2ー(11)
『それも、一人や二人じゃない…』
『な…っ!?』
慌てて村に駆け出そうとするシャオンをアレンが引き止める。
『手を放してっ!皆が…!!』
必死にアレンの手を振りほどいて行こうとするシャオンに、アレンは落ち着くように言った。
『落ち着いてられないよっ!アレンは心配じゃないの!?』
尚も暴れるシャオンにアレンが厳しい口調で話す。
『状況も分からないのに無闇に行っても危ないだけだよ。…裏口から入ろう』
状況をみて的確に判断するアレンに段々と冷静さを取り戻すと、アレンの手が僅かに震えていることに気付いた。
アレンも不安なのだ。
『…わ、かった…』
渋々納得し、シャオンは縋る様にアレンの手を握った。
アレンの言う裏口は村人しか知らない通路で、周りからは只の木の穴にしか見えない。
普段は使われないそこから入れば敵に見つかる心配は少ないだろう。
音を立てない様に注意しながら慎重に二人は裏口に向かった。
村に近付くにつれて、匂いがきつくなる。
(嫌だ嫌だ嫌だ…)
最悪な予感を頭から振り払いたくて、繋いだアレンの手をギュッと握る。
震えるその手を何も言わず更に強く握り返してくれる彼に、自然と不安が薄れていく。
しかし、裏口に辿り着いて二人の間に戸惑いが生まれた。
―静か過ぎる程に物音がしない…
耳を澄ますが、物が焼ける以外の音が聞こえてこないのだ。
いつも聞こえる子ども達のはしゃぎ声や薪割りの音が無い村は、全く違う雰囲気を醸し出している。
周りに敵がいない事を確認して中に入ると、二人は目の前の光景に動けなくなった。
荒らされた畑や家々。
至る所に散る紅い血痕。
その異様な光景に、村の面影は無かった。
『な、に…これ…』
漸く出た声は、喉が乾いて掠れてしまった。
『とにかく、家に行ってみよう…』
『あ…う、ん…』
家という単語に反応したものの、なかなか動かないシャオンをアレンが無理矢理引張っていく。
二人の家は隣同士で、裏口からはそう遠くない位置にある。
幸い周りには倒れている人はいなかった為、シャオンは段々と落ち着いてきた。
―カチャリ
シャオンは意を決してドアを開いた。
恐る恐る家の中に足を踏み入れたが、暫く本当に自分の育った場所なのか分からなかった。
シャオンの後ろから差し込む真っ赤な夕陽で照らされた部屋の中に、大量の紅い液体が流れている。
窓は割れて花瓶は粉々になって床に散らばり、足の踏み場が無い。
テーブルやイスは全て倒れており、相当抵抗したのか、壁や床には刀傷が多く見られた。