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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE1 口無村の山神

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2-9 夜


 その日の夜、ハルは伊吹からナツが熱を出したという連絡を受けた。

 山で遭難しかけた際に雨に濡れた事と、今回のお社で受けた呪いのせいで体力を消耗したためだろう。


「灰鐘さんが別に部屋を用意してくれたんだ。一人の方がゆっくり休めるでしょうからって」


 伊吹はそう教えてくれた。

 その心遣いはありがたいが、正直に言えば今のこの状況で、ナツを一晩一人にするのはだいぶ心配だった。

 なのでハルは、


「ナツの看病がしたいので、私も今晩は、そっちの部屋へ行っても良いでしょうか?」


 と伊吹に訊いた。


「それは構わないが……お前も疲れているだろう? ナツには俺がついているから、休んだ方が良いんじゃないか?」

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。先生も疲れているでしょうし。そにれ私、秋の終わりの土砂降りでずぶ濡れになった時も、風邪の一つも引きませんでしたから」

「ああ~、あったなぁ。クラスの大半が風邪を引いた時の事だろう? ハル、めちゃめちゃ健康だなって感心したよ」


 ハルが去年の文化祭での時の事を言うと、伊吹も思い出したように真顔で頷いた。

 後夜祭の時に大雨が降って、全校生徒がずぶ濡れになった事があるのだ。

 ただ、後夜祭には『水掛け』という伝統行事があったので、全員気にせずそのまま楽しんで帰った。そしてほとんどの学生が風邪を引いた、という事があったのだ。

 教師も生徒も熱を出して休む中、何故かハルを含めた一部の人間は無事だった。


「未だにあれは謎ですねぇ。どうして私、大丈夫だったんでしょう」

「そうだな~。ま、でも、引かないに越した事はないし、健康なのは良い事だよ。だけど今回は本当に、あんまり無理はするなよ?」


 そう言って心配してくれる伊吹に、ハルは「はい」とはにかんだ。

 すると話を聞いていたクラスメイト達から、


「ハルちゃんとナツ君、本当に仲が良いねぇ」

「ね~。動きもたまにシンクロしている時もあるもんね」

「あ、分かる分かる。ジュース飲んだ時とか、同じタイミングで美味しそうに笑ってるもん」


 なんて微笑ましいものを見るような眼差しを向けられてしまった。

 意外としっかり見られている。

 悪意なく真っ直ぐにこういう事を言って来るものだから、うちのクラスメイト達は侮れないとハルは少し気恥しい気持ちになった。


 ――さて、そんな話をした後。

 ハルは夕食を食べてサッと風呂を済ませると、ナツの休んでいる部屋へと向かった。

 ナツが休んでいる部屋は男子部屋からさほど離れていない場所だった。

 ここならば何かあっても声を張り上げたら誰かの耳には届くだろう。

 ふむふむ、と思いながらハルは、


「ナツ。ハルです。入りますね」


 と声をかけ部屋の中へと入った。

 部屋の中央には布団が敷かれており、そこに額にタオルを乗せたナツが寝かされている。

 彼はハルに気が付くと、右手を軽く挙げてゆるりと振る。


「ナツ、大丈夫ですか?」

「んー……ちょっとだるぅい」


 ナツはへらりと笑って言うが、その声はいつもより元気がない。


「薬は飲みました?」

「うん、さっきちょっとね。おかゆもらったから、それを少し食べてから持って来た解熱剤飲んだ~」

「少しでも食べられたなら良かったです。お腹が空いたら言ってくださいね。聞いてみますから」

「うん、ありがとー……。……あ、でも、喉はちょっと乾いたかも」

「それじゃあ、お水を貰ってきますね」

「来てくれたばっかりなのに、ごめんねぇ」

「いえいえ」


 ナツに笑いかけると、ハルはもう一度立ち上がって部屋を出た。


(確か台所は……こっちでしたっけ)


 水をもらうならそこだろうとハルは歩き出す。

 すると、ぎし、と床が軋む音が小さく響いた。


(皆、もう寝たんですかね)


 ネルには少々早い時間だが、色々あったから、早めに休む事にしたのだろう。

 屋敷の中はぽつぽつ灯りがついているくらいで静かだった。

 ふと気がつけば、雨もすっかり止んでいる。廊下のガラス戸からは、雲の合間に星空が見えた。

 横目にそれを眺めながら廊下を曲がった時、そのガラス戸を開けて誰かが座っているのが見えた。


(アキトさんだ)


 サラサラした長髪が、吹き込んでくる風に揺れている。

 彼はどうやらお酒を飲んでいるようだ。右手にぐい飲みを持っている。

 ……ただ、お酒を楽しんでいるようには見えないかった。顔に影が出来ているせいもあるが、少し落ち込んでいるような気がする。


(あれ? もう片方の手に……写真?)


 見ていると、彼はその写真をじっと見つめている様だった。

 古い写真だ。そこには良く似た顔立ちの二人の子供が映っている。

 その片方――少女の髪に見覚えのある矢絣柄のリボンがついているのを見て、ハルが軽く目を見開いていると、


「……ん? ああ、こんばんは、ハルさん」


 アキトがこちらに気が付いて顔を上げた。


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