【第1話】「異世界で教師になるということ」
「……つまり、私に教師をやれと?」
目の前の女帝は静かに頷いた。
「そうだ。我が帝国は多種多様な種族が共存する。しかし……争いも多い。」
「それと私の授業に、何の関係が?」
「倫理を知らぬ者たちに、それを教えるのがお前の役割だ。」
俺はため息をついた。
――いや、そんな簡単な話じゃないだろう。
「教師になるのは構わない。だが、私はただの大学教授だ。政治にも軍事にも興味はない。」
「それでいい。」
女帝は微笑みながら、俺に一枚の紙を差し出した。
「ルメンティア王立学院、倫理学教授の辞令だ。」
「……決定が早すぎないか?」
「お前を召喚した時点で、すでに決まっていた。」
なんという強引な決定だ。
俺は再びため息をついた。
***
「そんな馬鹿げた話があるか!」
王宮の会議室に響く怒声。
俺は目の前の貴族たちを見回した。
どうやら、俺の採用について反対する者が多いようだ。
「異世界から召喚されたとはいえ、そもそも倫理学とは何だ?」
「我々の世界に必要なのか?」
「王立学院に入れるには、それ相応の実績が必要だ。こやつの何を信じる?」
貴族たちが次々と疑問を投げかける。
なるほど、当然の反応だろう。
俺は冷静に口を開いた。
「では、一つ聞きたい。貴族と平民の差は何ですか?」
「……何?」
「貴族は支配する側、平民は支配される側。それは当然の理だ。」
「本当にそうですか?」
俺は静かに彼らを見据えた。
「支配する者は、どこまで正しいのか? それを考えたことは?」
貴族たちが一瞬、黙り込んだ。
「……それが、倫理学か?」
「そうです。」
俺は微笑んだ。
「さて、王立学院で私が教える内容を理解できましたか?」
女帝は満足そうに頷いた。
「これで決まりだ。異議は認めん。」
こうして、俺は王立学院の教師として迎えられることになった。
***
王立学院への馬車の中。
俺は窓から見える壮麗な街並みを眺めながら、これから始まる授業の内容を考えていた。
「……さて、どこから始めるか。」
倫理学――この世界にとって、それはどのような意味を持つのか。
俺の挑戦は、これから始まる。