3-(2)
『そんなんじゃ、見ているこっちが辛くなる……頼りないのかなってさ。結局何もしてやれない自分が情けないよ…』
『--っ』
『だから、もっとさ』
俺たちに頼って--
何かを知っているような言い回しだったが、その時のシャオンは彼の悲しそうな声色が胸に刺さりそこまで気が回らなかった。
暫くして、漸く頭に掛かっていた力が緩められたので、シャオンも抵抗を止める。
頭上にある手はそのままゆっくりとシャオンの髪を数回梳くように動いた。
『まぁ…シャオンの気持ちが大事だから無理に、とは言わないけどね。子供なんだから、たまには大人を頼りなさい』
相手が自分を本当に心配していることが痛いくらいに伝わってくる。
その優しさにシャオンは少しだけ居心地の悪さを感じ、拗ねたようにそっぽを向いた。
『子供扱いしないでよ…自分だってまだ子供じゃんか』
『あぁでも、シャオンよりは大人だろう?アレンもシャオンも俺にとっては可愛い弟、みたいな存在だから』
『弟って…これでも一応、女なんですけど』
拗ねたようなシャオンの態度に、目の前の人物は苦笑を漏らした。
『ごめんごめん。一応じゃなくて、シャオンは十分かわいい女の子だと思ってるよ』
耳に届いたその言葉に、治まっていた熱が再びシャオンの頬に集まる。
『ま、またからかってるし…』
『からかってないよ。シャオンは女の子だよ…強情だけど傷付きやすくて、ほっとけない普通の…』
『--ぃ、…シュ、…シャオー…ン……』
彼の声を遮るように、遠くから二人を呼ぶ声が近付いてくる。
シャオンの意識がそちらに向かうと、彼の視線もその声の主に向けられた。
シャオンの頭を撫でていた手も同時に外れた。
『二人共こんなとこにいたのっ!何時もより遅いから、母さん達が心配してたよ。結局呼んで来いって、俺が探すハメになっちゃったじゃんか~』
文句を言いながらこちらに向かう少年の言葉で、二人は初めて長い時間その場にいた事に気付いた。
もうすでに、山に夕陽が沈みかけている。
いつもであればとうに帰宅している時間だった。
『ごめんな、アレン。直ぐに戻るよ』
彼の癖なのか、先程シャオンにしたように今度は少年-アレンの頭を数回撫でた。
『ちょっ、ガキ扱いするなよな』
アレンは嫌そうにその手を払いのける。
『してないしてない。ははっ、シャオンもアレンも同じ事言うんだね』
『『そっちが頭撫でるからっ!』』
『ほら、息までぴったりだ』
彼が優しく、微笑んだ。
それに釣られるようにして、シャオン達も自然に口許が緩む。
『さ、早く帰ろう。母さんがとんでくる前に』
アレンとシャオンの肩に手を回し、彼は勢い良く歩き出した。
文句を言い合いながらも、三人の表情は明るかった。