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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE4 異界へ繋がる無人駅

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4-1 電車のルール


 電車に乗り込んだ佐奇森が最初に感じたのは、音の変化だった。

 先ほどまでいたホームは何の音もしなかったが、中へ入ったとたんに、ガタンゴトンと電車が走る音が聞こえる。それでいて周りの風景は動いていないのだから、何とも奇妙なものである。


(フユキさんたちは五両目でしたね)


 心の中でつぶやいて足をそちらへ向ける。そのまま走り出そうと思ったが、先ほどナツが言っていた「迷惑客扱い」という言葉を思い出した。

 この電車は、一応はルールに則って動いている。ならば、そのルールから外れた行動を取れば、ペナルティが課せられるかもしれない。それが『のっぺっらぼうの車掌』ではないだろうか。

 佐奇森はそう考え、歩いて向かうことにした。


(それならば僕の行動も該当しそうですが……電車の()だったから、一応はルール外となったんでしょうか)


 その辺りはちゃんと検証してみないと分からないけれども。

 もしも適用されるのならば、残してきたハルのことが心配だが――彼女も村雲怪異探偵事務所の調査員だ。上手く対処するだろう。もしもの時は術を解除して電車を発車さえさせれば、この怪異はいったん姿を消すはずだ。


(しかし、それはしなさそうなんですよね、あの子。フユキさんに似て意外と頑固なところがありますから。ナツ君もですけれど……叔父と姪・甥も似るものなんですねぇ。呆れた時の顔とかそっくり)


 佐奇森はこれまで一緒にした仕事のことを思い出し、小さく笑いながら電車内を進む。


(ところでこの電車、一両が意外と長い)


 そして、そんなことを思った。

 佐奇森は二両目のドアから電車に乗り込んだのだが、フユキたちがいる五両目までなかなか辿り着けない。一両が妙に長いのだ。

 目で見える距離感は普通の長さなのに、いざ自分で進んでみると次の車両への貫通扉に一向に到着しない。まるで進んだ分だけ伸びているかのようだ。

 姑息、という表現が正しいかは微妙だが、この怪異はなかなか底意地が悪い。ふむ、と思いながら佐奇森は『目』を使うことにした。


 佐奇森は特殊な『目』を持っており、その場に霊的な現象や術が使用されれば、その現象の原因や術の使用者を追うことが出来るのである。ただし、それらが起きて一日以内と時間は限定されるのだが。

 便利だが不便、というのが自分の目に対する佐奇森の感想だ。

 その目で、じっ、と周囲を見回す。すると何の変哲も電車内の風景一転して、霊力の痕跡が、まるで血管のようにあちこちに残っているのが見えた。

 電車の姿をした生き物——そんな風に佐奇森には思えた。

 そうしていると、一ヶ所だけ、霊力の痕跡がまるで残っていない場所を見つけた。三両目へ繋がるドア近くの座席だ。


「……あれか」


 佐奇森はつぶやいてそちらへ近付く。

 そして慎重にその席に手で触れた時、フッ、と佐奇森は三両目への貫通扉を通った先にいた。

 ほんの一瞬だけ、乗り物酔いのような気持ち悪さを感じたが、すぐに治まった。何とも複雑な感覚だ。

 調べてみたい気持ちはあるが、それよりも今はフユキたちと合流する方が先である。何と言っても時間制限があるのだ。

 佐奇森は同じように電車内を『目』で見て、痕跡がまるで残っていない場所に触れて、次の車両へ移動する。

 四両目だ。そこでようやく佐奇森の耳に、人の声が聞こえた。


「ああ、くそ、しつこいっ! ナツ、戸田さん、前の車両に飛び込め!」

「オッケー!」

「ひえええ、わ、分かりましたぁっ!」


 そんな聞き覚えのある声と共に、五両目へ繋がる貫通扉が開く。

 バタバタと足音を立てながら走って来たのは、ナツと戸田ワサビ、少し遅れてフユキの三人だ。飛び込んですぐに、フユキは貫通扉を力任せに閉め、ロックをかけた。


「はぁ、ようやく引き離せた……って、あっ佐奇森さん! こんにちはー、本物?」


 一番最初に自分を見つけたらしいナツが、いつも通りの朗らかさでそう訊いてくる。佐奇森はくすりと笑って「本物ですよ」と頷いた。


「ああん? 佐奇森だって? 何してんだ、こんなところで」

「大変そうなご様子なので加勢に来たんですよ。ですが、思ったよりお元気そうで何よりです」

「そりゃどーもな。ところでハルはどうしたんだ?」


 フユキは(ハル)が一緒でないことに首を傾げる。


「ハルちゃんは電車の扉が閉じないように頑張ってくれています。大丈夫ですよ、無茶はしていませんから。まだ(・・)

「『まだ』がめちゃめちゃ不安だよ」

「ふふ、そうでしょう? ですから早く顔を見せてあげてください」

「ああ」


 佐奇森の言葉にフユキがニッと笑う。

 ――その時。

 彼の背後の貫通扉から、ドンッ、と殴りつけるような音が響いた。

 フユキは素早く振り返ると、扉のガラス越しにいるモノを見て舌打ちをする。

 そこにいたのはのっぺらぼうの車掌だ。先ほどナツが電話で言っていたものだろう。彼らは車両間の貫通扉を開けようと、拳で力任せに殴りつけている。


「はぁ」フユキはため息を吐く。「ほんっと元気なこった」

「では、戻りましょう。ところでフユキさんたちは、普通にドアから移動出来たんですか?」

「ん? ああ、一応中身は普通の電車だったからな。何かあったのか?」

「まぁ、ちょっと」


 フユキに訊かれたが、説明は後の方が良いだろうと佐奇森はにこりと笑っておく。先ほど妙な移動方法をさせられたのは、佐奇森が電車を傷つけたことに対する仕返しのようなものだったのかもしれない。


「とにかく脱出しましょう。先頭はナツくんと戸田さん、その後ろをフユキさん、僕の順番で」

「はーい! それじゃ戸田さん、ちゃんとついて来てね」

「う、うん! お、お、お、お世話かけます!」


 ナツが愛用の刀(白雉丸)を手にニカッと笑って言うと、ワサビはこくこくと何度も頷いた。表情は恐怖と緊張で強張っているものの、佐奇森が考えていたよりも元気そうだ。


「それじゃ行きまーす!」


 ナツの明るい掛け声と共に、佐奇森たちは走り出す。

 ――ほぼ同時に、背後で貫通扉が吹き飛ぶ音を聞きながら。



   ◇ ◇ ◇



 一方その頃、ハルは通話を繋げたままの携帯電話から、佐奇森たちのやり取りを聞いていた。

 彼らが無事に合流出来たことに安堵しつつ――何かが吹き飛んだ音にぎょっとする。


(中で何が……)


 やり取りこそ聞こえているものの、音声は少々くぐもっている。恐らくフユキが携帯電話を服のポケットの中に入れているからだろう。だから詳しい状況は分からないのだ。

 分かるのは「荒事が起きたんだな」くらいだ。

 そういう状況に対処可能な人間が三人いるので、大丈夫だとは思うがやはり心配ではある。


(それに……)


 ハルは電車のドアへ目を向ける。

 防御術で出した盾で、ドアが閉じるのを強引に妨げているのだが、当たっている場所からギチギチと音が鳴っている。

 結構な力で閉じようとしているようだ。ハルの盾にも少しヒビが入り出していた。


(これは良くない)


 ハルは眉を顰める。フユキにはドアを開けていられるのは十五分くらいが限界だと伝えたが、もっと早まるかもしれない。念のためストッパー用の盾を増やしてはいるが、こちらも限度がある。あまり多くし過ぎると入り口が塞がって、フユキたちが出て来られなくなるからだ。

 どうしたものかとハルが一瞬悩んだタイミングで、ドアの閉まる力が少し強くなった気がした。


「後ろ向きに考えてはいかんよ、お嬢さん」

「っ!」


 その時すぐ隣から声が聞こえた。

 ぎょっとしてハルが顔を向けると、そこには須々田が立っている。


「須々田さん?」


 驚きつつ、幽霊なら突然現れるのも当然かと思い直し、ハルは確認するように名前を呼ぶ。

 しかし須々田はハルの方へ顔を向けず、手を後ろで組んだまま、電車を真っ直ぐに見つめていた。

 須々田の横顔を見ながら、ハルは少し考えて「後ろ向きですか?」と訊き返す。すると彼は「そうだとも」と頷いた。


「ここはどうやって出来たと思う?」

「————!」


 質問を返すような須々田の言葉に、ハルはハッとした。

 そうだ。そうだった。ここは『そういう場所』なのだ。

 この怪異は人が意味を持たせたことで生まれた。人の言葉や思い込みが言霊となって出来てしまったものなのだ。

 だからこそ、そういうものが影響を及ぼす。

 つまりハルの抱いている不安——電車のドアが閉じてしまうかもとか、フユキたちが間に合わないかもとか、そういう後ろ向きな想像が怪異へ作用しているのだ。


「電車はドアが開いている限り出発しません。叔父さんたちもそろそろ戻って来ます。大丈夫、上手くいきます」


 自分に言い聞かせるように、ハルが明るい言葉を口にする。


「ありがとうございます、須々田さん」


 それから気づかせてくれた須々田へお礼を言う。

 すると須々田の口の端が上がった。


「なぁに、ゴミを拾ってくれたお礼だ。頑張れよ、お嬢さん」


 彼は朗らかにそう言うと、すうっと体が透けて、周りの景色に溶けるように消えていった。

 それから程なくして、電車内から複数人の足音が聞こえてきた。


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