3-(4)
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翌日、シャオンは普段よりも早く眼を覚ました。
窓に目を向けると、外はまだ薄暗く、日が登るにはあと一刻程あるようだった。
もう一眠りしようと、シャオンは再び瞳を閉じたが、いくら寝ようと思ってもなかなか眠りにつくことが出来ない。
昨晩は最近よく見ていた昔の夢も見ることなく、久し振りに熟睡できた所為だろう。
時間もあるので、シャオンは朝方の森を散歩しようと思い立ち、ゆっくりとした動作で寝台から降りた。
若干覚束ない足取りで窓際に近付くと、窓に手をかけ、勢いよくそれを開け放った。
そうすると、新鮮な空気とともに、早朝特有の冷気が部屋へと流れ込んできた。
それにより、寝起きの頭がすっきりと冴えてくる。
「はー、やっぱり此処の空気、おいし…」
少しの間冷えた空気を堪能していたが、すぐに肌寒さを感じ、シャオンは傍にあった上着を羽織って外に出た。
「昼間とはちょっと雰囲気が違うんだなぁ」
朝露に濡れた緑を横目に見ながら、シャオンは建物の裏手の森を歩いていた。
「あっ、この野草欲しかったのよねー。ん?あれは…」
足元に生えた草を手に取ると、シャオンは同じような草を数本持ってきていた鞄にしまった。
あまり人の出入りが無いらしいその場所には、普段なかなか見られないような種類の草々が生い茂っており、シャオンの興味を引いた。
医者だった育ての親の影響で、効能のある植物等に関しては多少の知識がある。
薬草になるものや毒のある植物の見分け方は、この旅の中で非常に役に立っていた。
これは火傷に、あそこの木の実は潰して煮出すと解熱効果が…
あれやこれやと思い出すうちに、昔に戻ったような気がしてきた。
久し振りに味わうその感覚に、シャオンは段々と薬草探しに夢中になっていった。
暫く散策していくと、この地域特有のものなのか、今まで見たことがない植物が数種見つかった。
「あとでセレスティアさんに、色々教えて貰おう。ついでに足りなくなった薬も作ってしまおうかな」
荷物の中にある薬の在庫を思い出しながら、完全に思考がそちらに傾いていた。
シャオンにとっては短い時間だったが、薬草探しに夢中になっていた所為もあり、気づかぬ間に随分と森の奥まで来てしまっていた。
何も言わず出てきた手前、心配させると悪いので、そろそろ戻ろうとシャオンは踵を返した。
だが、数歩いったところで足を止める。
「…ん?」
道から少し逸れた場所で、人の気配がする。
こんな早朝のこのような場所に人が居ることを不審に思い、シャオンは音を立てないようにその人物に近づいた。
「--は、---で。それと、--守って……」
「………」
「分かり、ました。時間--は、---ですので……、---す」
近くまで行くと、シャオンの眼にセレスティアの後ろ姿が入り、安心して声をかけようとした。
しかし、彼女が話している相手の格好を見て、眼を見開いて固まった。
(なっ!なんで…)
その場で動けずにいる間にも、彼女らは小声で言葉を交わしている。
「では、そういう事でお願いします」
暫くすると二人は話し終えたようで、セレスティアはシャオンの方へ近付いてきた。
動揺するのを抑えつつ、セレスティアに見つからないように草陰に隠れた。
彼女が通り過ぎるのを待って相手の方を確認しようとしたが、既にその姿は無かった。
(でも、確かにみた。あの紋章は…間違いない)
混乱する頭を落ち着かせるように息を吐くと、シャオンはセレスティアの後を追った。
セレスティアは先程のやり取りを思い返しながら、あれで良かったのだと自分に言いきかしていた。
多少の罪悪感はあるものの、皆が助かるなら良いじゃないか、と。
(アレンの為になるんだから、これが一番良い策なのよ。だから……)
無理矢理にでも納得しようとしたが、すぐに後悔が彼女を襲う。
表情を硬くしながら自分自身と葛藤していると、突然後ろから金属の擦れる音が聞こえた。
セレスティアが振り返るよりも早く両腕を後ろに纏められ、身体を拘束された。
「…!?」
声を上げようと口を開く前に、冷たい物が喉に当たりそれを遮った。
「大声を出さなければ何もしません。今話していた内容を、教えて下さい」