【第3話】「異世界で倫理学を教えるということ」
王立学院の教室。
初めての授業の日、俺は教壇に立ち、目の前の生徒たちを見渡した。
貴族、平民、エルフ、ドワーフ、獣人――様々な種族が集まっている。
だが、その目は疑念に満ちていた。
「今日は『倫理学』の第一回授業だ。」
俺がそう言うと、教室の端から失笑が漏れた。
「倫理?そんなもの学んで何の意味があるんだ?」
若いドワーフの少年が腕を組んで言った。
「そもそも、俺たちは戦いで決着をつける。それが世界の理だ。」
「そうだそうだ!」エルフの女子生徒が頷く。
「そもそもドワーフなんて、脳筋しか誇れるものがないでしょう?」
「……何?」
ドワーフの少年が怒りを滲ませた。
「おい、エルフ。お前ら尖耳はいつもそうやって偉そうにしているな。」
「……尖耳?」
「そうだ。お前らは自分たちが優れていると思っているが、結局は森に閉じこもるだけの種族だ。」
教室が一瞬静まり返った。
俺は軽くため息をついた。
「よし、ちょうどいい。君たちに質問しよう。」
俺は黒板に「正義とは何か?」と書いた。
「もし、お前たちの種族が力を持っているからといって、他の種族を見下していいのか?」
「それは……。」
「おい、エルフ。君たちはドワーフを『脳筋』と呼ぶ。逆にドワーフはエルフを『尖耳』と侮辱する。」
教室が静かになった。
「だが、お互いの文化を理解しているのか?」
俺の問いに、誰も答えられなかった。
「これは、今日の課題だ。『他者を理解すること』――それが、倫理の第一歩だ。」
教室の隅で、ライガースが微笑みながら俺を見ていた。
彼女は何を考えているのか。
それを知るのは、まだ先の話だ。