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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE3 怪異の殺人未遂事件

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1-2 厄介な依頼


「被害者は末木(すえぎ)シキミという、二十二歳の女性です。ジュエリー・スエギという会社はご存じでしょうか? そこの社長さんなんです」

「確か、星や月をモチーフにしたデザインの、アクセサリーを作っているお店じゃない? うちのクラスの子が、バイト代を貯めて買ったって見せてくれたよ。ブレスレットだったけど、結構かわいかったなぁ」


 そう言いながら、ナツは携帯電話を取り出して操作する。

 少しして「あ、これこれ」と言って、画面を見せてくれた。

 そこには、ジュエリー・スエギのホームページが表示されていて、ファンシーなデザインのアクセサリーの写真が載っている。


(確かに綺麗ですね……うん?)


 見ていたら、ふとそのデザインに、ハルは何か既視感(きしかん)を覚えた。


(この絵、どこかで……)


 最近、これに似たデザインを、どこかで見た気がする。

 ハルは、顎に指を当ててしばらく考えて、やがて「あっ」と思い出した。


「どうしたの?」

「いえ、ちょっと……」


 それから自分の携帯電話を、スカートのポケットから引っ張り出すと、画像フォルダを開く。

 ややあって、それ(・・)を見つけると、ナツの携帯電話と並べて皆に見せた。


「このデザインと似ていませんか?」


 そう言って示したそれは、先日、代永(よなが)高校の旧校舎で拾った『月夜のヨナガにおまじない』という本の表紙だ。

 あの時、少々気になったので、写真を撮っておいたのである。

 月と星の描かれた、神秘的なあの表紙。ジュエリー・スエギのホームページに載っている、アクセサリーのデザインとよく似ている。


「お気付きになりましたか。さすがハルちゃん」


 佐奇森は、ぱちぱちと拍手をして微笑む。褒められて嬉しいような、試されて複雑なような、何とも言えない気分ながら、ひとまず「ありがとうございます」とハルは返した。


 先日の旧校舎のドッペルゲンガー事件。ハルたちは、鏡に仕掛けられていた術を解除した後、フユキを通じて佐奇森に連絡をしてもらっていた。

 そして彼らが捜査へやって来た時に、おまじないの本も預けたのである。


「つまり、代永高校の件と関係しているってことか?」

「ええ、僕はそう見ています。何せ、末木さんの家に現れたのも、ドッペルゲンガーでしたから」

「ははーん」


 フユキは顎を撫でて、口の端を上げた。

 先ほどの嫌そうな態度はどこへやら、少々ノッてきたらしい。


「ハルとナツに、ちょっかいを出した奴をこらしめられるってのは、悪くねぇ仕事だな」

「ちょっとちょっと、叔父さん。僕たちを狙ったわけじゃないでしょ」

「結果だけ見りゃ同じだよ。学校の連中を無差別に狙ったんなら、お前らもその中に入っているだろ」

「それはそうですけれど」


 合っているような、いないような。何なら自分たちで首を突っ込んだようなものだけれど。


(まぁ、いいか)


 ハルはそう思うことにした。

 それに、旧校舎のドッペルゲンガー事件については、警察におまかせしたとは言え、ハルも気になっていたのだ。

 犯人が誰なのか、日向ユリにとって大事な『おまじない』を使って、何故あんな真似をしたのか――それを明らかにしたい気持ちはハルにもある。


「叔父さんだけじゃなくて、ハルまでやる気になってる……」

「ハルさん、意外と分かりやすいですよね」

「ね~」


 ナツとアキトがそんなやり取りをしているのをよそに、


「しっかし末木って言えば……確か浮島(うきしま)家と付き合いがあったなぁ」


 フユキのつぶやきが耳に届いた。

 とたんにハルとナツの表情が、揃ってぴしりと固まる。

 それを見て、アキトは首を傾げた。


「ハルさんとナツ君、どうしたんですか?」

「いえ、その……浮島の名前を聞いたので……」

「お知り合いですか?」

「うん……。あんまり関わりたくない家なんだよねぇ」


 ハルとナツが苦い声で答えると、アキトが目をぱちぱちと瞬いた。


「二人がそう言うのは珍しいですね」


 そうだろうか、とハルは考える。

 ハルもナツも、人当たりは良い方だが、人の好き嫌いはそれなりにあるのだ。その最たる例は村雲の本家だが――まぁ、それはともかくである。


「浮島の人たちって、昔から妙に突っかかって来るんだよね」

「まぁ、私たち個人へと言うよりは、村雲家に対してですけれど。あの人たち、村雲家に敵愾心(てきがいしん)を持っているみたいなので」


 そう答えると、アキトは神妙な顔で「大変ですね……」と言ってくれた。

 もしかしたら、彼自身の境遇を思い出したのかもしれない。


「関わりたくねぇのは俺も同感だがな。しかし、佐奇森。よくうちに持って来たな。いくら旧校舎の件と関わっているとはいえ、関係的には、浮島の方が適任だっただろう?」


 フユキがそう訊くと、


「そうですね。最初はそう考えていたのですが、少々胸騒ぎがしまして。ですから占ったのですよ。その結果を見て、村雲怪異探偵事務所へおまかせした方が良いと判断しました」


 佐奇森はそう答えた。


(佐奇森さんの占いか……)


 彼はタロット占いを嗜んでいるのだが、昔からよく当たる(・・・)

 特に『悪い方』での的中率が高い。そして彼は、その占いの結果を見て、厄介な依頼ほど、村雲怪異探偵事務所へ持ってくる。


 信用はされているのだろう。

 実際に、フユキが一人で仕事をしていた頃からずっと、超常現象対策課から届けられた依頼に関しては、すべて解決している。


 依頼解決率百パーセント。

 それは誇らしいことではあるものの、その反面、この業界において異常とも受け取られる。


「…………分かった。引き受けよう」

「ありがとうございます」


 静かに頷いたフユキに、佐奇森はやって来た時と同じ微笑を浮かべたのだった。


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