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【第15話】「信仰と理性の衝突」

セシリア・ルミエールとの議論は、想像以上に激しいものになった。


最初は落ち着いた様子だった彼女も、次第に言葉に力が入り、表情が険しくなっていく。


「人は、神が与えた命を選別するべきではありません!」


「だが、現実では選ばざるを得ない状況がある。」


「それは人間が間違った道を進んでいるからです! 本来なら、全ての命が等しく守られるべきです!」


セシリアの声は震えていた。


「ならば神は、なぜ人に選択を迫るのか?」


「それは……それは、神が人に自由意志を与えたからです!」


「ならば、その自由意志で最善の選択をすることこそが人間の責任ではないか?」


セシリアの目が揺れた。


俺はゆっくりと椅子に寄りかかり、話を続けた。


「……一つ、例を挙げよう。」


俺の言葉に、セシリアは警戒するように身をこわばらせた。


「ある村に、普通の夫婦がいた。二人は幸せに暮らしていたが、戦争が勃発し、夫は徴兵されて戦場へ送られた。」


「……。」


「妻は夫の無事を祈りながら、毎日神に祈りを捧げた。『どうか夫が無事に帰ってきますように』と。」


セシリアは沈黙していた。


「だが、その願いは叶わなかった。夫は戦場で命を落とした。」


「……っ!」


「その知らせを聞いた妻は、食事を取ることもなく衰弱し、やがて亡くなった。」


俺は静かに問いかけた。


「これも、神の定めた運命なのか?」


「……それは……」


セシリアの唇が震えた。


「神がすべてを導くのなら、なぜ夫は死ななければならなかった? 彼は罪を犯したわけでもない。ただ、国の命令に従っただけだ。」


「……それは……神の御心を、人が完全に理解することはできません。」


「ならば、その神は何のために存在する?」


「……!」


「神が人に自由意志を与えたのなら、なぜ人は悲しみ、絶望しなければならない?」


「それは……!」


「彼女の祈りは届かなかった。彼女の命も奪われた。そんな運命を、神の意思として受け入れろと言うのか?」


セシリアの目には涙が浮かんでいた。


「……教授は、神の意志を否定するのですか?」


彼女は机を叩き、怒りに満ちた瞳で俺を睨みつけた。


「そうではない。ただ、俺は現実を見ているだけだ。」


「違う! 教授は、理屈ばかりを並べて、本当に大切なものを見失っている!」


彼女は立ち上がり、拳を握り締めた。


「神の意志は絶対です! それを否定することは……神への冒涜です……!」


セシリアの目に涙が浮かんだ。


「教授のような人がいるから、人々は信仰を忘れ、道を誤るんです……!」


俺はそんな彼女をただ静かに見つめた。


「……俺が間違っているなら、なぜ君は涙を流している?」


セシリアは息を呑んだ。


「神が本当に絶対で、揺るぎない存在ならば、君の信念も揺らぐことはないはずだ。」


「……っ!」


彼女は唇を噛み、涙を拭うと、怒りに満ちた目で俺を睨んだ。


「教授は、何も分かっていません……!」


そして、彼女は椅子を引き、踵を返して部屋を飛び出していった。


扉が激しく閉まる音が響き、部屋には静寂が訪れた。


(……やはり、彼女はただの学生ではない。)


俺は机の上に視線を落とし、セシリアの言葉を反芻した。


「信仰か……。」


この議論は、これで終わりではない。

彼女が再び俺と向き合う日が来ることは、確信していた。

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