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【第9話】「皇帝と倫理学、支配者の正義とは?」

王宮の謁見室に足を踏み入れると、玉座に座る女帝が俺をじっと見つめていた。


「また会うことになったな。」


俺は一礼しながら答えた。


「再びお呼び立ていただき、光栄です。」


「君の授業の話を聞いた。貴族たちは困惑し、平民の生徒たちは議論を始めたと報告を受けている。」


女帝は微かに笑みを浮かべながら言った。


「私は直接君の考えを聞きたくなった。そして、一つ問いを投げかけたい。」


「支配者の正義とは何か?」


俺は少し考えた後、静かに答えた。


「陛下は現在、どのように『正義』を定義されますか?」


「私の考えでは、正義とは『秩序』だ。国が乱れず、民が生きていけること。それこそが支配者に求められる正義だと考えている。」


「なるほど。しかし、それは統治者の視点から見た正義ですね。」


俺は黒板がないことを残念に思いながら、続けた。


「私のいた世界には『カント』という哲学者がいた。彼は『正義とは普遍的な道徳律に基づくべきである』と考えた。」


「普遍的な道徳律……?」


「例えば、ある国が平和のために民の自由を制限するとする。それは秩序のためだが、果たして正義なのか?」


「……秩序を守るためには、時には民の自由を抑制せざるを得ないこともある。それは統治者の責務ではないのか?」


「確かに、秩序は重要です。しかし、秩序だけを重視しすぎると、支配者の独裁が正当化される可能性があります。」


「では、民の自由を優先することで国家が弱体化し、外敵に襲われる危険が生じた場合、君はどうする?」


「それこそが支配者が抱える永遠の課題です。だからこそ、正義は一方的なものではなく、状況に応じた判断が必要なのです。」


女帝は興味深そうに俺を見つめた。


「ふむ……面白いな。君の考えには一理ある。」


彼女はしばらく沈黙した後、口を開いた。


「君にはこれからも私のそばで、この倫理学というものを教えてほしい。」


「それは……?」


「つまり、君を宮廷に迎え、私の教師として仕えさせるということだ。」


俺は予想外の提案に少し戸惑った。


「……私はアカデミーの教授ですが、それでもよろしいのでしょうか?」


「もちろんだ。君はアカデミーで教鞭を執りながら、宮廷で私に学問を説くことになる。安全の面でも、宮廷の方が安心だろう?」


確かに、最近の貴族の反応を考えると、宮廷で保護されるのは悪くない選択だ。


「……承知しました。」


こうして、俺の生活の場はアカデミーから宮廷へと移ることになった。

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