3-(3)
不意に、彼が足をとめた。
『?』
シャオン達が訝しげに振り向くと、彼は遠くに見える森の方を見ていた。
夕日が沈みかけていた所為なのか、目を細めて何かを探るような表情は、普段の彼が見せるのものとは思えなかった。
シャオンが彼の視線を追って眼を森の方に向けたが、何も確認することは出来ない。
『何を、見てるの?』
どうしてだろうか。
シャオンは言い知れない不安を感じ、彼の袖を掴んで咄嗟に問いかけた。
その声を聞いて、彼は感情を無くしたような表情になったが、それはほんの一瞬のことで、すぐにいつもの優しげな表情に戻った。
『何か見えた気がしたんだけど、気の所為だったみたい。暗かったから、何か動物でもいたのかな』
『そう…』
俯いてしまったシャオンの頭を、いつも感じているものより僅かに小さな手が置かれる。
『ほら、突っ立ってないで早く帰ろう』
『!?な、なんでアレンまで子供扱いなのよっ』
『シャオンが子供っぽいからかな~』
『子供っぽくない!!それに、アレンの方が身長だって小さいじゃない!』
『俺はこれからが成長期なの。シャオンなんて一瞬で抜いちゃうし』
言い争いを始めた二人に、離れた所から声が掛かる。
『二人ともー、早く帰ろうよー!』
『『いつの間に…』』
気付かぬ間に、彼が随分先に立っていた。
アレンとシャオンは顔を見合わせ、二人同時にかけ出した。
その様子を見て、彼はクスッと笑うと踵を返して二人に背を向ける。
その背を追うようにシャオン達がスピードを上げ、シャオンは彼の右手を、アレンは左手を掴んだ。
『おわっ!?』
スピードを緩めることなく二人が手を引いたので、引っ張られた彼もつられる様に前のめりになりながら走り出した。
いつもの光景。
いつもの会話。
いつまでも続いていくものだと、誰もが思っていた。
村が襲われたのは、その日から二日後---
彼の笑顔を見たのはこの日が最後だった。