狭間色のスカイキューブ
冬の始まりの日。すっきり晴れた空に、小さなナイフを差し込む。
地平線ギリギリを滑らせて切り取った青を、慎重に瓶に詰める。
からんころんと音を立てて溜まっていくのは、白っぽい濁りを含んだ青のキューブ。
一粒つまんで日に翳すと、青空より淡い青がキラリと透ける。口に入れる。ひやりとしたクリアな甘さが舌に触れ、次第に柔らかな味へと変化していく。
冬の始まりらしい、きんと澄んだ中に暖かさが残る味。
よし、今日はこれでいってみよう。
「ゼニス。毎日懲りないね」
研究室を訪れると、ナディは本から目を離さず、淡々と私を迎え入れた。
「ナディが合格くれないからですよ?」
文句を言いながらキューブを提出すると、夜の底のような瞳がやっと動いた。
「ふむ。今日は一段と色の高度が低いな。色むらもないし、味も良い。腕を上げたね」
「でしょう」
「にしても。空は広いのに、何故いつもこの青を持ってくるんだい?」
「それは」
思わず口籠る。天頂と天底の間だから、なんて恥ずかしくて言えない。
「……好きな色、だから」
「なるほど、不合格だ」
「なんで!?」
声を上げると、ナディは静かに目を伏せ、いつもと同じ答えをくれた。
「君が正直に話したら応えてあげる」
「天頂の色持ってきたら、一発で合格出ると思うんですよね」
「でもそうすると来てくれなくなりそうだよね」
二人の行く末を見守る友人達はそんなことを思っている。