【第5話】「倫理学とは何か?」
俺は教壇の前に立ち、生徒たちを見渡した。
「さて、君たちは『倫理学』が何のために存在するか、考えたことはあるか?」
貴族の男子生徒が鼻で笑った。
「倫理とは弱者が作り上げた幻想だ。我々貴族が支配するのは当然の理。なぜなら、我々は生まれながらに強いからだ。」
俺は静かに頷いた。
「なるほど。ならば、強者が常に正しいと証明できるか?」
「何?」
俺は黒板に『自然状態における正義』と書いた。
「君たちは『ホッブズ』という思想家を知っているか?」
生徒たちは首を傾げた。
「彼はこう言った。『万人の万人に対する闘争』、すなわち、人間は元来、互いに争い合う存在だと。」
「ならば、やはり強き者が勝つのが正義では?」
エルフの女子生徒が尋ねた。
俺は微笑み、次の問いを投げかけた。
「では、君たちは『弱き者』がこの世界にいない方が良いと思うか?」
「……それは……。」
「ホッブズはこう続けた。『国家とは、個々の闘争を終わらせるために存在する』と。」
俺は黒板に『社会契約論』と書いた。
「すなわち、強者がただ暴力で支配する世界ではなく、人々が平和に共存するためのルールを作る必要がある。それが倫理だ。」
教室内が静まり返った。
「だが、現実は貴族が治め、平民は従うのが理だ。」
貴族の生徒が強く反論した。
「では、貴族の支配が常に正しかったか?」
俺の問いに、生徒たちは言葉を失った。
その時、ライガースが微笑みながらつぶやいた。
「これは……面白い授業になりそうだ。」
授業は、まだ終わらない。