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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE4 異界へ繋がる無人駅

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2-2 勝手に都市伝説扱い


「というわけで僕のお願いはこれで完了です。ありがとうございました、ハルちゃん。いやぁ、やっぱり村雲の皆さんは頼りになりますねぇ」


 先ほどまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、佐奇森はパッと明るく切り替えた。叔父のフユキが佐奇森のことを「オンオフが激しい奴だ」とぼやいているのをハルは聞いたことがあったが、こういうことなのだろう。佐奇森にまだ慣れていないアキトは「えっと……」と呆気に取られている。


(たぶんこれは、佐奇森さんなりの情報共有だったんでしょうね)


 彼らには仕事上で守秘義務というものが存在する。

 今回の件で言えば、いくらハルたちが末木家の事件に関わっていたとしても話せない情報はある。それを伝えるための手段として、佐奇森は指輪を依頼として使ったのだろう。

 少々癖はあるものの、真面目で親切な人なのだ、本当に。

 ならばこちらも、きちんと情報共有をしなければならない。

 ハルは軽く頷くと「それでは、こちらのお話をさせていただきますね」と切り出した。

 そして順を追って話をして行くと、途中から佐奇森の目がだんだんと剣呑な色を帯び始めた。こうなるだろうなと予想はしていたが怒っている。


「……なるほど。戸田ワサビさんですね。彼女のチャンネルについてはこちらでも把握しています。困ったものです、本当に」


 佐奇森は呆れ交じりにため息を吐いた。


(ナツも言っていましたが、佐奇森さん、こういうの嫌いなんですよね)


 彼は心霊・オカルト系の迷惑配信者を特に嫌っているようだった。怪異や霊的な現象が絡んだ事件を担当する課に所属しているからというのはもちろんあるだろう。そういう類の人間を相手にする時、佐奇森は柔和な表情を浮かべて、相手の痛いところを鋭い刃物でぐさりとさすような辛辣なことを言っている姿を、ハルも何度か見たことがあった。その時の相手の青ざめた顔と言ったら。あれを真正面から受けたなら、ハルだってしばらく引きずるかもしれない。

 幸い、ハルもそういう系統の悪ふざけは好きではないので、同じ目に合うことはないだろう。しかし、無意識に片足を突っ込んでしまう可能性はあるので、気を付けようとは思っている。


「それにしても異界へ繋がる駅ですか……」


 お茶を飲みつつ話を聞いてくれていた佐奇森が、ふむ、とつぶやいた。


「その駅の周辺で騒ぐ人間がいると何度か通報があったので、うちの課でも調査したことがあるんですよね」

「あら、そうでしたか。何か見つかりましたか?」

「薄っすらと霊力の痕跡があったくらいですねぇ」


 霊力の痕跡、つまり霊力を使って何かしらが行われたか、霊力を一定量持った者がその場に干渉をしたということを意味する。

 しかし、その痕跡が薄っすらとしたものであれば、幽霊がふらっと現れたとか、そのくらいのものかもしれない。


(佐奇森さんのこの言い方ですと、それ以外は特に問題がなかったんでしょうね)


 自分の目でも見てみようとハルが考えていると、


「ハルちゃんは卯月駅がミステリースポット扱いされていることはご存じですか?」


 佐奇森からそんな質問をされた。


「あ、はい。先ほど少しだけ調べました。名前のせいですよね?」

「ええ、そうです。卯月という言葉はきさらぎとも読める。それで一部の人間がとある都市伝説とそっくりだと面白がって広めたんですよ」


 困ったものです、と佐奇森は両手を軽く開いてみせた。

 その都市伝説は、ハルが生まれるまれるより前に、インターネットの匿名掲示板で話題になったものだ。電車に乗って気が付いたら異界へ行ってしまっていた――それが真実か否かは不明だが、その話題性から小説やゲーム、漫画や映画などの題材として、様々なフィクションが作られている。


「勝手にミステリースポット扱いをして大騒ぎするものですから、駅の近くにお住いの皆さんがだいぶお困りで」

「ああー……それはそうなりますよね」

「ああいうのは一度、しっかりと痛い目を見た方が良いんですけどね……僕の立場上、そうするわけにもいかないんですが」

「そうですねぇ。あ、でも、ナツも同じようなことを言っていましたよ」

「おや、ナツくんが。フフ、気が合いますねぇ」


 佐奇森がくすりと微笑んだ。何となくだが少しだけ機嫌が良くなったようにハルには見えた。


「フユキさんとナツくんは卯月駅にいるんですよね。ハルちゃんもこの後向かわれるのですか?」

「はい。そのつもりでいます」

「なるほど。では、良かったらお送りしますよ。行方不明となった戸田ワサビさんの捜索の件もありますし。それに怪異や霊的な現象が起きているのなら、調べるタイミングとしてもちょうど良い」

「それは助かりますが……佐奇森さんもお忙しいのではありませんか?」

「大丈夫ですよ。仕事なんていつも山のようにありますから、一つなら増えても減っても一緒です」


 佐奇森は何とも良い笑顔でそう言い切った。


(それは一緒ではないのでは……?)


 ハルはそう思ったが、とりあえず黙っておいた。


「いやぁ、フユキさんと一緒にしっかり捜査をするのは久しぶりなので楽しみですねぇ」

「叔父さんが嫌そうな顔をしそうですねぇ」

「フフ。フユキさんは素直じゃないですからねぇ」


 佐奇森は楽しそうな笑顔を浮かべている。

 彼に悪気は――ないのかあるかハルには分からないが、フユキの反応を見て遊んでいるような節はある。

 それが分かっているからフユキも、ああいう反応をするのだろう。


(でも仲は悪くないんですよね。よく一緒に飲みに行っていますし)


 そんなことを思い出していると、携帯電話の着信音が鳴った。

 おや、と画面を確認すれば、表示されていたのはフユキの名前だ。


「噂をすれば」

「フユキさんですか?」

「はい。すみません、出させていただいても?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ハルは携帯電話を操作して耳に当てる。

 すると、まず聞こえてきたのは妙なノイズだった。


「……? はい、ハルです。叔父さん、どうしました?」

「――ハルか? ――が―――で、あ……——づき――……」


 フユキの声はするが、ノイズが大きくて聞き取り難い。


「叔父さん? 電波が悪いのかな……」

「電波ですか? あの辺りは問題なく届いていたはずですが……」

「え?」


 怪訝そうな佐奇森の言葉に、ハルは軽く目を見開く。


「叔父さん? 聞こえますか、叔父さん。大丈夫ですか?」

「――駅———異界——……は――」


 ハルは大きめの声でフユキに呼びかけるが、相変わらず断片的な言葉しか聞こえない。

 むしろノイズがより酷くなっている。

 まさか、とハルが思った時。


『次の駅は彼岸――彼岸――』


 車掌のアナウンスのような音声だけがはっきりと聞こえ、直後にブツッと通話が切れた。

 何か良くないことが起きている。ハルは頭から水をかけられたような顔で佐奇森の方を向いた。佐奇森は真剣な表情をしていた。


「何かあったんですね」

「はい。叔父さんとナツが、異界へ繋がる駅に入ってしまったかもしれません」


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