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シャオンが目を覚ますと、アレンが難しい顔をして林檎と対峙していた。
「う~ん…」
「…アレン?」
「っ!?あ、シャオン…おきてたん?」
その場から動かずに唸っているアレンに思わず声を掛けると、少し驚いてシャオンの方に視線を移した。
「なに、やってるの?」
「いやぁ、林檎をね…」
「林檎を?」
アレンは手に持っていた林檎とナイフをシャオンに見せながら、真剣な表情で言葉を続けた。
「林檎を、どうカットしようか絶賛悩んでたわけよ」
「…ぇ?…はい?」
「だぁ~かぁ~らぁ~」
アレン曰く、最近林檎を剥くのに飽きて新しい切り方がないか模索していたらしい。
ならば林檎以外にすれば良いのに、という言葉を飲み込んで、シャオンは昔から変わらないアレンに笑顔がこぼれた。
「…ッ、なんでそんな事してんの」
思わず笑いをこぼしたシャオンに、アレンは安心したように微笑した。
「アレン?」
反論すると思っていたアレンが何も言わないのを不審に思い、シャオンの顔に疑問が浮かぶ。
「いやぁ…。やっとシャオンが笑ったなぁと。」
「え…?」
「最近ずっと変な感じだったから…大丈夫?」
アレンはそう静かに問い掛けると、唐突に自分の手をシャオンの目許に伸ばした。
「!?」
突然の事で咄嗟に瞑った瞳のすぐ横にアレンの指が触れる。
眼を開くと、アレンが苦笑いしながらシャオンを見ていた。
「涙の痕があるみたい。嫌な夢でも見たん?」
言われて初めて自分が泣いていたのだと知った。
「あっ…いや、これは…」
「これは?」
―アレンと離れたくないからだよ
―独りは、もう嫌だから…
「何でかな~?覚えてないくらいだから、どうでも良い夢だったんじゃないかな。それより、そんなに沢山の林檎どうするつもりよ?」
アレンを心配させたらダメだと、シャオンはなるべく不自然に思われないように話を逸らした。
シャオンの目線の先にある机の上には、様々な形にカットされた林檎が皿に盛られている。
到底2人では食べきれそうにない量のそれは、シャオンでなくとも突っ込みたくなる光景だ。
「あ~それは…後でみんなに配ってくるよ。ウン、そうしよう」
一人納得したアレンに、色が変わってしまう前に配った方が良いとシャオンがアドバイスをする。
「ほんとだっ!じゃあ今から配ってくる~」
少し変色してしまった林檎を慌てて手に取り、アレンは部屋を出て行こうとシャオンに背中を向けた。