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「おいっ待てっっ!」
素性不明の少女に気を取られていた男たちの一人が、カイン達が逃げ出すのを見て後を追った。
しかし、追い掛けようと駆けだしたその男の体が崩れた。
よくよく見ると、男の足にいつの間にかクナイが刺さっている。
それが飛んできた方に視線を移すと、少女の紅い瞳がこちらを捉えていた。
「今の相手は私のはずなんだけどなぁ。よそ見していると嫉妬で手元が狂っちゃうかも」
その顔には幼さの残る無邪気な笑顔が浮かんでいたが、それに似合わない物騒なことを口にすると、彼女は腰に手をやった。
眼の前の人物の雰囲気が先程と変わり、男たちも身構えた。
しばらく静寂が辺りを包む。
まず動いたのは右側の男。
少女に向かって駆け出し剣を振り下ろした。
その攻撃を横に跳ぶことでかわし、その反動で左側にいた男に蹴りを喰らわす。
次に、二人同時に斬りかかってくるのを視界の隅に捉えた。
反射的に高く跳びあがり、クナイを投げつける。
それにより動きを封じられた男たちは、隙をつかれて少女の放つ重い飛び蹴りを喰らい倒れていった。
更に何人か倒したところで漸くクレッシュが前に出できた。
「意外に弱いんだ。こんな小娘にやられたとなったら、軍人様も笑いものだよね」
お気の毒さま、と少女は挑発するように言ったが、クレッシュは先程のように感情的にはならなかった。
「はっ。そんな事を言えるのは今のうちだぞ。」
クレッシュはそう言うと静かに体の前で剣を構える。
先程とは違い、神経を研ぎ澄ました彼は目の前の獲物を見やった。
その変化を感じ取った少女も腰を落とし構える。
心地よい緊張感を感じながら、少女は唇を舐めた。
「お手柔らかに」