ける。疑いたくなる気持ちは分からないでもないが、まぁ大丈夫だろうとハルは思う。

 先日ワサビは怪異に遭遇しているため、彼女の行動には超常現象対策課が目を光らせている。おかしなことをしたら即座に連絡しますから、と佐奇森が冷え冷えとした笑顔つきで言っていて、それがワサビにはだいぶ効いている様子だったからだ。

 ちなみに彼女のその時の記憶は処置されていない。理由は、もともとオカルト関係の物事に耐性があってトラウマになっていないことと、今回のことを忘れたら再び迷惑動画を撮る可能性があるからだ。例外中の例外ではあるが、何かあれば処置をするということで、今のところはそのまま様子を見られている。

 ハルはそんなことを思い出しながら「恐らく」とヒバリに返す。

 それから三人はぞろぞろと校舎の中へと入った。


 風が丘高等学校は、ちょうど授業中のようだ。普段は賑やかであろう校舎内は、しん、と静まり返っている。ハルたちは職員室で挨拶をしてから、まず美術室のある東棟の三階へと向かった。


「そう言えばハルちゃんって高校生でしょ? 今日は授業ないの?」

「いえ、ありますよ。依頼が入ったのでお休みしています」

「あらら、休んじゃって大丈夫?」

「社会勉強も大事だって、アルバイトでの止むを得ないお休みは大目に見てくれるんです。もちろん頻繁にはダメですけどね」

「ああ、どうりでいつも……そちらの学校はずいぶん寛容なのですね」


 ヒバリも納得した様子で数回頷いていた。確かに、平日に高校生二人が平気な顔で仕事に来ていれば、不思議に思っても仕方がないだろう。

 ちなみにフユキは、ハルたちが依頼のために学校を休むことに関しては、あまり良い顔はしない。学生の本分は勉強と遊びだ。だから子供らしく元気にしっかり学生していろ、というのが彼の口癖である。そんなフユキを双子が揃って丸め込む……というのがいつもの流れだ。

 叔父が自分たちのことを心配してくれるのは嬉しいが、ハルたちとしては面倒を見てくれているフユキを手伝いたい。そこまで言うとフユキが複雑そうな顔になるので黙っているけれど。


「あ、ここだ、美術室」


 小さな声で話をしながら階段を上ると、すぐのところに美術室の室名札が見えた。

 相変わらず、この階も静かだ。職員室で聞いたところ、タイミングの良いことに今と次の時間は、美術の授業は行われないらしい。

 施錠されている美術室の鍵をヒバリが開け、三人は中へと入った。

 広い室内には、黒天板のテーブルが等間隔に並び、端にはイーゼルが少々雑にまとめられていた。窓際には人の顔を模した石膏像がずらりと整列してる。


「いかにもな美術室だねぇ。あたし、久々に来たよう」

「ワサビさんの大学にはないんですか?」

「ないない。うちは文系だから。高校生以来だよ、美術室なんて。は~、あの誰だか分からない石膏像も懐かし~!」


 ワサビはキャッキャツと楽しそうに、窓の方へと歩いて行く。


「……本当に大丈夫ですか?」

「……大丈夫です」


 ヒバリから小声で訊ねられて、ハルは少しだけ迷って頷いておいた。


「ねぇねぇハルちゃん、ヒバりん」

「ひ、ヒバりん……?」

「この学校で怪異現象が起きたんでしょ? 何だっけ、教室が荒らされたり、スピーカーから妙な声が聞こえたりだっけ?」

「え、ええ……そうです。美術室では起きていませんでしたが、あれは霊の仕業で、うちの所長が除霊をして解決しました」

「へぇー! そういう仕事、ちゃんとできる人たちって結構いるんだね。ほら、ホームページとか見てもさ、結構嘘っぽいこと書いてあるじゃん? だから、ヒバりんたちってどーかなーって思ってたんだよね」

「……喧嘩を売っているなら買いますよ?」

「違います、違います。買わないでください、ヒバリさん。褒めてるんですよ、これは。……たぶん」


 半眼になったヒバリを見て、ハルは慌ててフォローを入れる。ワサビに悪意がないことは確かだが、物言いが正直過ぎるせいでヒバリは不信感を抱いたようだ。

 これはよくない。協力者として呼んだのに、下手をすると喧嘩になってしまう。


(というかヒバリさん、売られた喧嘩は買うタイプなんですね……)


 いらない知識が増えてしまったと思いながら、ハルは両手をパンと鳴らす。


「それでは時間もないことですし、生徒さんがいないうちに調べてしまいましょう」


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