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アレンの笑い声が未だに耳に残って離れない。
シャオンは力無くベッドに倒れ込むと視界を遮るように腕を顔におしつけた。
光が完全に入ってこなくなると、先程の光景が思い出される。
…アレンは、此処にいた方がいいのかもしれない。
人も自分も傷付き、命の保証がない旅を続けるくらいなら。
実際、今アレンは楽しそうに笑っている。
此処に留まればそれが日常となるだろう。
それがアレンの望みならば----
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シャオンが漸く体を動かせられるようになったのは、意識を取り戻してから3日たった今日のことだ。
シャオンの方は早く身体を動かしたくて仕方がなかったのだが、周りがそれを許さなかった。
人目を盗んでベッドから抜け出していようものなら、セレスティアやアレンからの口うるさい説教が待っていたのだ。
それが今朝の診察で、やっとベッドから降りて歩き回っても良いと許可が下りた。
シャオンは、やっと身体を動かすことが出来ると口許を緩ませたが、その様子をセレスティアは見逃さなかった。
「但し!まだ傷口が塞がっていないから無理はしないようにね、シャオンさん」
と、有無を言わせない笑顔でシャオンに念を押した。
これまでのシャオンを見て、この様子ならば動き回って傷口を悪化させかねないと想像が出来る。
出来るだけ大人しくしていて下さいと、しつこく注意して彼女は部屋を出て行った。
シャオンは初め、言われた通り大人しく建物の中を散策していた。
じっくり見ていると、意外に広い建物だということが分かった。
建物自体は古いのだが、使われていない部屋も少なくないのに掃除が行き届いていて清潔感がある。
此処にいるのはセレスティアと先生だけだと言っていたので、セレスティアのお陰だろう。
そんな事を考えながら歩き回っていたが、大して時間を潰せず手持ち無沙汰になってしまった。
シャオンは少し迷ってから、無理をしない程度に身体を動かそうと庭に出た。
セレスティアの言葉が頭によぎったが、少しぐらいなら…と自分に言い訳をしながら、気付けば息もあがる程夢中になっていた。
久々に身体を動かしたので調子に乗って続けていたが、昼過ぎには止めざるを得なかった。
昼食を届けに来たセレスティアに見つかり小一時間程説教される事になったのだ。
軽い運動なら見逃すが、それはどう見ても軽くはない、と。
自分でも少し無理をしていると分かっていたので、反論も出来ずに大人しく反省していたところに、シャオンにとってはありがたい助けが入った。
他の患者に呼ばれていなければ、更に時間が過ぎていっただろう。
身体を動かすことを漸く諦め、シャオンは仕方なく部屋に戻ることにした。