2ー(10)
「安静にしていて下さいね」
そうシャオンに念を押してセレスティアが部屋を出て行った後、シャオンは染みの無い真っ白な天井をみつめて3年前のことを思い出していた。
(誕生日プレゼントかぁ…)
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『明日は――の誕生日だから、今から下の街に行ってプレゼントを買いたいの』
まだあどけなさが漂うシャオンがアレンに話し掛ける。
『え~!大人達に勝手に村から出るなって言われてるじゃん』
眉間にシワを寄せて、今よりも幼いアレンが答える。
『だって、父さんも母さんも街に行くこと絶対許してくれないし…』
『じゃあ去年みたいに手作りの物にしたら~?きっとあいつも喜ぶよ』
『この前来た商人さんがもってた外の国の珍しい石…あれの首飾りをあげたいのっ!』
『去年の腕輪も綺麗だったよ~』
興味無さそうに言うアレンに憤りを感じて声を荒げる。
『綺麗な青色の石だから、きっと二人に合うと思ったのに…』
彼にもアレンにも似合いそうなその首飾りは下の街にも売っていると商人は教えてくれた。
『二人…?』
『もうアレンなんて知らない!一人で行くから告げ口しないでよっ!!』
『え~シャオン!?だめだってばぁ!』
街に行く気満々のシャオンに驚いてアレンが止めようとしたが止めきれず、かといって放っておけもしないので、結局二人で街に下りた。
なかなか見つからない首飾りを漸く見つけたのは、日が傾き東の空が薄暗くなりかけた頃だった。
『ちょっとヤバいんじゃない?急いで帰らないと日が沈んじゃうって!』
急かすアレンに、やっと店から出てきたシャオンの喜びの表情が焦りにかわる。
『ヤバっ…アレン、村までダッシュよ!!』
『えぇ~やっぱり?』
走り出すシャオンに追い付くと、やばいと言いながらも嬉しそうな彼女の顔をみてアレンの頬も緩む。
『じゃあどっちが先に着くか競争だね~』
『臨むところよっ!』
笑い合いながら一緒に帰り道を走る二人が村の異変に気付いたのは、村まであと少しの林を抜けた時だった。
少し前を行くアレンが突然足を止め、追い付いたシャオンの腕を掴んで引き止める。
シャオンはいきなりのアレンの行動に戸惑った。
『ハァ、どう、したの?』
呼吸を整えながら問うシャオンに、厳しい表情をしながら無言で村を見つめるアレン。
掴まれた腕を強く握られ、シャオンが眉をひそめる。
『アレン…?本当どう『おかしい…』』
『?』
『村が、おかしい…いつもと違う』
普段見ないアレンの真剣さに、シャオンの顔も強張る。
ハッとして村をよく見ると、微かに煙が上がり焦げ臭い匂いが漂ってくる。
それと混じって、嫌な匂いが鼻をかすめた。
『これってまさか…血の、匂い…?』