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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE5 帰れないげっこ様

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1-3 状況説明


 五十島家は、外から見た印象と同じく、中も昔ながらの日本家屋という雰囲気だった。

 何となくアキトの実家と似ている。ハルは言葉にこそしなかったものの、そんな風に思いながら家の中に上がらせてもらった。

 そうしていると、廊下の向こうから四十代前半くらいの女性が顔を出した。日に焼けていない白い肌をした綺麗な人だ。ただ、顔色があまり良くないように見える。


「あら……氷見さん。そちらの皆さんが同業者の方ですか?」

「はい。お話した村雲怪異探偵事務所の方々です」

「お邪魔します。すみません、大勢で押しかけてしまって」

「いえいえ、ご依頼をしたのは私たちの方ですから。どうぞよろしくお願いいたします」


 女性は微笑んで丁寧に頭を下げると戻って行った。


「今のは五十島キクコさんと言って、こちらのご当主の二番目の娘さんで、今回の依頼者です。美術教員で、赴任された高校から以前に依頼を受けた縁で、ご連絡くださいまして」

「学校かぁ。どこも大変だねぇ」


 そんな話をしながらハルたちはヒバリの案内で、長い廊下をぞろぞろと進む。

 突き当りの手前が、浮島リサーチで借りている部屋のようだ。障子戸をそっと開ける。部屋の中央に布団が敷かれていて、その中に茶髪の女性が眠っていた。

 彼女が浮島カモメだ。普段は騒がしいと言われるくらい賑やかな口は、今はぴったりと閉じられている。

 カモメを視界に入れた時、ハルは嫌な気配を感じて足を止めた。フユキとナツ、アキトも同じで、カモメを見たとたんに眉根を寄せている。


(何でしょう……?)


 眠るカモメをじっと見つめる。すると、彼女の体の内側に、重なるように人型の何かが入っていることに気が付いた。あれがカモメに取り憑いている霊だろう。かなり濃い霊力だ。

 しかし、同時にハルは違和感も覚えた。

 人型は、人型なのだ。しかし人の形をしているだけで、それが人間の霊だとはハルは感じなかった。

 霊であるのは確かだが、それでも何かおかしい。見た目と中身が違う。

 見ているとその人型は、たまにぶくぶくと、体のあちこちが小刻みに蠢いていた。

 その様子はまるで――。


「……袋に詰められた小魚、みたいな」


 ハルはぽそりとそうつぶやいた。

 ヒバリがパッとハルの方へ顔を向ける。


「……やはり目がいい。その通りです。あれは、何か(・・)の中に複数の霊が詰まっているものです」

「どういうことですか?」


 アキトが不思議そうに首を傾げる。ヒバリは彼を一瞥すると「集合霊ではないかと」と答えた。


「集合霊……?」

「集合霊ってのはね、言葉の通り霊が集まったもののことなんだけど……例えばほら、ロールプレイングゲームで弱いスライムが合体して強いスライムになるってあるじゃない? あんな感じ」

「は、はあ……すらいむ……?」


 ナツの説明に、アキトは分かったような分からないような、そんな顔になった。いまいちピンときていないようだ。ゲームをしない人からすれば仕方のない反応である。

 そんなアキトにナツはニッと笑って「よーし、あとで見せてあげる」と言っていた。あの顔は、趣味仲間を増やそうとしている時の顔だ。

 その最中もヒバリは相変わらずの無表情で、


「……ひとまず、そんなイメージです」

「なるほどな。だが、それでお宅さんらが祓えないってことはないだろう。それなのにカモメが取り憑かれて、除霊も無理ってんなら、あれは一体何なんだい?」

「分かりません。ただ、取り憑かれる前に所長は何かに気付いていて、そっちはだめだ、と叫んでいました」

「そっちはだめ……?」


 ハルは人差し指の背を顎に当てて首を傾げる。


「その口ぶりですと、霊がどこかへ行こうとしていた、という風に取れますが……」


 そこまで言って、ハルはハッとしてヒバリを見上げた。


「ヒバリさん。もしかしてカモメさんは、わざと自分に霊を取り憑かせたんじゃないですか?」


 カモメが除霊できるくらいの強さの霊だったのかどうかは、ハルにはまだ分からない。

 しかし結果として霊は除霊されておらず、どういうわけかカモメは霊がどこへも行かないように、敢えて自分の体の中に入れてこの場に留めた――ハルがそういえば、ヒバリは少し満足そうな様子でこくりと頷く。


「……ご明察の通り」

「はー……そういうことか。だから除霊できないって言ったわけね」


 フユキが腕を組んで深々と息を吐いた。それからヒバリをじろりと軽く睨む。


「事前に言えっての。ここへ来るまで心配したじゃねーかよ」

「すみません。皆さんがそこまで繊細だとは思わず……」


 ヒバリはしれっとした言ってのけた。おかげでフユキのこめかみがピクピクしている。

 無表情のヒバリが、どんな心情をしているのか分からないけれど、こういうところは浮島リサーチの人間らしい、とハルは肩をすくめた。


「それじゃあ、僕たちを呼んだのは、カモメさんに憑いた霊を除霊してくれってことじゃないんだね」

「はい。皆さんにお願いしたいのは、この霊がここに住み着いた原因の解決です。それができれば、除霊も問題なく行えるようになるかと。所長は意識を失う前に私にそう指示をしました。もっとも、村雲さんたちへ協力を依頼するよう勧めてくださったのは、佐奇森さんですが……」

「げっ」


 フユキが顔をしかめ、ハルとナツも「うわぁ……」とうんざりした声を出した。

 アキトはそんな三人の反応を不思議そうに見ている。


「どうしました?」

「いやぁ……起きたら絶対に文句言うだろうなって……」

「あ、そういう……」

「前は一時間くらい言われましたね……」

「解決したら佐奇森に全部押し付けてやる」


 フユキが凶悪な笑みを浮かべ、サングラスを押し上げる。

 それからもう一度カモメを見下ろし、


「それじゃあ、とっとと始めるか」


 調査開始の号令を出したのだった。


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