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村雲怪異探偵事務所  作者: 石動なつめ
CASE1 口無村の山神

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2-5 疑問、質問


 灰鐘の屋敷へ戻るとハル達は、満面の笑みを浮かべたツバキから感謝された。

 他の村人達のように困惑した様子は感じられない。

 表に出さない事が得意なのか、それとも無事に戻って来る事は想定していたのか。

 疑っている関係でどうしても悪く考えてはしまうが、彼女が今回の件の首謀者であるとしたならば、なかなか厄介な事である。


 ――そんな事を考えながらハルは屋敷の廊下を歩いていた。


 服を着替えるため、荷物を置いてある部屋へ向かっているのだ。

 とりあえず服を着替え終えたらタチバナの容体を見に行こう。

 恐らく彼はまだ眠ったままだろうけれど。


(私達が無事に戻って来てしまいましたからね)


 お社を出た際に村人達がした反応を見るに、ハル達が普通に戻って来た事は彼らにとって想定外の事態だったはずだ。

 そしてハル達もタチバナ(クラスメイト)がああなったのは、山神の祟りなどではないと考えている。

 つまりハル達を生贄にするために、誰かがタチバナに何かしらの術を掛けて眠らせているのだ。


 その犯人は村人——その中で、犯行に及んだ可能性が最も高いのは、神職の家系だと言った灰鐘家の誰か。確認出来ているのはツバキとアキトの二人である。

 そういう前提で考えると、双子を生贄にするという彼女達の目的が達成されていないのに、せっかくの人質を簡単に解放するはずがない。

 だからタチバナはまだ眠ったままだろう、というのがハルの予想だ。 


(ひとまず、あれを何とか出来ないかやってみましょう)


 タチバナの容体を先に診ていたハルは、彼の身体を何かが覆っていると言っていた。

 それをどうにかする事が出来れば、今後、他のクラスメイト達が同じ状態になったとしても助けられる。

 どうにもならなかった場合でも助けは呼んである。間に合うかどうかは分からないが、その人ならば――叔父のフユキならばきっと駆けつけてくれるはずだ。


 まぁ、ひとまず叔父の事は横に置いておいて、今は自分に出来る事をしよう。

 そのために伊吹に頼んで人払いをしてもらって……


「あの、ハルさん、すみません」


 そう考えていると、後ろの方から名前を呼ばれた。

 足を止めて振り返ると、そこにはアキトが立っている。

 何やら少々緊張しているような雰囲気だ。何だろうかとハルは少し警戒しながら、


「あ、これはどうも。先ほどはありがとうございました」


 そう返事をした。するとアキトは少しだけ表情を緩める。


「いいえ、こちらこそ。本当に、色々とお手数をおかけしました。大変だったでしょう」

「いえいえ。重かったかと訊かれたら、それはそう……とお答えしてしまうのですが。ですがお役に立てたのなら何よりです」


 もっとも望まれた通りの結果ではなかったかもしれないが。

 心の中でそう付け加えながら、ハルはにこりと笑って返す。


「……あの。一つ、お伺いしても良いですか?」


 するとアキトが、誰もいないのを確認するように周囲を見回した後、声を潜めてそう言った。

 この様子から察するに聞かれたくない類の話なのだろう。答えられるかどうかは内容次第ではあるが、とりあえずは聞いてみようと思いハルは頷く。


「はい、何でしょう?」

「その……ハルさんとナツ君は山神様のお社で、本当に何もありませんでしたか?」


 ……これはなかなかストレートに訊いてくるものである。

 アキトから真剣な眼差しを向けられながら、ハルはどう答えたら良いものか一瞬迷った。

 彼が他の村人のように、ハル達の無事である事に対し動揺しただけならば一考もしなかった。

 けれどアキトはそうではなかったし、祟りの騒動が起きる前も自分達を気遣うような事を言ってくれているのだ。


 正直に答えるか、否か。

 ハルは少し悩んだが――それでも彼が信用できるかどうかを判断する材料には少々弱い。

 灰鐘家の人間でツバキの子供。その関係性から考えると、ここはまだ素直に言わない方が良いだろう。

 そう判断したのでハルは、


「いえ、特には何も。少々お社の床が汚れていたくらいでしょうか。……先ほど村の人が言っていましたが、あそこに何かあるんですか?」


 先ほどと同じようにすっとぼけて、逆にそう尋ねてみた。

 とは言えこちらも誤魔化されるだろう。あの井戸の事は、恐らく口無村の人間にとって他人から見られたくないもの、もしくは気付かれたくない類のものという事は、容易に想像できるからだ。

 そう思っていると、


「……ええ」


 意外な事にアキトはハルの言葉を肯定して、そして、


「あそこには、この山を司る山神様が祀られているのです。……実際に、いらっしゃるのですよ」


 ――そう続けた。


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