表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE3 怪異の殺人未遂事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/57

3-2 末木兄妹


 ミルと別れたハルは、いったん屋敷の庭に出た。

 周囲には人の姿は見えないものの、少し離れてからハルはアキトへ電話をかける。

 数コールの後で『はい、灰鐘です』と声が聞こえた。


「お疲れ様です、アキトさん。ハルです」

『ハルさん、お疲れ様です。そちらはどうですか?』

「ぼちぼちという感じですね。その関係で、調べていただきたいことがありまして」

『何でしょう?』

「二年前に、末木ミナトさんが起こした傷害事件と、他に末木家が絡んだ事件がないか、探していただきたくて」


 先ほどミルから聞いた話だ。詳細を話すことは、前当主から禁じられているからと、それ以上のことは聞けなかった。

 けれど、もしかしたら当時の新聞記事や、ネットの書き込みに何か残っているのではないかと思い、ハルはアキトに頼んだのだ。


(事件を起こしても、なかったことにされているかもしれませんが……)


 佐奇森の話では、高校時代に起こしたトラブルも、親の力で揉み消したらしいし、公には残っていない可能性の方が高い。

 しかし、人の口に戸は立てられない。インターネットが発達した今なら特にそうだ。一度、世の中に出たものは、完全に消すことはできないのだ。


「佐奇森さんの話にもありましたし、もしかしたら何も見つからないかもしれませんが、お願い出来ますか?」

『分かりました。調べてみますね』

「よろしくお願いします。……ところで、そちらは大丈夫ですか? 困ったことはありませんか?」


 話のついでに、ハルはアキトにそう訊ねる。

 彼が村雲怪異探偵事務所へ来てから、それほど時間が経っていない。

 環境も、アキトが暮らしていた場所とは全然違うため、何か不便がないかと心配なのである。

 ちなみにこれはハルだけではなく、ナツやフユキもそうだ。三人はそれぞれに、アキトを気にかけていた。


『ふふ、ありがとうございます。今のところは大丈夫です』

「そうですか、それは良かった。些細なことでも、気になったことがあったら連絡してくださいね。それでは、また後で」


 そう言って、ハルは通話を切った。


(ちょっと過保護でしょうかね)


 携帯電話の画面を眺めながら、ハルがそんなことを考えていると、


「はぁー? リスケって何だよ。わざわざ時間を作ってやったってのに……俺が誰だか分ってんのか? 末木の……おい、聞いてんのか、マネージャー!? ああっくそ、切られた」


 舌打ちと共に、乱暴な怒鳴り声が聞こえてきた。

 ちょうど門のある方角からだ。


(今、末木と言いましたね)


 揉め事なら巻き込まれたくはないが、気になる名前が入っていた。

 一応は確認しておこうと、ハルがそっとそちらへ向かう。

 念のため建物の裏手からぐるりと回り、そこの角からそっと覗き込めば、門から少し入った場所に金髪の男がいて、携帯電話を睨みつけていた。


 歳は二十代半ばくらい。目を吊り上げ、険しい表情をしているが、顔立ちは末木シキミと似ている。

 先ほどの物言いから考えても、恐らく彼が兄のミナトだろう。


(それにしても、ずいぶんと古典的な怒鳴り方を)


 などと心の中で感想を言って、ハルは顔を引っ込める。 

 顔の確認だけ出来ればそれで良い。荒れている知らない他人のところへ、わざわざ近付くつもりはない。


(アキトさんと話が出来たし、中へ戻――)


 ハルが屋敷の方へ向かおうとした時、


「ちょっと兄さん。中まで声が聞こえているわ」


 シキミの声が聞こえた。

 おや、と思ってハルは足を止める。


「……何だ、お前かよ。別に関係ないだろっ」

「あるわよ。周りの目を考えてちょうだい。こんな場所で怒鳴り散らすだなんて、末木の人間として品性を疑われるわ」

「はっ、周りの目ねぇ? それを言うなら、お前だってそうだろ。ドッペルゲンガーなんて、ありもしないモノに怯えるなんてさ。そんなにメンタルが弱くて、末木の当主が務まるのか?」

「……っ」


 ずいぶんと馬鹿にした物言いである。普段からこれ(・・)なら、使用人の間でも評判が悪いのも頷ける。

 もしかしたら、兄妹ということで言いやすい、というのもあるかもしれないが。


(――なんて、私も盗み聞きは良くないですね)


 ついつい聞き耳を立ててしまったが、これでは、どの口でナツに注意をしたのだと言われてもおかしくない。

 ハルは軽く頭を振って、来た道を戻ろうと歩き出す。

 しかし――、


「そもそも俺が当主を外されたのは、お前が原因なのにさぁ」


 後ろから聞こえて来た言葉に、ハルは再び、足が止まりそうになった。


「兄さん!」

「ああ、分かってるよ。分かってるから、今回も頼むぜ? ちょいと生活費が厳しくてさぁ~」

「……分かったわ。だから、大きな声で言わないで。早く中へ入ってちょうだい」

「はいはい」


 二人はそんなやり取りをしながら、屋敷の中へと入っていった。

 カタン、と扉が閉まる音を聞いてから、ハルはため息を吐く。


(……嫌な話を聞いてしまった)


 うんざりとした気持ちになりながら、自分も屋敷の中へ戻ろうと歩き出した時、ピシッ、と何かが割れるような軋むような、そんな音が庭の片隅から聞こえた。

 おや、とハルは音のした方へ顔を向ける。

 そこには一本の桜の木が生えていた。青々とした葉をつけて、風に揺られる桜の木を見たハルは、あることに気が付く。


(植物が枯れている……?)


 桜の木の根元、半径三十センチほどの広さに生えた草花が、茶色になっている。

 夏の暑さで萎れたという雰囲気ではない。

 ハルが、じっ、とそこを見つめていると、ふっとした時、蜃気楼のように空気が揺れた(・・・)


「今のは……」


 ハルは近付くと、しゃがんで、木の根元の辺りに指先でそっと触れる。

 すると、ぴりっ、とした静電気のような刺激を感じた。

 ハルは目を細めると、スカートから扇子を取り出し、先端を指で触れたのと同じ場所へ向ける。

 そして術を焼く(・・)のと同じように、自身の霊力を土へ覆いかぶせていく。

 とたんに、ちりちりと小さな光と共に、木の根元が焼け始めた。


(術……の残り香ですね)


 そう思いながら続ける。

 ややあって、光は消えたの確認すると、ハルは扇子を仕舞って今度は手で土を掘り出した。


 ――すると。

 土の中に、割れた鏡がいくつも埋まっているのを発見したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ